ナボコフ著『ニコライ・ゴーゴリ』を読んでの『外套』レジュメ(再提示)(pdfより抜粋の為に断片化している)


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アカーキー ・ アカーキエヴィチ の 不条理さについて 抜粋
ゴーゴリが
その登場人物たちを 不条理な状況に置いたという 言い方は 正しくなか
ろう 。 ある人物の生きている世界全体が 不条理であるとき 、 人は今更 この人物を不条理 な状
況に立たせることはできない 。 『 ニコライ ・ ゴーゴリ 』 ウラジーミル ・ ナボコフ 著 青島太
郎訳 平凡社ライブラリ ー 1996 p212 より

外套 』 の主人公 アカーキー ・ アカーキエヴィチ が 不条理なのは 、 彼が 哀れを 催さ
せずにはおかない から
、、
こそ
、、
であり、 彼がいかにも人間的 だ

から
、、
こそ
、、
であり 、 また彼自身とは
著しく対照をなす かの諸力によって 生み出されたもの だ

から
、、
こそ
、、
である 。 同上 傍点は 著者
によるもの p 2 13 214
2
『 外套 』 語り方について
あるいは、 無頓着な 日常会話 調 で始まった文章が 突如道を踏み外し 、 本来の姿であ
る 非合理の中へ迷い込んで ゆく。 あるいはまた、 やはり何の前触れもなく 急にドアが開き 、
泡立つ詩の波が どっと流れ込んでくるが 、 それもひとえに 高い調子から思いがけぬ 竜頭蛇
尾への 頓 降 法 1を 生まんがためか 、 あるいは自らの パロデ ィ へと 転化 せんがた め であり、 さ
もなければ 他 の文章によって遮られ 、 この新たな 文 は折れ 砕けて 手品師の お喋りへと 、 ゴー
ゴリの文体 にとってかくも特徴的な かの お喋りへ 回帰する 。 同上 p214

