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りんどうにて (1)

 いつもはほぼ定刻に来るバスが,今日は5分も遅れた。でも,いつも適当だし,あまり気にしなかった。
 喫茶「りんどう」のドアチャイムを鳴らし,挨拶をする。南の2番目。空いている。
「おばさん,カフェオレ,アイスでね」
注文をして椅子に座ると,おばさんが
「岬ちゃん,健ちゃんがさっき来て,手紙置いてったわよ」
と分厚い封筒を手渡した。
え? 手紙? それに何?この厚さ。
封はしていない。便箋ではなくレポート用紙のようだ。

『岬ちゃん,ごめん。24分ので行く。』
心臓に電撃が走った。
時計を見る。あと2分。
「おばさん,ごめん,またあとで来るから。これ,預かっといて」
おばさんに手紙を渡し,ハンドバッグをつかむと勢いよくドアを開けて走りだした。

 駅前の信号が赤になる。待ってはいられない。車が来ないのを確認して走った。
駅に止まっている列車が動きだした。下りだ。24分は上り。
 切符はどうする? 入場券か。小銭を入れ,入場券のボタンを押す。まだ上りは止まっている。
 と思ったら動き出した。間に合わない。健一はどこ?
 駅員が「岬ちゃん,もう間に合わないよ」と言うのに,切符を見せるのももどかしくホームに入る。健一の姿は確認できなかった。すでに列車はホームを離れている。本当にこの列車で行ってしまったのだろうか。
 バスが遅れなければ。

 りんどうに戻る。おばさんが心配そうに聞く。
「岬ちゃんどうしたの? 健ちゃんになにかあったの?」
「行っちゃったかも」
 南の2番目の席に座り,手紙を読み直す。健一の手書きの文字を見るのは何年ぶりだろう。いや,短いメモはいつも見ている。でも文章で見るのはいつだったか。

ちゃんと話さなかったのは,いやそうじゃなくて,話せなかったのは岬のことを心配したというより,ぼくの勇気がなかったためだ。本当にごめん。
 ぼくの両親は死んでしまったけれど,岬がいてよかった。このままずっと岬を守って暮らしていけば幸せなんだろうと思う。このまちの人たちもみんな好きだ。都会に行ったらひとりぼっちで死んじゃうかもしれない。
 でも,自分を試してみたい。その気持ちの方が大きくなってしまったんだ。
 今までのことを思いつくだけここに書いた。読まなくてもいいし,読んだ後封印してもいいし,燃やしちゃってもいい。今までの岬へのお礼だと思ってくれるとうれしい。

 そこまで読んで,涙が落ちた。行ってしまったことの悲しみより,なぜ話してくれなかったのか。そういえば,それらしいことを言っていたような気がする。そのときちゃんと聞けばよかった。

 カフェオレがきて,おばさんが聞いた。
「岬ちゃん,大丈夫?」
「うん。ごめん,大丈夫だから」

 続きを読む。幼稚園時代のころからの,二人の思い出が綴られていた。


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プロットも何もなく書きはじめた連載小説。何ならあとで書き直せばいいや,と。お気楽というか,ずさんというか。note ならでは。(#書き手のための変奏曲 で味をしめてる)

え? そうです。さだまさしの「とてもちいさなまち」
パクリとは言わないでね。「着想を得た」と言ってください。構想としては,もう一曲あるんだけど,それは内緒。

どう展開するか,ラスト以外は全然考えていない。何回で終わるかも。毎回1000字くらい書けるといいかな。「旅めし」をはさみながら,書いていくつもりです。

りんどうにて(2)