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2022年1月の記事一覧
【短編小説】山野辺ゆきみと篠井研/冬
始業式のあと、下駄箱で靴を履き替えたけんちに「よう」って挨拶したら、けんちは最初、知らない人用の顔でアタシを見た。それから、「は?」って言って、目をパチパチさせた。
「べゆみ、髪」
アタシの髪は、肩甲骨にかかるぐらいあったんだけど、新学期が始まる前に、耳が隠れるぐらいに揃えて切っちゃった。
「なん……なにそれ」
アタシが自分の長い髪が大好きなのを、けんちは知ってる。
「姉ちゃんとケ
【短編】庸川姐妹、再会に遊ぶ
汎州は胡門府、庸川区。幅広の川による水運で豊かな土地は人の流れも早く、栄える街独特の揉め事も多い。
そうした揉め事を解決する街の顔役のひとつに、馮家がある。あまたの食客を抱え、赴任してくる官吏よりも重んじられる一家である。
その馮家の末娘である馮夏杏は、川沿いの森で木の幹を蹴って、人影を追っていた。
「返せえ!」
数丈先の相手に大きな声を張り上げ、夏杏は、真新しい剣の鞘を握りしめた