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NHKスペシャル「中流危機を越えて」観たけどツッコミどころが多すぎ

NHKスペシャルで二回に渡って特集されていた「中流危機を越えて」を録画で観ました。


今知るべき社会問題として「中流危機」をテーマに取り上げた着眼点は良かったのですが、全般掘り下げが浅いかつ杜撰で、正直イマイチでした。

とにかく「中流危機」の問題を感情的に煽るだけ煽っておいて、「なぜこうなってしまったのか」という「病因」把握を怠ったまま、姑息的な対症療法を「処方箋」として列挙していくばかり。

偉い人からの圧力があったのか、偉い人への忖度なのか、そもそものNHKの実力不足なのかは分かりませんが、あまりにツッコミどころが多くて、査読だったらrejectしてるなあというレベルです。


ツッコミどころを全部書くとめちゃんこ長くなりそうなので、今回とりあえずまずひとつ「グラフ」の問題を取り上げておきます。

中流危機を象徴してるかのように提示されてるグラフの解釈が安直

※キャプチャ画像はちきりんさんのTweetから拝借(ちきりんさんはちきりんさんで別の箇所にツッコミを入れてますね)

2回の放送ともに、この世帯所得の分布の中央値が下がっていることを示すグラフがさも重要そうに提示されます。
NHKとしては「中流危機」を象徴するグラフとして出してるつもりのようなのですが、あまりに解釈が安直すぎます。

このグラフだけでは中流世帯の所得が減ったということは言えません。別に1994年のグラフの山を構成する「中流」世帯が、2019年のグラフの山に移動したとは限らないからです。

素朴に考えて、ほとんど働いておらず所得の少ない高齢者単身者世帯の割合が増えただけという解釈でも十分成り立ってしまうでしょう。

一般的認知度が高い「平均値」じゃなくてあえて「中央値」を選んでるあたりがそこはかとないチェリーピッキング感もかもしだしてます(確かに正規分布ぽくはない分布なので「中央値」を統計値として注目すること自体は変ではないですが)。

このグラフの解釈は実のところけっこう厄介なんです。
このグラフの要素である「世帯」のキャラクターそのものが時代とともに変容してしまうので。
世帯のキャラクターの情報も同時に出さないとちゃんとした解釈はできません。

もっとも、NHKの番組内でも「高齢者・単身世帯の増加や非正規雇用の増加が要因としてある」とコメントとしては出されていました。
しかしながら、それは皆が思う「中流危機」とは異なるのではないでしょうか。
番組内でもドキュメンタリー的に取材されてたような正社員として働いてる世帯の家計が困窮することを「中流危機」と呼ぶべきであって、高齢者世帯の増加は「中流危機」とは言えないでしょう。

だからちゃんと中流危機を裏付けるデータを出したいのならば、中流階級の年収の推移や可処分所得の推移のグラフなどを提示するべきで、たいしたことが言えるとは到底思えない世帯年収の中央値の比較のグラフを出してる場合ではありません。

確かに一見すると中流が落ちぶれているかのように見えるグラフではあります。しかしそんな単純なグラフィカルなインパクトを出したいだけのために、解釈が難しいグラフをたいした補足説明もなく提示するのは知的誠実さに欠ける態度だと思います。


なお、江草はNHKのグラフの取り扱い方を批判しているのであって、現実の「中流危機」の存在を否定しているものではありません。NHKのグラフだけでは「中流危機」の存在を裏付ける根拠としてははなはだ弱いと言ってるだけです。
結論がたとえ正しくとも、それを導き出す過程に丁寧さが欠けていればそれはちゃんと見直されるべきでしょう。



グラフだけでも十分長くなっちゃいましたが、もっともっとツッコミどころがあるので、また後日、続きのツッコミを書いていくかもしれませんです。

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