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番外編:Juno姉ぇ

ここは、エブ子たちがいるCOSMOSとは、また異なる場所に存在する世界
アラメダリサーチの襲撃も無く、平和が続いたCOSMOSの話し
真夏の太陽が降り注ぐ中、ぐったりとしてしまいそうな天候に、一層ぐったりとした女性がいた。
『もう無理です!』
それは、ついこないだ付き合い始めたばかりの彼から言われた言葉だった。

(これで、何人になったのだろうな)
数えるのも馬鹿らしくなるくらいの人数との別れ。
お見合いを始めたもののなかなかものにはならなかった。

この女性、スタートはいいのだ。
面倒見がよく、料理も得意、その上、とても美人なのだ。
一言でいうならば、『瀟洒』という言葉が似あうのだが。

(なぜ、私と付き合う相手は、直ぐに分かれるのだろうか?)

とても、相手を拘束する癖があった。
そして、頑固なのだ。

(DAO DAO、Gelottoなぜ、私の元を去っていったのだ)
今度こそうまくいくと思っていた。
昔からの知り合いの紹介、そこからお付き合いすることになったのだが、別れまでがあっというまだった。

「Juno姉ぇ、こんなところにいたんだ」

「カヴァ」
彼女の名前は、カヴァ、Junoの妹にあたる意識体だった。
彼女は、イーサリアム側の血を半分引く存在であった。
姉に似ず、派手で人気があるわけでもなく、寧ろ、地味な存在であった。

「テザーとの婚約、おめでとう」

「Juno姉ぇ」
Juno姉ぇよりも、早く、結婚が決まったのだった。
相手は、COSMOSの外宇宙でリソース交換業を営む超大手のCEOだった。
それも、着実に思いを育んでのゴールだった。
そのことが、Junoは姉としては嬉しかったし、同性としては複雑な心境だった。

「Juno姉ぇ」

「それ以上、言うな。お前が幸せならば、それでいいんだ」
だから、自分を慰めてくれるなと、言葉の外で表現するJuno


カヴァは、それ以上は何も言えなかった。
その空気に耐えかねたのか、気を利かせたのかJunoの方がそそくさとその場を去っていった。
だが、その背中は、とても寂し気だった。

「ふむ、これが婚活限界女子というやつか」
そういっていたのは、雲の上から見下ろしていたシークレットだった。

「何を失礼な!」
手刀をつくり、軽くシークレットに振りかざす。
即座に組み立てられたコントラクトが、シークレットの周りに空気の刃を発生させる。

「危ないじゃないか!」

「当然だ。攻撃するようにやったからな」

「初見で攻撃って、どんなけ余裕ないの?」
「そして、なんて、礼儀知らずなの?」

「初見でけなしてくる相手に払う礼儀もないわ!」

「ふーん。いや、僕は事実をいったまでなんだけどね」
その一言が、Junoの怒りの炎を更に燃え上がらせた。

「事実か。そうか。事実といったな」
全てよかれと思ってやったことだった。
努力もした。
それらのことを事実といわれたのだ。
結果を招いたことに対しての。
それは、彼女を怒りの渦に叩き落すのに十分な言葉だった。

「その言葉を吐いたことを後悔させてくれる」
そういうと、仕事で使用しているサーベルを顕現させた。
職権乱用?知らないな。そんな、空気感で呼ばれたサーベルはどこか、ため息をついている様に見えたのだった。

