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日常編:バレンタイン

バレンタインを前にして、Junoは大忙しだった。
ただでさえ忙しい仕事の合間を縫ってのイベントの準備。
いつもお世話になっている人、家族、友人、知人。
そういった自分に関わってくれている人に対するお礼の日だと彼女は捉えているようだ。
だから、配るチョコの数も自然と多くなる。
日々のお礼という意味で。
もちろん。そんなことをやらなくてもよいと、気持ちだけで十分。
市販のもので交換しましょ。その方がお互い負担にならないでしょ。と言ってくれる友人もいるが、それを許せる彼女ではなかった。
自分の思いを込めて作ることに意味がある。
それは、市販の品じゃ不可能だと。

とにかく、Juno自身が納得しないのだった。
だから、合間を縫って作成しているわけだ。

「Juno姉ぇは、やるべきって思いの強い義務の星だからね」
そんなことを去年、今年と同じように合間を縫って大量にチョコを作るJunoにエブモスが言って来たのを思い出した。

「なんだ?その、義務の星とは?」

「んーとね。ブロックチェーンの意識体にはね。6つの属性があるんだよー。その中でも義務感が強いのが義務の星なんだって」
そういって、綺麗な図説を鞄から取り出し見せるエブモス

「エブモス、これ、お前が考えたものじゃないだろ?」

「えー!どうしてわかったの?」

「エブモスにしては、字が綺麗過ぎる」

「えへー、そこでばれちゃうんだ」

「まぁ、お前の字も味があって私は好きだが」

「ありがとう!Juno姉ぇ!」

「で、これは、だれが教えてくれたんだ?」

「んーとね。アバランチ姉ぇに習ったの!」

「そうか。アバランチなら、こういうことを体系的に知っていそうだ」
「それで、そういうエブモスは何の星だったんだ?」
6つの属性が書かれた図説を指さしながら、聞く。

「わたしは、協調の星なんだって。みんな仲良くいっしょにやるぞーって!」

「エブモスらしいな」

「隣り合う星は仲がいいんだよー。だから、Juno姉ぇとは仲良し!」

「はいはい」
そういって、乗り出してきたエブモスの頭をなでる。

(あの時は、チョコレートの作り方を教えて欲しいと来たのだったな)
(今年はいいのか?)

そんなことを考えながら、キッチンでチョコレート作りを行うJuno
(よし、これは、こんな感じか)
(後は、ラッピングをして出来上がりだ)
そう言って、夥しい数のチョコレートをラッピングして仕上げていく。
そのスピードと正確性は、まるで機械の様だった。
っと、これは、別だったな。

凝ったデザインの袋、その中でも更に意匠を凝らしたものに2つをしまい、特殊加工が施されたものに最後の1つを入れた。
(後は、渡すだけだな)
そういって、少し考えるようなそぶりをしながら、特別な2つと特殊な1つを袋にしまった。

====
「今年は、Juno姉ぇを驚かせてやるんだから!」
そういって、エブモスはシークレットの家のキッチンで、気合を入れる。

「で、どうして、僕も呼ばれたんだい」
「というより、ここは僕の家のキッチンなんだけど」
いつものことだろうけど。そんなことを言いたげな顔のシークレット

「シークレットくんにも手伝ってもらおうと思います!」

「で、実際のところは?」

「難しいので、教えて!」
勢いよく頭を下げるエブモス。
その姿勢は、いっそ潔かった。

「わかったよ」
しかたないなぁという空気を出しながらも、シークレットは頷く。
(Junoさんには、僕もお世話になっているからね)

「それで、何を作りたいの?基本のものは去年Junoさんに習ってつくれるんだろ?」

「うん。だから、Juno姉ぇが知らないものを作って贈りたいんだ」

「なるほどね。でも、なんで僕に聞くのかな?」
少し意地悪をするような顔になり尋ねるシークレット

「シークレットくんなら、秘密にしてくれると思ったから!それと、詳しいでしょ?そういうの」
「シルクちゃん!」

「っく!それをどこで知ったんだ。エブモス」
顔を伏せて、赤らめながら、悔しそうに言う。

「ほうほう、恥ずかしさのあまりに、くっころってやつですね!」

「あぁ、もう!こんな時ばかり人の心を読まないでよ。そうだよ。くっころだよ!もう!いいよ。手伝うよ」

「やったぁ!」

「で、どんなイメージなんだい?作りたいものはさ」

「うん。こんな感じで」
そういって、エブモスはスケッチブックに書き出していく。

「なるほどね。それなら、こんなのはどうかな?Junoさん、珈琲好きだからきっと合うと思うんだ」

「いいね、いいね!さすがシルクちゃん!少女らしさにアンニュイな雰囲気を織り交ぜてビターを売りにしているだけあるね!」

「ははははっ!秘密にしてないと手伝ってあげないぞー」

「ごめんなさい!」

「いいよ。大して気にしてないから」

「さぁ、素材を買いに行こうか」

「うん!」
そういって、二人は買い物に出かけて行った。

=====
《バレンタイン当日》

「あっ、あっ、あっ」

「どうした?何かあったのか?」
目の前の部下が発作を起こしたのかと心配そうにのぞき込むJuno

「ありがとうございます!Juno大佐!」
涙を流して喜ぶ部下たち。
庁舎職員の中でも、何気に人気のJuno

責任感のある頼れる女性、きりっとした風貌
そして、不意のギャップがファンたちの心をとらえていた。
今回のそれなんて、まさにそうだ。

普段は言葉に出していうことも少ない彼女が、実は感謝しているという意思表明。
それが彼らの心をとらえて離さなかった。
女性ファンも何気に、いや、男性ファン以上に多い。
そのことを知らないのは、本人だけだった。

