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200機のドローンを3Dプリンターで作ってわかったこと-vol.3- 3Dプリント生産ノウハウ

いよいよvol.3は実際に生産をする上でのノウハウあれこれになります。
今までは少し真面目なトーンのものでしたが、ここからは現場での生々しい感じでお送りできればと思います。

※経験豊富な方には、全く当たり前なことで十分な内容ではないかもしれませんが、基礎的な情報として記載させていただきます。

【目次】
1:プリンターを設置する部屋の条件
2:最大の敵は湿気。
3:プリンターの台座はしっかりがっしりさせておくべし
4:複数台稼働ワンオペは地獄の始まり、二人でやろう
5:5回に一回は定着不良になる。が落ち着こう。
6:出力可能範囲に目一杯並べて出力で量産するとこうなる。
7:電源回路は別系統にしておけると悲しみが少なくてすむ。
8:機械に故障・不良はつきもの壊れたら分解して仕組みを知ろう。
9:結局ベッドレベル調整が一番重要で、一番時間かかる。
10:大口径ノズルでTPUがすごく綺麗に出る。


1:プリンターを設置する部屋の条件


プリンターを設置するのに外が適さないということは、なんとなく見ればわかると思いますが、具体的に何が良くないかというと、

・風が吹く。
・温度が変わる。
・直射日光が当たる。
・雨が降る。
・湿気が変化する。

上記の条件において、3Dプリンターは弱点を持っているからに他ならない。
風が吹くと、材料の冷却がまばらになってしまい定着不良になってしまう可能性がある。温度が変わることも同じ理由。
直射日光に当たると、材料が劣化して製品品質が変わってしまうし、雨が降ると基盤がやられ、湿度が変わってしまうとこれまた材料が劣化してしまう。
そして、なかなかこの条件をお外で満たすことは難しいかと思う。電源引っ張るのも大変ですからね。

そう、だから3Dプリンターはまず屋内に置く必要があります。

そして、この上記条件の中で優先度高く重要なのが、
「湿度と温度」となります。

湿度と温度は成形成功率に最も関係してくる要素なので、この2点をまずはコントロールできる部屋が望ましいことになります。

湿度は低く乾いていることが理想的です。
冬場の部屋くらいに10~20%乾いていることが理想的だと思いますが、静電気が発生してしまうのでもう少し高めにあった方がいいですね。
温度は実は高い方が良く理想的です。
冬場の寒い時期に出力をしてしまうと出力が終わった部分の材料が冷えて固まり始めてしまい、その結果収縮し定着不良ということはよくあるので暑い時期に出力するのが良いです。

しかし日本の夏は無情にも高温多湿なので、条件的にはあまり望ましい環境にないので温度はクリアしていても湿度をクリアできる建物をしっかり見つけるたらラッキーと思ってください。

ダメな部屋としてこんな感じでしょうか?
一階角部屋木造築45年とかは、めちゃくちゃダメです。
湿気を逃さず、冬がアホほど寒くなります。

いい部屋は、漆喰や土壁などの湿気をコントロールしある程度室温も一定を保つ部屋が良いかと思います。

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ちなみに自分が使用している場所は、トタン壁&屋根で冬は寒く夏は暑く湿気は外とそう変わらないというあまりいい場所ではないのでそういう場所があればぜひ移動したいです。


2:最大の敵は湿気


上記しています通り、湿気は材料を劣化させる主たる要因でありいかにこの湿気と戦うかが3Dプリントをする上で避けては通れない道です。

湿気と戦う方法は主に二つです。

・材料を事前に乾燥させておく。
・部屋を乾燥させておく。

材料を事前に、なんなら保存している間は常に乾燥させておくことが重要です。そして、実は購入したての材料も品質のバラツキや納品までの間で吸湿してしまっている場合があるので、材料が届いたらまずは乾燥をさせることをオススメします。

機材としては画像のような成形屋さんでは一般的な棚乾燥機を使うという手もあります。

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はたまたこのようなドライフルーツメイカーを流用させることも良いですね。安いですし。
あとはホームセンターで売っているようなクリアボックスに布団乾燥機を連結させるのもありかと思います。

とにかく材料は乾燥させておいて、悪いことは一つもないですので必ず乾燥させておきましょう。
乾燥させる上で重要なのは、それぞれの樹脂が持つガラス転移点以下の温度域にて乾燥をさせることです。
ガラス転移点とは、簡単にいうと樹脂がふにゃふにゃになり始める温度のことで、この点を過ぎると樹脂がフニャッとして最悪くっついてしまったりもしてしまうので、この点を過ぎないように温度は管理するようにすることがオススメです。

実際に、PLAの場合は50°程度の温度で12時間以上乾燥でおおよそ使用に適した状態になりましたので参考にしてみてください。


3:プリンターの台座はしっかりがっしりさせておくべし


これもなんとなく肌感でわかるかと思うのですが、プリンター本体が揺れると精度が下がります。
ただし、上下方向での揺れが発生しなければそこまで造形が失敗するということでもないので、おおよそどの机でもある程度なんとかなります。

