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こども六法って何だろう?

かわいい表紙とは逆に中身はとっても真面目な本。

ふりがな付きの易しい言葉で主に子どもに関係のある法律をピックアップし、表現をかみくだいて、いろんな条文が紹介されています。

優しい日本語というのがありますが、外国の方や子どもに向けて簡単な日本語で説明するというのはどんなことでもなかなか難しいものです。

本書のあとがきには

法律はみんなのためのルールなのに、みんなにわかるように書かれていないーそんな問題意識から制作が始まりました

とあります。

たとえば「いじめ」や「いじり」の問題を解決するにはどういう方法があるでしょうか。

法律はいわば社会のルールです。学校に校則が職場に就業規則があるように、まるで常識のように暗黙のルールが存在します。

それはなぜかと言えば、ルールの無い共同生活は成立しないからです。

自分勝手な都合で相手に迷惑をかけ、それを取り締まるシステムも無ければトラブルは絶えないことでしょう。

その意味で、法律とは強制力の伴った社会的な問題解決の道具と言えるでしょう。

何か大きなトラブルが起きた時は専門家の力を頼るしかありません。しかし、例えば犯罪を取り締まる法律にどういうものがあるかを認識しておけば、未然に違法行為を防ぐ抑止力になります。

六法とは、憲法・刑法・民法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法の六つを指します。

この中で身近なものと言えば、刑法と民法だと思いますが、この本の中では子どもに関連する法律としてさらに少年法、いじめ防止対策推進法を掲載する代わりに商法を省いた七つの法律が紹介されています。

弁護士と聞くと、全ての条文を暗記し、細かい文言がたちどころに口からスラスラと出てくるように思う方も多いと思いますが、実際はそんなことはありません。

よく民事専門とか交通法に詳しいとか弁護士にもいろんな専門があることは目にすると思いますが、試験に問われるのは六法についてであり、後はそれぞれが生業とする法律を選択しているのです。

条文は検索すれば出てきますが、よく使われる条文は決まってきます。

例えば刑法199条という数字に耳なじみはないでしょうか?

これは殺人罪です。条文は

「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する」

です。あるいは39条も映画になったくらい有名です。

1項 心神喪失者の行為は罰しない
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する

さて、では法律で裁かれるのはなぜでしょう?

刑法を支えるものとして、法律に規定の無いものは処罰を与えられないというものがあります。これを罪刑法定主義と言います。文字をよく見るとそのまんまですね。さて、その根拠条文とは何かと言えば、

憲法31条 何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない

ではなぜ憲法がそんなに強い力を持っているかと言えば、最高法規だからです。なんか習ったような気がするでしょ?憲法は他の法律と違って、法律の親分です。

そのことは、本の中では次のように紹介されています。

憲法はすべての法律の生みの親です。日本のすべての法律は、憲法で決められた手続きに従って作られ、憲法に反する法律を作ることはできません。憲法は法律を作る国会、法律を使う裁判所や行政(内閣)など、国民の代表者を縛るものなのです

生存権や幸福追求権などは聞いたことがありますよね?第9条も論議は尽きません。他にも基本的人権の享有、法の下の平等、信教の自由、表現の自由など、そういうものをイメージすれば憲法の置かれている上位性が分かると思います。

殺人なら子どもでもダメだということは知っているでしょう。例えば線路に石を置いたり、人のいない住居を放火したり、誰かと共同で犯罪を犯したりした場合、どんな罪が適用されるかは、それぞれ法律に規定されています。

逆に言えば、そういう法律があると知っていれば先ほど言ったようにやめようという心理が働くでしょう。

正当防衛、緊急避難、共同正犯、教唆、幇助、従犯減刑、酌量減刑、公務執行妨害、証拠隠滅、(非)現住建造物等放火、往来妨害及び同致死傷、住居侵入等、新書開封、私文書偽造等、偽証、強制わいさつ、公然わいさつ、殺人、傷害、傷害致死、暴行、過失傷害、過失致死、業務上過失致死傷等、遺棄、保護責任者遺棄等、遺棄等致死傷、逮捕及び監禁、脅迫、強要、未成年者略取及び誘拐、名誉毀損、親告罪、信用毀損及び業務妨害、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、横領、器物損壊等

どうでしょう?読み飛ばしました?大丈夫、罪にはなりませんよ。

眺めてみれば、日々ニュースで耳にする犯罪が列記されていますね。これらは何となくイメージできると思いますが、子どもでも分かるように説明するとなると中には難しいものもあるのではないでしょうか?

そして、ほとんどの人が実際の条文に当たるという機会は無いと思います。

日本は法治国家ですから、法律家と呼ばれる人たちは根拠となる条文を提示しなければなりません。その際にどんな法律がどこに書かれていて、当該事例にどうあてはまるかという主張をして、解決することになります。

しかし、規則というものは例外がつきものです。

例えば、ネットが無かった社会では考えられなかった犯罪が起きた時、根拠となる条文もある程度の幅を持って解釈をする必要があります。

その幅を決める解釈の基となるのが、判例です。

判例とは裁判所がかつて判決を下した裁判例です。類似の事例について裁判所がどういう結果をどんな根拠で導き出したかが基準となります。

あるいはこれから基準となっていくものが増えていくのです。

法律を扱う番組で同じ事例なのに、それぞれの弁護士の主張が食い違うのは、どの条文を根拠にしているか、あるいはその解釈の幅に違いがあるためです。

法律家とは、いわば法律という道具の扱いに長け、たとえ初めて見る細かい条文でも論理的に構成して主張の根拠を作れる人と言い換えれば分かりやすいでしょうか。

もし条文だけで全ての問題が解決するなら、話題のAIで済むことでしょう。しかし、人間同士のもめごとは人間でないと解決できないから法律家は存在するのです。条文も一つで済むとは限らず、複数を組み合わせて主張する場合も出てきます。

少なくとも今のところはそうです。

『こども六法』は、社会のルールをざっと知るだけでも優れた入門書だと思います。

先日、本屋さんで前にいたおじさんが、床に落ちていた本を拾い、埃を払うと本棚に戻していました。こういう人ばっかりだったら法律なんていらないのかもしれませんね。


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