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読解力,着眼点とその実情

 [東ロボ]プロジェクトディレクターで,現在は「リーディングスキルテスト」の開発を主導している新井紀子氏が,「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」「AIに負けない子どもを育てる」の2冊の本を出していることはご存知の方も多いだろう。いま,子どもたちの読解力が落ちている,という話だ。
 いままで漠然と感じていたことがこの本で整理できたのだが,では,読解力とは何なのか,どうすれば育成できるのかについては,いまだに疑問のままである。
 リーディングスキルテストは,次の6つの観点で構成されている。

 <係り受け解析>文の基本構造を把握する力
 <照応解決>代名詞などが指す内容を認識する力
 <同義文判定>2つの文の意味が同一かどうかを判定する力
 <推論>基本的知識と常識から,論理的に判断する力
 <イメージ同定>文と非言語情報(図表など)を正しく対応づける力
 <具体例同定>定義を読んでそれと合致する具体例を認識する力

 このうち,係り受け解析については,小学校で指導されていて,友人の小学校の先生に依頼されてドリルを作ったことがある。
 ということは,これが苦手な児童が多いということだ。
文の基本構造とはいうが,論理的に読めているかどうかが問題になるだろう。

論理的に読む

以前,Twitterで新井氏がこんな問題を出した。

 文の構造(主語・述語の関係)から考えれば,「文部科学省が」「懸念していた」となるのだが,検討していたのは有識者会議なので「文部科学省が」とはならないはずだ。つまり,原文がよくないという話だね,と思って投票はしなかったのだが,結果を見ると,やはり「文部科学省」の方が多い。出題した新井氏は「元の文が悪文」と書いている。

 その後,次の問題も出された。

 こちらは「枝角」に投票したのだが,結果をみて驚いた。
「え? トナカイが34%も?」
しかし結果に対するコメントを見ていくと,なるほどとも思える。
これも,文の構造から行くと「トナカイが」「かがやいていました」になりそうだ。私は,「枝角には」以降の文構造と,状況を思い浮かべて「枝角が金色にかがやいていた」と解釈した。からだは白く,枝角は金色にかがやいている,という状況だ。「火のように」だから,白がかがやくというより,金がかがやくのだろう,という判断もある。
 しかし,トナカイが「白くかがやいている」と思い浮かべた人もいるようだ。新井氏も「どちらも正解で「論理的には」間違いではないでしょう」と書いている。
 ちなみに,原文では,枝角であることが明確なようだ。翻訳があいまいということである。

 これらの例を見ると,読解力とは「論理的に読めるかどうか」ではないかと考えられる。

その設問で読解力が測れるか

 教科書を読んで,空欄に該当する用語をいれたり,用語の意味を書くという授業をしていた。教科書だけでは不十分ならネット調べてもよい。
たとえば次のような設問。

(1) 1984年 東京大学と東京工業大学で(  )の実験が行われた。
(2) Wiki と Wikipedia は違う。
Wikiは(     )
Wikipedia は (      )

といった形式だ。(1)は,答えの JUNET は教科書の年表にあるが,「東京大学と東京工業大学で」とは書かれていない。それでも,年表だけ見れば答えられる。
(2)は,いずれも教科書に書いてあるが,Wikipedia については教科書に書いてあることを短くまとめる必要がある。
 これで「きちんと読めば答えられる」と考えていた。WikiとWikipediaについてはいろいろ表現があるが,解答例を示して自分で判断させた。

 しかし,「AIに負けない子どもを育てる」を読み,掲載されているリーディングスキルテストの問題をやってみて,この設問ではきちんと読み取れているかどうかは測れないのではないかと考えた。その用語の近くにある文を,ただコピーしているだけの可能性があるからだ。
 そこでやり方を変えてみた。たとえば,次のような設問にする。

教科書p56〜67および p178〜180を読み,次の文について,正しければ○,正しいとは言えないか誤りの場合は×をつけよ
(  )POSシステムでは,商品が売れるごとに在庫などの情報が更新される。

この設問を次の4つに分類して正答率を調べたところ次のようになった。

分類:A 教科書にそのまま書いてある          正答率(81.7%)
   B 意味を読み取れば判断できる          正答率(54.4%)
   C どちらともとりにくい             正答率(57.3%)
   D 情報不十分で,文面や体験などを援用して判断する 正答率(43.7%)

Bの結果に驚いた。「意味を読み取れば判断できる」の正答率が6割に満たない。
つまりは,意味が読み取れていない生徒が4割以上いるのだ。
 最も正答率が低かったのは次の問題。(正答率4%)
まず,教科書の記述を書いておこう。

「情報システムは,いろいろなデータをデータベースに保存している。マップであれば,地図や航空写真に加えてー中略ーなど,さまざまな情報を保存しビジネスロジックによって検索,追加,更新できるようになっている。
 情報システムのうち,ユーザとの入出力を扱うユーザインターフェース部分と,データを管理するデータベース部分を除いた残りがビジネスロジックである。ユーザインターフェースからの入力情報にもとづいて,データベースの情報を用いて処理した結果を,ユーザインターフェースに渡して表示させる。情報システムでなにができるかは,ほとんどこのビジネスロジックで決まる。情報システムの本体とも呼べる部分である。」(社会と情報:第一学習社)
設問:情報システムの性能はビジネスロジックによって決まる。

正解は×である。
情報システムは,「データベース・ビジネスロジック・インターフェース」の3つからできているので,ビジネスロジックだけではその性能は決まらないからだ。○にした生徒は,「情報システムでなにができるかは,ほとんどこのビジネスロジックで決まる。」で判断したものと思われる。文章の意味とともに「性能」という言葉の意味,「なにができるか」は性能の一部でしかないことがわかっていないわけである。

読解力は論理的に読む力だけではない。言葉の意味の理解も含まれている。

 今まで漠然と感じていた「なぜわからないのだろう」が,「読解力がないからだ」に落ち着き,さらに「論理的に読むことだけでなく,言葉も意味をちゃんと理解することもできていない」と解釈できるところまでは行った。次は,ではどうすればよいか,だ。

答えはまだないのだが,とにかく,文章を読んで自分の頭で考える,ということを繰り返していかないといけないのではないだろうか。