「ふーん。暴力に訴えるんだね。しかも、それ、君の職能じゃないか」
「そんなものまで引っ張り出すなんて、そんなに僕の言い方が正しかったのかな?」

「そうだな。ある意味正しすぎた。だから、お前は私を怒らせたんだ」

「それだけで、一般市民に危害を加えてもいいわけ?」
そういいながら、踏み込み斬撃を放ってきたJunoの一撃を軽く横に躱してシークレットは続けた。

「今の一撃を躱せる相手が一般市民なわけがないだろ!」

「仮に一般市民だったら、君、意識体を一人殺したことになったからね」
そういいながら、次々に放たれる一撃、その繰り返しを同じようにリズムを刻みながら躱す。

「なかなか、いいリズムだったね。ダンスのパートナーとしては一流かもね」

「としては!とはなんだ!」

「あれ、言いたいことが伝わっちゃったかな?」
そう言いながら、シークレットは、片手に銀色のナイフを顕現させていた。

「君はね。少し、コミュニズムが過ぎるんだ」
「それが、相手方の家族観と会わないことに何故、気付かないの?」

「だ、だまれ!」
そういうと、Junoはコントラクトをサーベルに通わせ炎のトランザクションを発現させる。

「これで、切り伏せる!」

「ほら、そういうところも。気に食わないことがあればすぐに暴力で解決しようとする」
「いったい、今まで、いくつの有望なリソースを凍結してきたんだい?」
「いや、燃やしているのに凍結とは、妙な言い回しだね」
そういいながら、左手に黒い霧を纏い金色のサーベルを顕現させるシークレット

何も言わずに、炎のトランザクションにより、巨大な面積を獲得したサーベルをシークレットに叩きつけるJuno
爆炎が、シークレットを包み込み消し飛ばす。
後には、何も残るものはなかった。

肩で息をするJuno
全力を込めた一撃
防がれても、防いだ起点から燃やし尽くすような一撃
だが、シークレットには意味をなさなかったようだ。
空間に網目が生じる様に、モザイクの様に背景が変わりシークレットが現れた。

「避けなかったら、燃やされちゃっていたね」
「危なすぎるね。それ」
ほら、といいながら服の裾を持ち上げる。
そこは、Junoの斬撃を躱しきれずに燃え上がり、綺麗に燃えて無くなっていた。

「そこに隠れていたのか、ならば!」

「もう、遅いよ」
そういうと、シークレットは手に持っていたナイフを投げ飛ばした。
投げ飛ばしたナイフをJunoは躱した。
しかし、それは、Junoのいる空間を切り裂き、まるでクレープの様に空間の切れ端で、Junoを包み込んだ。

「なっ」

「じゃーねー」
最後の方の声は、もう聞こえなかった。
目の前は真っ暗になり、光が灯ったと思ったら、次々と再生される。
これまでの風景。
これまでの別れ。
相手側の目線で再生されていく。
それは、Junoが全力でやり切ったことに対する採点としては、余りにも厳しすぎるものだった。

「って、夢を見たんだけれどどこまでが並列世界?」

「ほぉ、どうやらお仕置きが必要なみたいだな」
エブモスが昼寝をしながら見た夢の内容をJunoに話していた。
テーブルの上には、彼女が作ったケーキと淹れたての紅茶が置かれていた。

「まぁまぁ、エブ子ちゃんもわざといっているわけじゃないんだから」
「それに、『夢』でよかったじゃない!」
そういうOSMOの顔は笑顔だった。
確かに、その通りだった。
もし、夢じゃなかったらやりきれなかった。
でも、それは、ただの夢だったのだろうか?

傲慢に自分の主義で周りを縛り続けた彼女
そんな存在がいないとは言えるのだろうか?
並列する世界のどこか、もしかしたら彼女の可能性としてあり得たかもしれないのだ。
それを見逃すほど彼女は愚かではなかった。
だからこそ
(もっと、まわりに耳を傾けてみようか)
そう心に思ったのだった。



=====
「観測者さん、並列世界のJuno姉ぇを観測してどうしたの?」

「いやね。最近、彼女の真体のブロックチェーン、凄い勢いで色々なプロジェクトが引っ越しを決めてね」
「なんか寂しくなって、彼女に改めて欲しいなぁって思って、こちらの世界に近いJunoさんを観測して、記載してみたんだ」

「わかりにくい愛情表現なんだよ!」

「せやなー。でも、もう一回元気を取り戻してほしいからそう思って観測したんだ」

「相手を思えばこその発言なんだね」



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