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EduA 6月14日号 食塩水の濃度

 朝日新聞EduA 2020年6月14日号に食塩水の濃度の問題が掲載されている。中学受験なので対象は小学校高学年である。食塩水の濃度は,「割合」の中でも苦手とする問題だ。
 まず問題を見てみよう。

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結構難しい。
というのは,「水を□g 加え」のところは,「容器Aの食塩水の濃度が10%になりました」から逆算しなければいけないからだ。正確にいうと,方程式を立てなければならない。小学校では「方程式」は習わない。しかし,不明な値に対して文字 x を使うことは6年生で習うので,解答は可能だ。中学受験ならできて当然だろう。

ここでは,2つのポイントを挙げている
【ポイント1】やりとり図を書いて全体像を把握する。
次のような「チャート図」を書く。

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「チャート図を書く時は,すべての矢印と枠を書きます。」と書いてある。

【ポイント2】食塩水と食塩の量のみに注目する。

このポイント2は次のように書かれている。

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この2つのポイントにしたがって解いていくのだが,全文をコピーするわけにはいかないので,手に入るようならぜひ参照して欲しい。WebのEduAのページには現在は掲載されていないが,あとで掲載されるかもしれない。

さて,【ポイント1】のチャート図だが,図の意味がわかるだろうか。
スタートの部分を見てみよう。(問題も再掲)

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この調子で進めていくのだがどうだろう。
チャート図を見てもなんのことかわからなかった人,あるいは面倒だと思った人がいるかもしれないし,わかりやすいと思ったかもしれない。そこはいろいろ。
先ほどの図2の 「1/7 が取り出されることになります」を,? と思った人もいるだろう。正直なところ,私にはこの意味がわからない。

次に,【ポイント2】。これも,「食塩(部分)/食塩水(全体)と書いていきます」というのが不明である。これは濃度の定義である。それをわざわざ「・・と書いていきます」とは何だろう。「濃度の変化を追っていく」と書けばすむことではないか。

チャートなどに頼らずにやってみよう。問題も再掲するので,これで手順を考える。

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要は,食塩の量と食塩水の量の変化を追っていけばよいのだ。手順を整理しよう。
(1) まず初めにA,B2つの食塩水がある。
(2) 容器Bから10gの食塩水を取り出して容器Aに入れる。
(3) 容器Bに水を x g 加えた。
(4) 容器Bから10gの食塩水を取り出して容器Aに入れた。
(5) でき上がった容器Aの食塩水の濃度は10%だ。

この手順に従って,それぞれのステップごとに食塩水の量と食塩の量の変化を計算していけばよい。

(1) まず初めに両方の容器の食塩の量を計算しておく。
    容器A       容器B
  食塩水  40g     食塩水 70g
  食塩 40×0.12=4.8 g  食塩 70×0.7=4.9 g

(2) 容器Bから10gの食塩水を取り出して容器Aに入れる
 このときの10gの食塩水の食塩の量は 10×0.07=0.7 g なので
    容器A       容器B
  食塩水  50g     食塩水 60g
  食塩 4.8+0.7=5.5 g  食塩 60×0.7=4.2 g

(3) 容器Bに水を x g 加えた。ここでBの濃度を計算するが,文字xがあるので,式で表す。
  容器Bの濃度は 4.2÷(60+x)  
  100をかけて%にしてもよいが,割合なのでこのままでもよい。

(4) 容器Bから10gの食塩水を取り出して容器Aに入れる。
    容器A      
  食塩水  60g     
  食塩 5.5+10×4.2÷(60+x) g

(5) でき上がった容器Aの食塩の量は,60g の10%で 60×0.1=6 g だ。
 したがって,5.5+10×4.2÷(60+x)=6
 ということになる。これで方程式ができた。

(6) ここから x を求めるのだが,これは一般の小学生にはちょっと難しいだろう。
 たとえば,10×4.2 は42 にして,42÷(60+x)=0.5
 両辺に 60+x をかけると 42=(60+x)×0.5
 両辺を2倍して 84=60+x
 したがって,x=24 となる。
 あるいは,分数にして考えて,(60+x)分の42 が 2分の1 だから,60+x=84 としてもよい。

なお,EduAの説明では,未知数を□と△の2つにしているが,上のようにすれば1つでよい。

 結局,濃度の意味がわかり,食塩の量に着目して計算していけば,ポイント1のチャート図など不要ということだ。余分なことを覚える必要はない。
 別な言い方をすると,「解き方」を覚えたり,教えてもらうのではなく,意味を理解して自分なりに構成していく,ということなのだが,実はここがむずかしい。
むずかしいので,「解き方」に行ってしまう,というのがほとんどの現場なのではないだろうか。
ここで,「お母さんは勉強を教えないで」(見尾三保子 草思社 2002年)を思い出したい。


見尾三保子さんがおこなっていたのは「意味を理解しなさい」という指導であった。
やり方を覚えるだけでは何も身につかない」とはっきり書いている。
あらためて読み返したい本である。

2022年8月30日:一部書き直し