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抽象化力を育てる...成長の基盤


経営者にとって一番大切な能力のひとつに“抽象化力”があります。

一般的に「抽象」という言葉は、難解な絵画を抽象画と呼んだり、内容が不明確な話に「抽象的過ぎて分らない」など使われたりと日本では抽象論を軽視したり嫌う傾向があるようです。

◯ 本質を掴む

職員を研修に行かせた場合、具体的なハウ・ツーや知識の部分は良く勉強して来るのに対して、その基盤となるコンセプトや理念などの“抽象化”された部分については「重要ではない」と感じたり「良くわからない」と最初から聴いて来なかったり理解してこなかったり...

私がセミナー講師をさせていただく場合も、セミナーの集客のために「すぐに役立つ具体的なノウハウを前面に出してお願いします」という要望をいただく場合が良くあります。
具体的な手法はその組織のミッション(目指すもの)とその組織が置かれている環境(内部・外部環境)により変化しますから、本当は、その基盤にある理念や経営環境の捉え方という抽象化された部分をきちんと理解してもらわなければ本質は伝わらないし汎用性はないのですが...
そういうテーマはセミナーとして人気がないようです(笑)

教育の中でも物事を“抽象化”して捉えて深く思考するという訓練はほとんどされていないように感じますが、辞書を引くと“抽象化”とは「個々別々の具体的なものから、それらに共通する要素を取り出して、一つの概念をつくりだすこと」とあります。
つまり、具体的な個別事象の中から本質的な要素だけを拾い出すプロセスを指しています。
「抽象」とは、「まとめ」であり「本質」を意味しているのです。

◯ “仕事力”は“抽象化力”により決まる!?

一つの事象に対して個々の具体的な事情に注目し過ぎると、その事象ごとの個別の要素だけが浮き上がり、その事象の特殊性や個別性に原因や解決手法が集約され易いのです。
事象を“抽象化”して捉えることにより、その事象を構成する本質的な要素を整理することが可能となり、普遍性が確保され、あらゆる事例に応用できる本質的な知識・価値観のベースができて、経営力や思考力(長期的、根本的、多面的な思考力)が高まるのだと思います。

これは組織に置き換えると「手法・戦術」と「戦略・理念」の違いに似ています

社員は、より具体化され示された「手法や戦術」により「今何をすべきか」「自分の役割は何か」を理解しますが...
幹部に求められるのは“抽象化”された「理念や戦略」から具体的な手法や戦術を組み上げる力であったり、日々の事情を“抽象化”することにより本質的な要素を整理して次の戦略にフィードバックする力にほかなりません。

そして、経営者の役割は、理念やビジョンを明確にして社風として浸透させることにより社員も自然に“抽象化”による本質的な課題認識ができる力を育てていくことにあります。

◯ 社員の成長も“抽象化力”の育成がカギ

ですから、この抽象化力は個人の成長にも大きく関係してきます。

“抽象化力”が身についていない人は、自分自身の「壁」にぶつかった時に、具体的な個別事情や特殊要素にこだわり過ぎて、その個別事情に左右されて全体や本質を見失い、解決方法が見つからなくなり、どんどん出口のないトンネルの中に追い込まれていきます
何故なら、自分では解決できない自分以外が原因の個別事情に原因を求めてしまうからです。

これに対して、自分の「壁」を抽象化して捉えることができる人は、自分固有の個別事情や特殊要素から離れて客観的に自分を眺めることによって、逆に、その「壁」の本質に迫ることができる可能性があります。

それによって、その課題は一般化され、自分で可能な自分自身の課題となるのです。
さらに、その「壁」の本質的な要素を整理して自分の知識・価値観として蓄積することにより、次々現れる自分の「壁」を突破し続けられるための力をつけることができるのです。

「成功者は無限のものに頼り、失敗者は有限のものに頼る」という名言がありますが、これは「環境や相手のせいにすれば限界がある、自分に原因を求めれば無限となる」という意味でもあり、自分と向き合って、自分に原因を求めることのできる能力は“抽象化力”から生まれるのかもしれません。

つまり、「自分と向き合い思考する力」とは“抽象化力”のことを指し、人が「成長する」とは「抽象化によって価値観が蓄積されること」を指しているような気がします。
 枝葉にこだわらず本質を見極めるために、私たちは「抽象化力」を身につけなければなりません。

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