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学び直しの算数:割合

見出し画像は,小学校5年生で学ぶ「割合」の問題です。解けますか。
割合の問題といえば,なんといっても食塩水です。

問題 5%の食塩水200gと10%の食塩水300gを合わせて食塩水を作ると,何%の食塩水になりますか。

 簡単と思われる方は結構ですが,いずれも「割合が苦手」なひとがまちがえそうな典型的な問題です。芳沢光雄著の「%が分からない大学生」(光文社新書)にも類似の例があります。食塩水のごくシンプルな問題について次の例が示されています。

 2012年度の全国学力テストから加わった,理科の中学分野で出題された次の問題も見てみよう。
 10%の食塩水を1000グラム作るのに「必要な食塩」と「必要な水」の質量をそれぞれ求めさせる問題だったのだが,「食塩100グラム」「水900グラム」と正しく答えられたのは52.0%にすぎなかった。
 1983年,同じ中学3年を対象にした全国規模の学力テストで,食塩水が1000グラムでなく100グラムと設定されたほぼ同一の問題が出題されたが,このときの正答率は69.8%だった。  <「%が分からない大学生」(光文社新書)p30 >

さらに,2018年度の同じく中学理科の全国学力テストでは
「A:水97gに食塩3.0g を溶かした。」「B:水100g に食塩3.0g を溶かした」
「食塩水の質量パーセント濃度が低いものをA,Bの中から一つ選びなさい」
「食塩水の質量パーセント濃度が3.0%のものをA,Bの中から一つ選びなさい」
という問題の正答率が 47.3% でした。(出典:家庭教師のオアシス
A,Bの濃度を算出すればよいだけのことで,冒頭の混ぜ合わせの問題より簡単ですね。それでも正答率が50%を切っているのです。どうやら,「%が分からない生徒」は年々増えているようです。
 「%が分からない大学生」では,その原因の一つに「くもわ」をあげています。パターンマッチングと言われているものです。これよりむずかしい,中学入試の問題についての,朝日新聞 EduA の記事について,以前取り上げました。これもパターンマッチングへの批判です。

では,小学校ではどのように「割合」が導入されているのか,なぜ「くもわ」なのか,その弊害は何か,についてこれから考えていきましょう。

小学校5年生での「割合」の導入

「割合」は,5年生の11月頃に学びます。学校図書の教科書では次の例で始まっています。

学校図書 算数5年(下)

3人の成績を比べるのに,入った回数をシュートした回数で割って比較します。これは,1学期に学んだ「単位量あたりの大きさ」と関連します。シュートした回数を1としたとき,入った回数がいくつになるか,と考えるのです。
それから,また別の例(飛行機のこみぐあい)もやってから,次のように「割合」を定義します。

学校図書 算数5年(下)

ここに出てくる「比べられる量」「もとにする量」「割合」の頭文字をとると,「くもわ」になりますね。それで,次の図ができるわけです。

さて,この教科書の説明(定義),何か違和感がありませんか。
食塩水の濃度を考えてみましょう。食塩水の濃度で「割合」は濃度ですが,「比べられる量」「もとにする量」は何でしょうか。
 「割合」を国語辞典で引くと,「二つの数量を比べた時に,一方が他方の何倍にあたるかという関係」といった説明があります。食塩水で言うと,食塩と水ではなく,食塩と食塩水全体です。
 教科書の例題では,3人のバスケットのシュート率を比べていました。しかし,「10%の食塩水を1000グラム作るのに「必要な食塩」と「必要な水」の質量をそれぞれ求めさせる問題」では,同じような意味で比べるものがありません。食塩水の濃度の問題で「くもわ」を使おうとする生徒は,ここでつまづいている可能性があります。
 このように「比べる」の意味が場合によって異なる,あるいはあいまいなため,「比べる量」と「もとになる量」は何なのかを考えることがむずかしいのです。
「比べる量」「もとになる量」という表現をやめて,「全体の量のうち,着目しているものの量がどのくらいあるか」としたらどうでしょう。バスケットの例なら,その割合を使って3人の成績を比べるのです。

百分率


 教科書ではこのあと,次のようにして百分率を導入しています。

学校図書 算数5年(下)

ここでの「もとになる量」も「全体」としたほうがよさそうです。「全体を1とする場合と100とする場合がある」として百分率を導入すればよいのです。そうすれば,「10%の食塩水を1000グラム作る」なら,「食塩水全体の1000グラムを100とすると10%は100グラムだから食塩100グラムで残りが水」と簡単に出るはずです。
 冒頭の問題も,「5%の食塩水200gには食塩が10g,10%の食塩水300gには30gで,合計40g。合わせた食塩水は500g」で簡単に計算ができるはずです。

 結局,割合を「くもわ」で定義するのが間違っているのです。教科書の導入(再掲)もまずいということです。「比べられる量」「もとにする量」というのが理解を妨げている元凶なのです。教科書の例題では,比べているのは「3人の成績」であって,それぞれのシュート数と入った数ではないので,「比べる」に誤解が生じてしまいます。その状態で次のように定義したら誤解するのは当たり前でしょう。

 もし「占める」という語彙が小学5年生にあれば,「全体のうちの占める量」という表現もできるでしょう。そして「全体を100としたとき」とすれば百分率になります。
 割合を「くもわ」と覚えたが最後,「%がわからない大学生」になってしまいます。
 なお,語彙の問題もからんできます。先ほど使った「着目」も小学5年生にはないかもしれません。なければ,ここで語彙を増やせばよいのです。

「くもわ」の弊害


 「くもわ」の弊害については,冒頭に挙げた,芳沢光雄著の「%が分からない大学生」でも指摘されていますし,Web上でも指摘されています。それをひとことでいえば,意味を理解せず「くもわ」の図を暗記してパターンにマッチさせようとするからです。食塩水の問題では,「く」が食塩,「も」が食塩水全体と考えるのですが,それは「くらべる」という言葉の印象からすると考えにくいでしょう。ましてや「定価の10%引きの値段に10%の消費税がかかったとき支払う金額」といった問題では手も出ないでしょう。
 全国学力テストの食塩水の問題の正答率が下がっているのは,くもわが蔓延している,いいかえると「パターンマッチングの解法が蔓延している」ことと無関係ではないでしょう。どのくらい蔓延しているのか,その年次変化についてのデータはないので詳しいことは分かりませんが。

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