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ドラゴ親子を救ってあげたい!宿敵の経てきた苦しみの30年に泣き、スタローンの愛に泣く / 「クリード 炎の宿敵」

はてなブログからの移行記事です。

今回は、先日予習も済ませた所で初日に観てきたこちらの作品。雄弁な演技に滲む苦しみの30年、そしてその苦しみを背負った父と息子に訪れるある「瞬間」。その親子の物語に、劇場で涙すること必須!

まさかの宿敵側視点で観る、「クリード 炎の宿敵」の感想です。

あらすじ:かつての対戦でイワン・ドラゴに父親アポロを殺されたアドニス・クリードのもとに、その息子・ヴィクターから挑戦状が届く。彼らはその後イワンがロッキーに歴史的敗戦を期したことで、肩身の狭い人生を送っていたのだ。ヴィクターとの対戦について、ロッキーに止められても言うことを聞かないアドニス。ロッキーを振り払って対戦した試合で、あまりの体格差にアドニスは重症を負うが…。

時に映画の中には、たった1つのシーンで、たった1つの挙動で、それまでに積み上げられてきた登場人物たちの人生全てを語りつくしてしまうほどに雄弁な瞬間があります。

脚本、演技、音楽、照明、衣装メイク……etc. それらすべてをひっくるめた「演出」という力を得て「映画」がなしうる、唯一無二の表現。

正直「クリード 炎の宿敵」に期待していたものは、前作「クリード チャンプを継ぐ男」を引き継いだダイナミックで意志的なアクションでした。そこについては、監督が交代したことも含めて期待していたものとは少し違うように思います。

だけど、30何年という年月をかけて育まれ、新章として立ち上げられたこのシリーズの新作は、家族の愛と意志の継承、そして自立と解放を描く物語としてあまりに鮮やかで。

そこあるのは、自身の演じるキャラクターのバックグラウンドと歴史を誰よりも理解し表出させる俳優たちの真に迫る演技と雄弁な佇まいでした。

ロッキーを演じるシルベスター・スタローン、そしてイワン・ドラゴを演じるドルフ・ラングレン。二人が生み出すその「瞬間」に、涙が止まりません。


「ロッキー4/炎の友情」では、徹底的に悪役として描かれていたドラゴ。まるでロボットのように無口で感情の見えないファイター。

それはおそらく、「アメリカVSソ連」という構図をそのまま背負い、当時の政治的情勢を反映した物語として、「徹底的に打ちのめして良い悪役」が必要だったのでしょう。

だけど、それから30年以上の時が流れ、世界は変わり、映画が描くものも変わる。あの時の無感情な宿敵も、過酷な運命を背負った一人の人間。

正直、もし80年代当時に「ロッキー4」を観ていたら、単純にロッキーの勝利に歓喜するだけだったと思います。だけど、時を経て「クリード」という続編から入って「ロッキー」シリーズに出会ったことで、「この登場人物たちにもその後の人生がある」という前提で観ることが出来たのはある意味幸運なことかもしれません。

老いたロッキーは、その人生の中でエイドリアンをなくし、息子とも疎遠となり、そしてアドニスのトレーナーという立場でまたボクシングの世界に戻って来ました。

……では、あの時の宿敵、ドラゴはどうしている?

そうして臨んだ「ロッキー4」であり、本作だからこそ、ドラゴのその後の人生がこうしてしっかりと刻まれていることに涙が止まらないのです。


◆ここからネタバレ有り◆

冒頭、寒々としたみすぼらしい家で目覚めるイワン、そして息子・ヴィクター。老いぼれて刻まれたイワンの顔の皺。ランニングするヴィクターを追い込む、車の中のイワン。ロッキーの像とその前で楽しそうに観光する人々を、鋭い眼光ですごむイワン。

特殊メイクも施して枯れ切ったイワンを演じるドルフ・ラングレンの、あまりの哀愁と凄み、そして悲しみをたたえた眼つきに胸がぐらぐらします。

そして、ただただ「勝つ」ことだけを望まれてきた息子・ヴィクター。

その勝利は、誰のため?