机の上に置く理由はそれぞれあるかと思いますが、一番多い理由としてプリンターを縦積みして床面積を減らしたいということがほとんどかと思います。
その上でですが、通称イチゴラックというスチールラックなどをプリンターの寸法に併せて購入されても良いかと思います。

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自分は、あまりイチゴラックを納入する時間すらなかったので自作の棚をセコセコと作ってそこに収めて行きました。

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ちなみにあまり良くない例としてはこのような会議机はプリンターの振動に同調してしまい大きな揺れが発生してしまいますので、使用は控えた方が良いかと思います。
どうしても使用したい場合は、何かしらの補強を入れて使用することを推奨します。
それか、地面に何か敷いて直置きでも問題ないので床面積に余裕があるのであれば、まずはそちらで試してみても良いかと思います。

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4:複数台稼働ワンオペは地獄の始まり、二人でやろう


3Dプリンターを一台だけ見るのであれば、時間差も何も気にせず気楽にやっていればいいですが、2台、3台、、、10台と複数台になるに従い徐々にどうしようもない地獄に出くわすことがある。

それが、10台連続稼働をさせた場合の固体による造形途中失敗や故障による生産終了タイミングのズレが必ず発生し、それぞれ個体によって終了タイミングが変わってしまうため成形品の回収・リスタートがそれぞれ個別のタイミングとなり一斉に回収することができず、1時間間隔でリスタートと回収作業を繰り返すことになる。
そして夜間も動かす生産スケジュールで、それも一人でやるのであれば当然休む暇はなくなってしまう。

このサイクルはかなり身体的にも精神的にも休まる時間がないため、可能であれば2名以上の体制でこちらは回すことを強く推奨します。

またこの地獄を見ないための生産計画の引き方として、ある程度の不良率をスケジュールにいれておくことが重要になります。
例えば、10台で同じ部品を生産するのであれば、10台のうち2台がなんらかのトラブルが発生するとしておきフル生産時の8割というところでアウトプットスケジュールを弾くことで、失敗してしまってもまずはそのロットにおいては無視し、次回のロットに併せて調整・再稼働させることで終了タイミングのバラツキは解消することができます。

このように複数台を同時に稼働させることは、少し工夫することが必要なりますので、状況に合わせた生産スケジュールと体制を引いておく必要があります。


5:5回に一回は定着不良になる。が落ち着こう。

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実際にはそんなに定着不良にはなりませんが、これくらいの気持ちで持っておくとかなり気持ちが楽です。
本当に画像のようなオブジェが出力終わっているはずの時間に出来上がっているともう泣きたくなるというか泣いてしまいます。

そしてどういう時に定着不良になるかは大体見当がつきます。

・ベッドレベルが狂う
・温度設定が適正ではない
・材料が乾燥していない
・エクストルーダーの押し出しがうまくできていない

大体この4点です。

【ベッドレベルが狂う】
ベッドレベルはノズルを変えたり、場所を移動させたり機械に何かしらの変更を加えた際に発生します。
ですので、何か現状から少しでも変更を加えたのであればその都度ベッドレベルの調整を行なっておくことが重要です。
また、機材によっては毎回の印刷ごとにレベル調整が必要みたいな癖のあるかもしれませんので、レビューなどで事前に特性を調べておくのも一つの手かと思います。

【温度設定が適正ではない】
温度設定は、吐出ノズルとベッドの二系統温度設定を行う必要があり、どちらの温度設定も非常に重要な設定です。
一度条件が出ていれば、そこまで気にすることもないかと思いいますが、季節によって室温や材料の冷え方も変わってくるので、最初に出した条件の季節をまたいで生産をする場合などは、なかなか定着しないなと思えば、こちらの条件を見直してみることが良いかと思います。
実際室温は一定にさせることが難しいので、その日の気温などに併せて温度設定を10℃刻みで調整していました。
また自然冷却による大きな反りが発生するABSなどを使用する場合は、ダンボールなどでプリンター全体を囲いをすると保温力が高まるため反りが軽減され成形成功率が上がります。

【材料が乾燥していない】
材料が十分に乾燥していない場合、材料を積層のために融解させ吐出する際に水分が材料間に入り込んでしまっているため、一定の吐出圧をキープできずまばらに定着しグズグズな仕上がりになってしまいますので、十分に乾燥した材料を使用しましょう。

【エクストルーダーの押し出しがうまくできていない】
最後に、エクストルーダーの押し出しが上手くいっていない状態ですが、材料送りのための噛み込み調整部分での過剰な圧がかかっているもしくはかかっていないということが想定されます。
こういった症状は、エクストルーダー側に噛み込み圧調整機能が付与されている機体になりますが、硬い材料や柔らかい材料それぞれに適正な噛み込み圧がありますので、あまりよくあるシチュエーションではありませんが、上手く定着しない場合などはそちらの可能性を探ってみるのも解決の糸口になるかもしれません。