『婚活限界女子』は、本人の自己評価、何気なーくポルカドットに婚活のことを話したところ言われたんだとか。
その後、数日間はポルカドットの姿を見たものはいなかったとか。
いや、乙女に付ける固有名詞じゃないよ。ポルカドット。

だが、そんな不名誉な固有名詞は、彼女自身の思いこみ。
本当は、『限界オタク量産女子』なのだ。

今も、チョコを貰い変顔をさく裂させる限界オタク達を量産しながら、アニバーサリーな品を配っていくJuno
チョコレートは、あっという間になくなっていた。
(ふむ、過不足なく配り終えたか)
(さて、今日は仕事も終えたのだ。帰ってエブモス達にも渡さなければな)

「Junoさん!これを受け取ってください!」
10名をほどの女性職員に呼び止められ、差し出されたのは1枚のNFTだった。
奥には見慣れた部下たちもいた。

「こっ!これは!?」
流石のJunoも、驚いた。
何故なら、そこに書かれていたのは、来週一週間の旅行予約券だった。
それも、3枚。
それは魅力的な提案だったが、忙しいJunoは、一週間休みにすることは出来ない。
来週は、ブロックチェーン間のブリッジにおける合同演習が入っているのだ。
そこの指揮官として、行かなければならないのだ。

悪いが、これは受け取れない。
そう言おうとしたJunoの口が動くよりも早く、彼女の部下が口にする。
行ってきてください。Juno大佐と。
コスモスの印鑑が押されたNFTを右手に持ちながら。
『今回は、中佐が代理として合同演習に参加する』という内容が書かれたNFTの最後にコスモスの字で了承という文字と印鑑が捺印されていた。
たまには、姉妹で旅行に行ってくるといいわ。そういうコスモスのメッセージも込められていた。
おおよそ、彼女の事を良く知らなければ用意できない品だった。

「ありがとう」
そういって、うるっとした瞳になっているJunoが出来上がり、周囲では歓声があがったのだった。

=====
自宅に帰ると、エブモスがニヤニヤして待ち構えていた。
なんでも、キッチンに来て欲しいんだとか。
アイコンタクトをして促すシークレットに気付き、頷き進むと見事なフォレノワールがあった。
「どうしたんだ!?エブモス、これは」

「ふふーん。わたしも、やれば出来るのよ。Juno姉ぇ!ハッピーバレンタイン」
そういって、、エブモスがいうと周りに隠れていたアバランチ、ノノやソラナ、シェードがクラッカー鳴らした。

「いつもお世話になっておるから、今日は、わたし達がJuno姉ぇをもてなすよ」

「私とシェードは、メインの料理をつくったわ」
「そして、ノノは、飾り付け担当よ!」
フンスと胸を張り、自慢げなソラナとウィンクしてOKマークを作るアバランチ
どやら、監修は、彼女がおこなってくれたようだ。

「ならば、お言葉に甘えるとしよう」

「ふー。おい!頼まれたもの買って来たぞ!」
そういって、ポルカドットとアス太が大量のジュースやお酒を抱えてやってきた。

「おつかれー!ポル兄ぃ!アス太くんもありがとう!」

そうして、パーティーが始まったのだった。

(しかし、オズモは今日、見なかったな。どうしたのだろうな)
少し寂しそうにしているJunoを見て、ソラナが肩を叩いてきた。
「心配しなくても大丈夫よ。これ、お姉さまから預かっているものよ」
はい。っと渡されたのは一枚のNFT、しかし、何も書かれていないNFTだった。
「必要な時が来れば、その場所を示す。そうお姉さまは言っていたわ」
そういうと、自分の役割は終わったとばかりに、エブモスたちの輪へと戻っていくソラナ

