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3600万人の優しい高齢者たち

先日のちきりん氏のVoicy(有料回)を聴いていたら珍しく声を荒げてる感じで驚きました。

ちきりん氏はかねてから、お金が十分ある高齢者にまで自己負担を軽減するような福祉施策をしたり補助金を出したりするのは、働き盛りの若者に重い負担になるばかりなのでやめたほうがいいんじゃないの、と主張されてました。

ところが、最近それに「頑張ってお金を貯めた高齢者のお金をむしり取るようなことをするのはよくない」的な批判が来たそうで。

詳細はぜひ実放送を聴いてくださればと思いますが、この批判に納得いかないちきりん氏が「それは自分の努力だけでお金が稼げたと思う傲慢な自己責任論でしかない」などとして一蹴する小気味よい回でした(その勢い余って氏は珍しく興奮気味だったというわけです)。

マイケル・サンデルの『実力も運のうち』を彷彿とさせる議論で、江草もまことちきりんさんと全く同感です。


ですが、じゃあ「なぜ高齢者はそんなに世の若者に負担をかけてまでお金を貯めようとするのか」と考えると、なかなか複雑さが増していく話でもあります。

たとえば、健康保険の自己負担割合など「高齢者が金銭的に優遇されてる」云々の議論の時、素朴に「高齢者 vs. 若者」の二項対立の構図に回収されやすいのですが、話はそう単純でないから厄介なんです。

なぜなら、高齢者がお金を貯め込むのは他でもない「若者」のためを想ってのことだからです。
ただし、その「若者」というのがあくまで「自分の子孫」であるだけで。

お金持ちの高齢者様方がこぞって相続税対策に血道をあげてることから分かる通り、彼らも別に「自分たちが贅沢しよう」という私利私欲でお金をケチっているわけではなくて、愛する子どもや孫たちが苦労しないように少しでも多くの資産を残したい一心なんです。

江草も子どもを育て始めて実感しつつあるのですが、確かに子どもはかわいすぎるので、無限の愛を注ぎたくなるのはとてもよく分かります。

つまり「自分の子どもや孫たちのために頑張って貯めたお金を奪われたくない」と、あくまで利他心(利家心?)が基盤であるがゆえに、利己的な気持ちからの行動よりもかえって強力だし際限がないのだと思うのです。

だから「若者の負担を考えろ」と高齢者を批判しても、彼らも彼らで彼らの思う「若者」の負担軽減にまさしく「愛」をもって邁進してる結果なわけで、なんとも噛み合わない困った話なのです。


(なおタイトルにある「3600万人」は日本の高齢者人口の概数ですが、もちろん全員が愛する子孫のために邁進してるわけではないはずなので、あくまで誇張表現ということでご理解ください)

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