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挑戦を申し込むため、カフェに姿を現しロッキーと対峙するイワン。しかし、その店内に自分の写真は、無い。

アドニスとの初戦。ひたすらに負けたら地獄だぞとばかりに、「勝つ」ことだけをヴィクターに求めるイワン。そこに、激励の言葉は、無い。

ロシアに戻っての祝賀会。その場に現れる元妻。自分たちを捨てた、元妻。耐えきれずに飛び出すヴィクターと、彼に元妻への復讐、当てつけを課してしまっていたイワン。

描かれる分量は多くはないけれど、それらシーンに充満するドラゴ親子の屈辱的な30年。

妻に捨てられ、国に見放され、人生を失った若きボクサー。そしてその悲しみと復讐心と怒りだけで育てられてきた息子。

彼らの30年が如何に過酷なものだったか、これらのシーンだけでもずっしりと突き刺さります。

そしてその苦しみの30年間から、皮肉にも宿敵との再びの闘いによって解放される―。


正直、「クリードの続編」として「アドニスVSドラゴの息子」という構図は、あまりにベタでまあそうなるよねという予想の範囲内のプロットだと思っていました。

しかし、スタローン達が描こうとしていたのは、アドニスのリベンジの物語ではなく、かつての対決が作りだした因縁から父親たちを、そして息子たちを解放することだったのでしょう。

あの時、アポロとイワンとの闘いを悲劇に導いた運命の決断。

「タオルを投げ入れ」られなかったロッキー。

その瞬間はロッキーにとってだけでなく、そうしてアポロを亡くすまでに殴ってしまったことで自身の人生を追い詰めることになったイワンにとっても、実は悔やんでも悔やみきれない瞬間。

その後2人を苦しめたこの呪いを断ち切るように、イワンがタオルを投げ入れるー。

親の因縁、国の期待、そうして自分が押し付けて作り上げた「勝利への固執」から、ヴィクターを解放するイワン。

そうして敗北を期したヴィクターを「It's OK」と、初めて受け止めるイワン。この「OK(いいんだ)」という台詞に込められた、不器用な父の愛情と懺悔。

こんなの泣かないでいられます????

このセリフだけでこの30年からの解放、愛情、懺悔、安堵・・・様々な感情を見せるドルフ・ラングレン、めちゃくちゃ最高じゃないですか????

そして、父の悔しさを一心に受け止めて戦い続けてきたヴィクターの、悔しそうで、どこか安堵したように泣き崩れる表情。

演じるフロリアン・ムンテアヌ、初演技なの?????ほんとに????

ヴィクターを演じるフロリアン・ムンテアヌは、実際のボクサーで本作で映画デビュー。

最初はあまりドルフ・ラングレンに似てないねーというぐらいにしか思っていなかったけど、父イワンと同様に無口な中に、湧き上がる怒りと悲しみと闘志をのぞかせる演技に「お、意外といいな?」と思っていたら、最後でこれですよ。

今後も映画に出演するかわからないけど、ロック様やデイブ・バウティスタのように活躍してほしいなあ。

凄いよかった。

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ラスト、横に並んでともにランニングに繰り出すドラゴ親子にまた涙。この2人の、親子としての二人三脚が、やっと始まった事への多幸感。

もしかしたらアドニスと、良きライバルになるんじゃないかな。


この作品で、ロッキー役としての登場は最後だとスタローンは明言しています。そのインタビューは鑑賞後に読んだけれど、スタローンのその姿勢は試合シーンの最後で痛いほど感じました。

リングにあがらずに、アドニスたちを見届けるロッキーの背中。その背中に刻まれた文字は「ロッキー」ではなく「クリード」。

新しい世代へとシリーズを託し、そして身を引いていくスタローンの姿が、まさにそのロッキーの後ろ姿に重なる瞬間。

こうして退く前に、あの宿敵の人生を救ってあげたいと思ったのかなと(勝手ですが)思うと、スタローンへの愛と尊敬がまた一層厚くなります。

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あまりにドラゴ親子に想い入れてしまってアポロ側についてまったく触れていませんが苦笑、思いもよらぬ家族の物語として1作目とは違う魅力を獲得した作品でした。

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