偶像としての「アイドル」
アイドルの「アイドル」たる面を、1番偏見なしに見れるのは
実は「ファンでない人」なのではないかと思う。
この人はどこの出身で、家族構成がどうで、どんな理由でアイドルになっただとか、
そういった知識がない人間が見るアイドルは
テレビや雑誌といった「枠」の中に存在する、謂わば芸術作品のようなものだったりする。
少し前の世代だと、「アイドルはトイレに行かない」なんて言われていたりして、
アイドルに求められる「アイドル像」というものは正に偶像としてのそれだったように思う。
「芸術作品」として、あるべき姿を追う。これこそがアイドル、という考え方が確かにあった。
最近では、バラエティ番組で身体を張ったり、SNSの普及で日常が垣間見えるようになったりと
時代に合わせてアイドルも概念的なものではなくなりつつある。
それは正に、アイドルの在り方の多様性を表していて
たとえば世間の意見に反するようなことをあっけらかんと発言したり、堂々と恋愛禁止の掟を破ったり、そしてそれをアイデンティティとして個を確立させるアイドルが次々と生まれてきた。
それは現代を生きる私としては、時代に合わせた真っ当な「変化」だと思うし、
アイドル戦国時代と称される今を生き抜くための知恵であるとも思う。
しかし、そんな中でも変わらずに偶像としての「アイドル像」を追い求め続けているアイドルも、間違いなく存在している。
所謂「正統派アイドル」と称される類の人達だ。
世間の評判でもそう言われることが多いが、アイドルファン「ではない」私から見ても、
アイドル像を追求し誰よりも「正統派アイドル」たり得たのは
元AKB48のまゆゆこと、渡辺麻友さんであるように思う。
実際の性格はどうか知らないし、受動的に目や耳に入ってくる情報から総合されたイメージに過ぎないのだが、
そのイメージの中で正統派アイドルたり得ることこそが
かつての時代でアイドルと呼ばれる人達が目指した姿なのだと思う。
そんなわけで、アイドルファンではないにしろ
まゆゆが個人的にかわいいなあと思っていた私だが
ある日ネットで彼女のインタビュー記事を読み、彼女のことがもっと好きになった。
――AKB48にいた11年間を振り返って、得たもの、また反対に失ったものがあれば教えて下さい。
それは正に、私が東京で働き始めて直面した問題と一緒だった。
「長く働けば、負担が楽になるわけではないけれど、ストレス耐性がついて仕事が楽になるよ」という上司の言葉。
確かに、小さなことに心動かされない分凹んだり悲しんだりすることなく仕事をこなしている一方で、
エレベーターのボタンを開けて待っておくとか、他人が落としたものを拾うとか、そういう小さな優しさまでも失ってしまっている先輩方の姿。
「東京の生活がいつまでも辛いのは、自分がそこに馴染もうとしていないからだ」とわかっていながら、あんな風に冷たい人間になりたくなくて足掻く日々。
ここで働き続けるのか、田舎に帰ってゆとりある心持ちでのんびり暮らすのか。心を失くしてまでここで働く意義があるのか。
結局、私はまゆゆのように心を無くす決断まではできなかった。
小さなことに悩んだり凹んだりもするけれど、小さな幸せに喜びを感じて生きていきたいと思った。
アイドルとして「完璧」とまで言われ、多くの人に愛されてアイドル人生を終えたまゆゆは
その裏で、どれだけ小さな幸せを捨ててきたのだろう。
そうしないと生きていけないアイドルとしての人生、AKB48としての人生は、彼女にとってどれだけ辛くて、どれだけ大事なものだったのだろう。
引退して、インタビューでこういった発言をするようになって初めて
彼女は他の多くのアイドル達と同じく、概念的なものではない、1人の女性として
アイドルファンではない私の目にも映るようになった。
ここまでこの記事を書いてきて、ふと気になって調べて初めて知ったのだが
彼女は現在24歳。私と誕生日が2週間程度しか違わなかった。
今は失った心を取り戻そうとしているんですけど……何年もこのスタイルでやってきたから、なかなか上手くいかないです。悲しいです。
先ほど引用したのと同じインタビューでの発言だ。
AKB48を引退したことで、偶像から1人の女性へ戻った彼女が
これから失った心を取り戻し、小さな幸せや感動に心を動かせるようになりますように。
この記事で何度も書いたように、私はアイドルファンではないけれど
まゆゆと同世代の1人の女性として、彼女のこれからの人生の幸せを願いたいと思う。
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