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ニュルンベルクのマイスタージンガー
私が大学でオケに入って最初に「本番」で演奏したのが,ニュルンベルクのマイスタージンガー序曲である。
オケに入って2ヶ月後,大学の開学祭でのことだ。
マイスタージンガー序曲は,アマチュアではワーグナーの作品の中で最もよく演奏されるのではないだろうか。
その後,市民オケでもよく演奏した。ワーグナーの曲の中では,アマチュアにとっては取り組みやすい曲ということだろうが,決して易しいわけではない。
最初の難関は,ヴァイオリンに来る。階段状に高音Aまで駆け上がったあと,16分音符で降りてくるのだが,その始めの音は前の四分音符からタイでつながっている。
これが曲者で,タイのあとのタイミングがなかなか合わないのだ。高音のAの音程も合わない。指使いが難しいこともあるが,アマチュアは,総じてこのようなリズムータイのあとの16分音符が苦手なのだ。
オケでは,合奏時にメトロノームを鳴らしながら合わせるといった愚はやらないが,アマチュアでの練習時には,場合によっては手を叩きながら拍をとることもある。しかし,それはあまり役に立たないことが多い。何度も繰り返してタイミングを覚えるしかない。
次は,ホ長調に変わっての「愛のテーマ」。ここに dolcissimo e espressivo と書いてあるのが曲者。つまり思いっきり歌おうとするとインテンポにはならない。イタリア歌劇ほどではないにしても,テンポが揺れるところだ。さらに,#が4つという調性。音程とテンポをぴったり合わせていくのが難しい。
木管群には,マイスタージンガーのテーマが軽快に戻ってくる箇所がなかなかの鬼門だ。リズムはあまり問題ない。スタッカートの度合いと音程をぴったり合わせて,木管の混じった音で軽快に演奏しなければならない。
クラリネットはB管を使うので,譜面上はフラットが1つになる。ところが私は,中学時代から使っていたB管が安くて古いものだったから,新品のA管で吹いた。A管だとフラットが6つになる。これはなかなか大変。指が覚えるまで何度も練習した。
さて,指揮者にとっての「作りどころ」は3つのテーマが同時進行するところだろう。(指揮もしたことがある)。3つのテーマのバランスが問題で,いかに各パートの音量を指示していくかだ。
愛のテーマを担当するヴァイオリン、チェロ,クラリネットは気持ちがいいので,つい大きくなりがち。でも,ダイナミックスの指定はピアノ。マイスタージンガーのマーチを担当するフルート,オーボエ,ホルンはあくまでも軽く,背景に隠れるくらいで。そして,マイスタージンガーのテーマのファゴット,チューバ,コントラバスがちゃんと聞こえなければならないが,主張しすぎてもいけない。
ここのバランスがうまくいけば,あとはフィナーレ。思いっきり派手に終わればよい。
まあ,演奏していて,結構楽しい曲ではあろう。しかし,私は,うまくいって満足,という演奏は一度もなかった。それだけ,実は難しい曲なのだ。