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シーン別!孤高の就活生へ、エレファントカシマシの詞で贈る言葉

 エレカシは不思議なバンドだ。エピック・ソニー時代は、宮本浩次のやりたいこと、あるいは理想を創造するべくすべてが動いていたような印象をうける。うって変わってメジャーに再度復帰してからは、J-Rockのど真ん中をいく音やプロモーションでスターダムにのし上がった。その後は円熟味を増したと思わせたり、逆に思春期並みのイライラをこれでもかと歌い上げたり、一転J-Popど真ん中な曲で大衆を元気づけたりしている。
 そんな幾度の変遷を経たエレカシの豊かな魅力に気づいたのは、就活をしている時であった。

 「小説や詩などは作者がそれを書いた年齢になってわかるものがある」、と高校の国語教師が言っていたが、そういった意味では、10代終わりごろに鮮烈なデビューをしたものの、もがき苦しんでいたエピック時代の曲群にはどこか、焦燥感にあふれる就活生の気持ちと重なるものもある。
 よって今回は就活を軸に、自分の一解釈に基づいて”古き良きエレカシ”を紹介していく。不器用な就活生へのエール(処方箋)としてこの記事を読んでもらえると幸いだ。

とにかく就活を始めたくない時        3月~4月まで

浮き草(1988,1st album『THE ELEPHANT KASHIMASHI』)

 大学というモラトリアム期間の終わりが近いことを、就活の始動は否が応でもわからせてくる。
  大学へ行くのが当たり前の環境でなかった人や浪人した人などは、一足早く社会人になった友人たちに少し焦りを感じたりするかもしれない。近頃はどんどんスタートが早くなっているらしいし、まわりもちらほら、すでに頑張っているやつがいる。自分もそろそろ考えないと、という気持ちが何をしていても横切るようになってくる。そして、私は一体何をもって社会に貢献できるのか、何をしたいのか、はたと振り返って迷子になる。そんなことも往々にしてあるだろう。
  そういったとき、この曲を聴けば力の抜きかたが分かる。それなりにやっておければいい。<普通>にすればいいのだ。皮肉混じりに、思うようにいかなかった青春への怒りを多少なりとも抱えながら、考えすぎず周りに合わせてやっていこうという甘い誘いが、怒りの混じった声からする。曲の歌詞が持っているはずの癒しは、すべて裏返しであると気づく。
 「はたして自分はそれでいいのか?」と思ったら、そのさきには、それぞれが立ち向かうべき、実存的な問題が待っている。

とにかく就活を始めたくない時       正月から春休みにかけて

うつらうつら(1998年,3rd album『浮世の夢』)

 ついに迎えてしまった3回生の終わり。正月にあなたは実家のコタツでくつろいでいる。小鳥は冬も元気に鳴いて朝を知らせてくる。来年も再来年も、こうやって子どもの立場のままでまったりしていたいが、そうもいかないだろうことを親や親せきとの会話で悟る。
 あるいは、1人暮らしで実家にも帰らず家で過ごしてしまう正月。ずっと一人かもしれないし、友人とどこかへ出かけるかもしれない。しかし、あなたはふと訪れる一人の時間に寂しさを覚え、今年中になすべきことをぼんやり考えるかもしれない。
 冬休みや春休み、車でみんなとどこかへ出かける。楽しいが、脳裏にはどうしても就活のことが頭をよぎる。夢、自分のこれからやりたいこと、それはなんだろうか、なんだったろうか。とりあえず今日はそんな現実的なことは置いておいて、限られた愉しい時間を過ごそうか。楽しいことをしようじゃないか。
 そうやってカレンダーが無為に過ぎていく。

何かしらで疲れ果てていて、毎日なにもできずにいることに罪悪感がある時

ゲンカク Get Up Baby (1988年, 2nd album『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』)

 就活をやると決めても、ほんの少しやりかけて止まっていても、人間は嫌なことを後回しにすることが大好きな動物であるので仕方がない。疲れているので何もできない。
  この甘えた現状に対して責める声が内からか外からか、聞こえてくる。分かち合うことの難しい、自罰的な苦しみは、我らがエレファントカシマシが、とうの昔に表現してくれていたのだった。

とにかく選考に通らない時(ES編)

見果てぬ夢(1989年, 3rd album『浮世の夢』)

 就活で一番イライラするのはこの段階だと思う。それなりに行きたかった企業のESの選考はなぜ落ちるのかまったくわからないし、お祈りメールはコピー&ペーストの一斉送信だ。だからといって闇雲にたくさん受ければ余計にプライドに傷がつくだろう。その結果として自分を不必要に責めてしまいがちになることも無理はない。
  ただ、こういったときにこそ、目先のものではない「見果てぬ夢」を追いつつ、誰かをそっと励ませるようなゆとりを持っておきたいものだ。人の思いは十人十色で、ご縁があることもないこともある。それは同じ年に卒業する人たちと採用担当者すべてにあてはまることである。ヘラヘラとシニカルにいるのではなく、思いどうりにいかない浮世をポジティブにやりすごそう。そうすれば、笑顔でいれることもあるし、優しくあれることもあるし、マシな気分でいれるかもしれないだろう。

とにかく選考に通らない時(面接編)

待つ男(1988年, 2nd album『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』)

 ほとんどの人にとって面接とは、初対面の大人たちと対峙することの連続だろう。その結果には、本当に私のことを見透かした上で落としているのか、納得がいかないこともあるに違いない。しかし、当然ながら文句は直接言えない。そうやって溜まったイライラを代弁しているように感じられる一曲がある。
  「富士に太陽」の景色ぐらいどっしり構えよう。面接までいけているのだから、きっと今が踏ん張り時だ。

世間的に就活末期なのに内定が出ないとき

この世は最高!(1994年, 7th album『東京の空』)

 「この世がどうにもならねぇぐれぇは誰でも知ってらぁ❗❗❗」
 夏休みを過ぎたぐらいからはますますヤケクソになってくることもあるだろう。そんな自分に厳しいあなたに、さらに怒りを爆発させた曲をおすすめしたい。
 周囲の、本来大切にすべき人々が自分を案じてかけてくれる言葉でさえ、バカにされているように思えてはねつけてしまう。そんなどうしようもないささくれ立ち方をするのがこの時期である。
 「この世は最高!」を聴けば、メジャーとの契約が切れることを目前にしながら我が道を捨てられなかった(あるいは行き詰っていた)宮本浩次が、曲を聴く君と一緒にフラストレーションを爆発させてくれる。

寒い季節になり、就活の孤独に耐えかねた時

星の降るような夜に(1994年, 7th album『東京の空』)

 理想と現実の間で、楽な道を選ばず、または選べず、1人戦い続けていく人もいるだろう。そんな若者たちにこそ、宮本浩次は優しい。求めるものには寄り添って、肩でも組んでブラブラ歩いてくれるのだ。
  自身の荒んだ内面とは裏腹に、頭上にはキラキラとした流れ星が見える。
 今夜、長い夜を過ごす自分のすべきことは、坂道を上ることだ。眺めのいい秘蔵の場所、もとい自分を拾ってくれる<いい会社>を目指して、いけるところまで歩くのである。そしてそこから、自分の描けるだけの見果てぬ夢を、星の輝きに託してみよう。