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200字で意見をまとめる:EduA 5月24日号

 EduA 5月24日号の記事「清水章弘さんの200字まとめ作文」を読んで,どうもすっきりしないところがあるので書いておく。
 清水章弘さんの肩書きは教育アドバイザー。東京大大学院教育学研究科修士課程修了。東京と京都で「勉強のやり方」を教える塾「プラスティー」を運営。「中学生からの勉強のやり方」など著書多数。
 note 上で検索していくつかヒットするのは,本の紹介やドラゴン桜メルマガでのインタビューである。本人がnote をやっているかどうかは不明。(検索して出てこないのだからやってはいないのだろう)
 経歴からすると,中高生の学習指導ではプロなのだから,私がどうのこうの言うものでもないと思うが,すっきりしないことに変わりはない。

 この EduAの記事は,「耕論を読んで記述力アップ」というもので,朝日新聞の「耕論」を読んで,考えを200字にまとめよう,というもの。
 今回の題材は,渡邊峻さん(猫の手ゼミナール代表)の 書くためには「読む」習慣 である。
 概要は,次の通り。

 日本の子どもの読解力が落ちていると話題になっているが,本当に国語の能力が下がっているのだろうか。大学生のための塾を運営しているが,教科書の内容が理解できない,授業についていけないという学生は少なくない。彼らの中には国語力に問題を抱えている学生がいる。大学の小論文やレポートで最初の一文が書けずに止まってしまう。彼らの多くは長い文章を読む習慣があまりない。国語力の基礎は「読む」というインプット。本を読む習慣が必要だ。

これを読んで200字作文をするのだが,「まとめのコツ」として,次の4つを挙げている。

(1) 見出しから読めば,理解が早くなります。
(2) 参考になる箇所や,共感できる(できない)意見には線を引きましょう。
(3) わからない言葉や気になることは,辞書やインターネットで調べましょう。
(4) 「意見」「理由」「経験」「結論」の順に,4つの塊を意識して書きましょう。

このうち(4) が疑問だが,それについては後述するとして,まずは作文例と解説をみてもらおう。

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 解説は特に問題はなさそうに思えるだろう。「習慣化」のカッコについては,別に構わないと思うのだが,たいした問題ではない。
 しかし,これが 良く書けている のだろうか。
 中学3年生の作文なら,まあ,良く書けているだろう。しかし,実は高校3年生なのだ。
 どこに違和感があるかというと,始めに,読書を習慣化することが大切であると思う,と書きながらその理由がおかしいからだ。
 2文目の「読書をする習慣は読解力や語彙力のような国語力を鍛えることができる」についての根拠がない。単に,課題文を受け売りをしているに過ぎない。
 なぜかというと,この生徒の「経験」は,「もともと日常の中で文章と触れ合うことがなかった」ことであり,読むことで読解力や語彙力をつけた,というものではないからだ。読書を週一ペースで続けている,と書いているがそれによって何が変わったかも分からない。今まで日常的に文章と触れ合わず,週一で読むペースを続けるようになったが,その結果「国語力を鍛える」ことができたのだろうか。 
 このような,一見自分の意見を書いているようでいて,実は課題文の受け売りに過ぎないものを書く生徒は多い。
 清水氏のいう,「まとめのコツ」の (4) をもう一度みてみよう。

(4) 「意見」「理由」「経験」「結論」の順に,4つの塊を意識して書きましょう。

 これは,200字作文をするときのテクニックを言っているのだろうか,それとも,今回200字作文をするにあたっての条件を示しているのだろうか。
 前者であれば,こんなに危険なことはない。このようなパターン化は,文章を書く上で害になるといっていいだろう。後者であればそれはそれでかまわない。
 実際,この生徒の作文では,「体験」が,単なる体験談に終わっていて,論拠となっていないのである。論拠としての体験を書くならば,「今まで日常的に文章と触れ合うことがなかったが,週一の読書習慣を続けた結果,語彙力が増し読解力もついてきたように思う」とすべきなのだ。
 そうでない場合,つまり,読書習慣がない時点でこの課題文を読んで考えをまとめるのであれば,最初の結論は「私は今まで読書習慣がなかったが,これからは読書習慣をつけようと思う」とすべきだろう。
 しかし,そうするとまた具合の悪いことが起きる。「この二百字作文を機に週一の読書を続けている」と書かれているからだ。これだと,二百字作文を書くことになって読書を始め,その後この文を書いたことになる。
 細かいようだが「のかもしれない」もおかしい。これは推測文なので,そのあとに続けるのはその推測に対する検証もしくは検証の手段について述べるべきなのにそうなっていない。この時点では検証はできていないのだから,「これから一週間に一冊のペースで読書をすることで,文章を組み立てる力をつけていきたい」とすべきだろう。

 このように,この作例は論理的に破綻している。その原因を考えると,(4) の「4つの固まりを意識して」にあると思われる。形式に合わせることだけを考えて,論理を考えていないのである。算数における「みはじ」や,高校の化学の「モルグリコ」と同じ構図だといえよう。