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このまま、くねくねとくねくねと、どこまでもどこまでも

高速道路の入口で一旦オートバイを止めて
かけていたサングラスを外しゴーグルを下す
毛ムクジャラの口元は相変わらず露出したままなので
湿った風が顔の皮膚にジットリとまとわりついてくるのがわかる
梅雨の晴れ間だとて湿度はかなり高い

いくつかトンネルを越えるとほどなく静岡に入り
電光掲示の制限標識が120km/hを示す
30年前のオートバイと云えどもドイツ生まれのクロ介
水を得た魚のごとき走りを見せる

5速 4000rpm

クランクに伝わる固い振動が全体を包む
「まだいけるよ」とクロ介は唆すが
顔に喰い込むゴーグルの感触がそれを阻む
ボクがジェットヘルとゴーグルを愛用する理由はまさにこれで
高速走行で落ち着かないゴーグルがクロ介の誘惑から気を逸らしてくれる

浜松浜北で下へ降りて天竜の街を過ぎ、国道362号線へ進む
春野辺りまで気持ちの良いワインディングが続き
中央線も破線でストレスがない
火伏の神、秋葉神社の下社を過ぎると
おおらかな流れの気田川とたびたびクロスするようになる

久しぶりに来たからやっぱり天狗を見に寄る
何度か見てるけど天狗ドンの目ん玉に照明が仕込んであるのを発見
初めて気づいたよ
夜中に光るのか?(コエーよ)

にしてもいっつもツルツルのテカテカの天狗ドン
三尺坊という坊さんが天狗になって火伏の修業を秋葉山でしたことから
このあたりに天狗伝説があるのだそうだ
ここ遠州の東隣の三河にボクは住んでるけど
ボクの集落にも「あきやさん」の小さな祠があるし
秋葉講もまだ存在しているくらい身近な存在だ
「秋葉みち」とよばれる街道が広範囲に今も残っている

このまま気田川の美しい流れをたどるため
国道を離れ谷筋を北へ延びる県道に入る
県道389号線はその取っ付きが狭いが
分岐点には立派な柱が立ち
「森とロマンの道 水窪森線」としっかり記されている
途中の勝坂という集落に古くから神楽が伝わっていて
その神楽が開かれる秋には人が集まるようだ
柱の上には神楽で舞う獅子のかしらが乗っている

この街道の最後の集落「門桁」まで19km
しかしこの19kmが大げさでなく果てしなく遠い

県道に入るとすぐに有名な「小石間トンネル」
昭和初期の気田森林鉄道の遺構トンネルで中は狭くて長く離合困難だ
先日の豪雨で北端のトンネルポータルの上部が崩れたようで
通行は可能だったがセンサーで監視を続けている
異常を知らせる回転灯に従うよう指示されていた
入口には「幅員3.2m、全高3.8m」の規制標識
オートバイなのでそれほど緊張しないけど実際かなり狭い
トンネル内部は断面に沿ってカマボコ状に並んだリフレクターが
何箇所かあってちょっとアトラクション気分だ

トンネルを出るとまだ川幅広い気田川
山間の開けた場所に野尻と豊岡の集落がつづき
それが途切れるあたりに小さなダム
そして支流の石切川との合流部に大きなトラス橋と豊岡発電所とつづく
発電所が背にする急峻な斜面を一気に下る水圧鉄管の迫力がすごい
ていうか、この水どこから来てるのか不思議だ

この先に勝坂の集落がある
大きな赤い吊り橋とその向こうに神楽の出発点になる勝坂小学校
吊り橋のワイヤーの台座に2頭の獅子
遠州の北部は戦国時代に武田、今川、徳川が入り乱れ
覇権を奪い合った地域なので人の行き来も盛んだったのだろう
小さな砦跡もいくつか残されている

県道389号線は眺望も悪く、整備状況も決して良くはないし
(勿論あれだけの豪雨でもルートが確保されているのは相当の努力がある)
気の利いた食堂どころか店と呼べるものすらほぼない街道だ
けれど、日本古来の山村風土がまだ感じられる好いルートだ
神社や砦跡など見どころも多いので歴史好きにはおすすめできる

勝坂を越えるといよいよ道は心細くなる
横目に見え隠れする美しい渓流とは裏腹に路面状況はさらにシビアさを増す
流れ出した土砂やコブシ大の落石
落ち葉枯れ枝が散乱し、濡れたがびっしりと路面を覆う
おまけに幅員は激狭(ゲキセマ)だから
気を付けていないとラインを失う
すぐ西側の尾根筋を北上する天竜スーパー林道が「陽」のルートなら
その東側の谷筋を北上するこの県道389号線は「陰」のルートか

初めは美しい流れに目を奪われ俄かに気分が高揚するが
次第に、走ることそのものに没頭している自分に気づく
くねくねとくねくねと本当にくねくねと
シビアな路面に神経を研ぎ澄まして(神経を削られて)2時間
ただひたすらこの街道をたどり続けた
そして
そうやって走りながら
自分がいったい何処に向かって走っているのかが曖昧になり
やがて分からなくなっていくのだった

―もう何処へもたどり着かなくてもいいんだろ?
このまま、くねくねとくねくねと、どこまでもどこまでも


門桁の集落を抜け、小さな堰の上を渡ると
県道はいよいよ気田川を諦めて峠へと上り始める
急峻な東向きの斜面を600mくらい一気に駆け上がるため
ルートは一度南に向けて大きくトラバースする
しかも複雑に入り組んだ尾根と谷を丹念になぞって行くので
さっき以上にくねくね、いやグネングネンだ
まあ上りなのでライディングは楽だけどね


ひと気のない山住峠に到着
ここに始めて来たのはいつ頃だったか
このシカ君、そん時からずっといるよ

この先、水窪の手前で時間通行止めがあるので
時間調整も兼ねてここで休憩した
駐車スペースの端っこに木陰
イヌザクラか?ウワミズザクラか?
花を盛んにパラパラ散らす
いつもどおりのスタイルで休憩

けれど今日はちょっと違う

「完全めしーーーーー!」
何を隠そう今頃になってドハマリして、今週コレで2個目だ

ブログ ソロツーリストの旅ログ 2023.6.28記事を加筆修正
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