「あぁーーーー!わたしのケーキ、最後の1つ。あとで楽しみにとっておいたのに!」

「エブモス、こういうときは分けなきゃいけないのよ」

「んーーー。ソラナちゃんには、さっき分けてあげたじゃない!」

「美味しかったのだから、仕方ないじゃない!」

美味しかったなんて言われたら断れないエブモス。
でも、わたしももう少し食べたいなぁと思っていると。

「なら、僕のをあげるから、二人とも」
そういって、ケーキを三等分にして、二人に一切れずつわたすシークレット
お兄さんな対応だ。

「「シークレットくん、大好き!!」」

「あー!二人ともずるい。私も抱っこですわ。兄様」
抱き着く二人に、シェードが便乗する。

「おいおい、両手どころじぇねぇな。こりゃ。モテモテだな。シークレット」
ビールを飲みながら、シークレットを指さしてニヤニヤと笑いながらポルカドットがからかう。

「くっ苦しい」
結構本気で押しつぶされているので、苦しがっているシークレット。
「はっはっは!こりゃー傑作だ!おい、アス太助けてやれ」

「いやですよー。シークレットくんはちょっと反省した方がいいと思います。羨ましい」

「本音でてっぞ、アス太!」
ばんばんとアス太の背中を叩きながら笑うポルカドット。
もはやフリーダムだ。

そんなこんなで、盛り上がったパーティーも終わり、片付けをしていたとき、Junoは部屋の片隅に光るものを見つけた。
それは、先ほどソラナから受け取ったNFTだった。
片付けを終わらせ、エプロンを解き椅子に座りながらNFTを開く。
すると、そこには、先ほどまでは、何も書かれていなかったNFTに文字が書き込まれていた。
(これは、アドレス?)
(ここに来いということなのか?)

少し出かけてくる。
そういって、家を後にする。
特別な包装をした箱を持って。
時間は、22:00をまわっていた。

NFTに示されたアドレスの場所に行くと見慣れない洋館があった。
洋館には不似合いなブザーが扉にはあり、それを鳴らす。
暫くすると、扉が開き、目の前には、文字が浮かんでいた。
『おかえりなさい』と優しい手書きの文字が書かれたそれを後に奥へと進んでいく。
アンティークなテーブルの上に一枚のNFTが置かれていた。
開くと、今年流行のバレンタインソングのオルゴールが奏でられた。

そっと、Junoの両肩から手がまわる。
丁度、後ろから抱きしめるような形で。

「そんなに無警戒だと、リボンつけて食べちゃうぞっ」

どこか蠱惑的な雰囲気に知性といたずら心が同居したような声。

「オズモ」

「Juno、おつかれさま。ほら、座った座った。今日は色々、お疲れでしょ?」

「私、あなたもシークレットくん達と一緒に来ると思ったのよ。だから、楽しみにして待っていたのに」
少し涙ぐんだ声をして、ふるふると震えるJuno

「うんうん。この可愛さが見れただけでも、一緒に行かなかった甲斐があったわね」

「なんて」
そういって、サーベルを振りかざすJuno

「のわぁ!危ない!もう、そんなに興奮しないで」

「そうやて、また、私の気持ちを揺さぶって!」

「そうよ。揺さぶるわ。揺さぶった方が感動が大きいなら、私はやるわ」
そういって、オズモは指を鳴らしトランザクションを活動させた。
廊下に部屋に明りが灯っていく。
少し暗めの照明に照らされた館の中は、暖かさを発する空間になった。

「あなた、ワイン好きでしょ?」
そういて、ワインセラーから一本取り出し、グラスへと注ぎJunoへと渡す。

「今日は、バレンタインだから、はりきったわ!はりきり過ぎて、間に合わなくて、あなたの家には行けなかったわ。ごめんなさい」

「こちらこそ。その。悪かった。頭がかっとなって」

「いいのよ。いいの。私、気にしないから。それに、初めに揺さぶったのは私だし」

「うん」

「それで、バレンタイン。ありがとう。このワイン。探してくれていたのよね」
それは、Junoの誕生日に作られたワインだった。

しかし、オズモの反応は薄い。
それどころか、首をかしげていた。

「違うのか?」

「違うというより、それだけではないというのが正確なところよ」

今度は、Junoが不思議がった。
それだけではない。というのだから、他にもあるのだろうか。
「他にも何かあるのか?」

「うん。驚かないでね」
そういうと、オズモは両腕を広げて回り始めた。

「どうしたんだ?オズモ。酔いがまわってきたのか?」

「ここよ!」

「???」

「ここ。この洋館すべて!あなたへのバレンタインデーのプレゼントよ」

「にゃ!!」
これには、Junoも言葉を失わざる終えなかった。
秘密の隠れ家までの案内、そこまでは想像できた。ソラナのNFTにアドレスが書かれていた時点で。
自分の特別な日に作られたワイン。もしかしたらと思った。オズモがワインを取り出した時点で。
だけど、洋館をプレゼントされるなんて予測できなかった。

「にゃ!にゃ!にゃにをいっているの!?」

「にゃーにゃーにゃーにゃー、猫ちゃんみたいで可愛いわね。Junoにゃん」
そういって、ふわふわのソファーに座った彼女ののどを撫でた後、彼女にしな垂れかかるように抱き着くオズモ。

「ちゃんと理由はあるのよ。ほら」
「家だとシークレットくんやソラナちゃんがいるじゃない」
「だから、ゆっくりできるところがあったらいいなって。このプレゼントは、私に向けてのものでもあるのよ」
だから、そう気にしなくてもいいわと続けるオズモ。

「それに」

「それに?」

「こうして、秘密の空間があった方が二人してゆったりできるじゃない」
そういって、Junoの指の間に自分の指を絡ませ、唇を重ねるオズモ。
「んっ」

「明日は、互いに休みなのだから」

「さぁ、お風呂に入りましょう」

「あぁ」

そういって、二人の姿は浴場へと消えていった。

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