定着不良は、基礎中の基礎であり誰でも引き起こしてしまう一番身近なエラーです。
できる限り事前に調整して、発生を抑えることをしておくのが良いかと思います。


6:出力可能範囲に一杯並べて出力で量産するとこうなる。

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写真から御察しの通り、前面に広げて出力することで大量の部品を一度の手間で出力することができるため基本的にはこの方法を用いて部品を生産することになるかと思いますが、当然この大量に並べた部品の一つのが造形中に定着不良を起こした場合、その定着不良を起こした部品がノズルに引っかかり根こそぎしっかりと定着できていた部品を剥がして回ってしまうことになったりします。
そうなると全てにおいてダメージが大きいですので、少しでもダメージを低くする方法として、スライサーでg-codeを吐き出すタイミングにて設定を変更することで、全てのパーツを同時に出力するから一つ一つのパーツを個別に出力するというモードに切り替えることができます。
この設定にするためには、造形サイズと一度に並べられる個数に条件が発生してしまいますが、そういったリスクを避けたい場合などはこちらの設定を検討してみるといいかもしれません。


7:電源回路は別系統にしておくと悲しみが少なくてすむ。


とても素朴で、基礎的なことですが、ブレーカーが落ちること受けるダメージは計り知れません。
3Dプリンターはヒーターを常時入れておく機構ですので、常時高いw数が発生します。
(自分が使用しているものでは常時650wが消費されるます。)
3Dプリンタータコ足でもブレーカーが落ちますので、できる限り専用電源回路を作って個別のブレーカーを設けてあげることで、そういった初歩的なトラブルを回避し安定性を確保する必要があります。


8:機械に故障はつきもの壊れたらバラし仕組みを知ろう。

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基本的に機械は壊れるものですので、早め早めの点検からの保全活動に努めましょう。
重篤な故障はメーカーサポートなどでしか解消しない場合もありますが、細かな消耗品を点検取り替えができる体制を作っておくことで安定操業することができます。
万が一故障してしまった場合は、時間の許す限り構造の勉強と思って故障箇所の特定をご自身でされることをオススメします。
(サポートセンターへ連絡ができる場合は、状況の説明をし対策方法を仰ぐことも並行して行うことも忘れずに。)
修理をすることで、その機体の特性や発見できていなかった次回故障予測箇所に目星をつけることもできますので、ぜひ挑戦して見てください。
(ただししっかり形を復旧できる程度で留めておくことも念頭に置かれておくと良いかと思います。)

メンテナンスの基本は清掃にあります。
冷却ファンなどは、特に埃が詰まったりするのでこまめな清掃を行いましょう。
また基盤周りも時々ホコリを落としてあげることで、ショートのリスクを低減することができるので併せて清掃しておきましょう。
あとは可動部各所に注油そして、ネジなど締結部が緩んでいないかなど日常的にできることですので、ルーチンに組み込んでおくと安定性が構造するかと思います。


9:結局ベッドレベル調整が一番重要で、一番時間かかる。


定着不良さえなければ余程のことがない限り造形は失敗しませんが、ここが狂っていることが結局一番影響が出てきますので、一度決めたらなるべく条件を変えないように動かさないようにしましょう。
レベル調整にかかる時間はどれだけ慣れてきていても、結局20~30分程度は発生してしまいます。
(ハマってしまうと、平気で1時間弱調整しているということもありました。)
なぜそこまで時間がかかるかは、レベルが本当にあっているかを確認するためには、実際に出力テストをしながら進めるしかないからで、その出力結果を見ながら細かなレベルを調整していくことになるからです。
ここでとにかく待ち時間が発生してしまうため時間がかかります。
この部分は日進月歩で改善が進められていると思いますが、まだ民間に一般化したものが機能として組み込まれるまでもう少し時間がかかるかと思いますので、レベル調整が発生するということは時間がかかるという認識を持っておくと良いかと思います。

10:大口径ノズルでTPUがすごく綺麗に出る。

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最後にTPU出力に関して、実績としてとてもいい出力結果が得られたので現場ノウハウとして共有できればと思います。
画像の通り透明度が高く、積層痕もかなり目立たないような仕上がりになりました。

条件は下記の通りです。
・ノズル直径:0.8mm
・吐出温度:220°
・ベッド温度:60°
・印刷速度:80mm/s
・積層ピッチ:0.2mm
・材料流量:105%


かなり多方面でのノウハウ列記となってしまったかと思いますが、他にも書ききtれない部分もありますので、ぜひリクエストなど頂けますと幸いです。

次回は、実際に3Dプリントで生産しての所感と可能性について記載できればと思います。

vol.4に続く