イヘンバウム 『 ゴーゴリの 「 外套 」 は いかにして作られたか 』 に よると、 ゴーゴリは 複
数の同時代人により 彼 が 自作の 朗読を行い 、 またその 朗読 によって その文章が まるで 韻文
であるかのように 感ぜられた という 、 彼の 作品が朗読されることにより 改めて意識され る 、
特殊な効果について 証言がある 。 本論文では 語 の置き方や 人名の つけ方 などによる 韻 、 音階
などの 効果について論じられているが 、 ここでは その 点についての言及は 焦点を絞るため 、
ここでは控える 。
曰く
、 ゴーゴリの 構成はプロットによって決定されず 、 それどころか 貧 弱で 、 いかなる プ
ロットも 存在 せず その プロット の根幹をなすのは 既存の ものに 触発された アネクドー
ト であり、 まさしく 『 外套 』 の 構想の源となったのは 長いこと金を 貯めて 買った小銃を なく
1 頓 降 法 の例 光文社古典新 訳 p 135 「 この 出来事 があってから 」 より 滑稽 から 感傷的な調
子へ転じている 。 P 7 4 「 ただ、 冗談が過ぎて 」 p 125 より描写される アカーキー・アカー
キエヴィチ の 死 の描写についても 、 滑稽と悲劇的調子 を 行き来するという特徴がある 。
してしまう
してしまう貧乏な官吏貧乏な官吏というという「「お役所のお役所のアネクドートアネクドート」」であるである――――ゴーゴリの小説においてゴーゴリの小説において真に真にダイダイナミックなナミックな働きをしている働きをしているのはのはプロットよりもプロットよりもむしろむしろ語りの語りの組み立て組み立て、、ことばのことばの遊びであり遊びであり、、登場人物登場人物はは演出家として演出家として、、真の主人公として真の主人公として支配する支配するゴーゴリのゴーゴリの生き生きとし生き生きとしたた演技の精神演技の精神に支配されるものでしかないに支配されるものでしかない。。もしくはもしくは、、非現実的な小説を非現実的な小説をあくまであくまで現実の出現実の出来事として来事として語ろうとする語ろうとするその語り手のその語り手の、、横道にそれ横道にそれ、、あいまいに濁すあいまいに濁すその語り口こそがその語り口こそがゴーゴーゴリの小説の根幹をなすゴリの小説の根幹をなす。。
また、
また、滑稽な滑稽なアネクドートアネクドート的的なな調子から調子から感傷的感傷的、、メロドラマのようなメロドラマのような調子に転じる調子に転じるというという、、「「頓頓降降法法」は」はゴーゴリが好んで用いるゴーゴリが好んで用いるものであり、ものであり、ここれのもたらすれのもたらす緊張緊張やや文章間文章間ののずれによずれによりり、、複雑化させ複雑化させる。る。
3
3..アカーキエヴィチアカーキエヴィチがが外套を外套を着る着ることこと
アカーキーアカーキー・・アカーキエヴィチがアカーキエヴィチが我を忘れて深入りしていく我を忘れて深入りしていく外套着用の外套着用の過程過程、、つまつまり外套り外套のの仕立てと仕立てとこれに腕を通していくこれに腕を通していく過程は過程は、、実のところ実のところ彼が彼が服を脱いでゆく服を脱いでゆく過程過程、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、自ら自らの幽霊の幽霊のの完完きき裸身へ裸身へとと漸次漸次回帰していく過程に回帰していく過程にほかならない。ほかならない。物語物語のそもそもののそもそもの発端から発端から、、彼彼ははそのその超自然的高所への超自然的高所への跳躍に備えており跳躍に備えており、、たとえばたとえば彼が靴底の倹約のため彼が靴底の倹約のため街路を街路を爪先爪先立って立って歩くとか歩くとか、、自分が往来の真自分が往来の真中にいる中にいるのかのか文章の途中にいるのか文章の途中にいるのかとんととんと弁え弁えがないとがないとかか、、これら一見これら一見何の他意もなさそう何の他意もなさそうなな細部が次第次第に細部が次第次第に文章係文章係アカーキーアカーキー・・アカーキエヴィアカーキエヴィチチを解体させてしまいを解体させてしまい、、その結果その結果物語の物語の終り終り近くに近くに登場する彼の幽霊は登場する彼の幽霊は、、彼なる存在のうち彼なる存在のうちの最もの最も可可触触的的でで、、最も現実的最も現実的な部分と思えるくらいであるな部分と思えるくらいである。。((中略中略))素朴な読者の素朴な読者の眼眼にはあにはありふれた幽霊話りふれた幽霊話とと映りかねない映りかねないこのくだりは、このくだりは、結末近く結末近く、、今今わたしがわたしが適切な適切な形容語を見出し形容語を見出しかねるかねるなにものかへとなにものかへと変貌をとげる。変貌をとげる。それはそれは神神化化であると同時にであると同時にddegringoladeegringolade((墜落墜落))であである。る。((同上同上pp219219--220220))
4
4..アカーキー・アカーキエヴィチアカーキー・アカーキエヴィチはは亡霊なのか亡霊なのか??
人々が人々がアカーキー・アカーキエヴィチアカーキー・アカーキエヴィチのの外套を剥がれた外套を剥がれた幽霊幽霊だと思ったのはだと思ったのは、、実は実は彼の外套を彼の外套を剝剝いだいだ男に男にほかならない。ほかならない。それでもそれでもアカーキーアカーキー・・アカーキエヴィチアカーキエヴィチの幽霊がの幽霊がひとひとえにえに外套を外套を失った失ったことことの恨めしさゆえにの恨めしさゆえに厳然と存在する厳然と存在することにことに変わりはなく変わりはなく、、いっぽう、いっぽう、物物語の語の奇妙奇天烈奇妙奇天烈な逆説に巻き込まれた巡査な逆説に巻き込まれた巡査は、は、まさにまさに幽霊の幽霊のアンチテーゼであるかの人物アンチテーゼであるかの人物、、外套を剝い外套を剝いたた犯人犯人をを幽霊幽霊と取り違えるのでありと取り違えるのであり、、かくしてかくして物語物語はは完完きき円を描く円を描く。。((同上同上,,p223p223))
外套を取られる
外套を取られるシーンシーン
① 光文社光文社pp111111 アカーキーアカーキー、、外套を外套を奪われる奪われる
男二人組
男二人組、、口ひげを生やしている口ひげを生やしている。。男男AA襟首を襟首をつかまえるつかまえる、、男男BB頭ほどもある頭ほどもあるこぶしこぶしを突き付けるを突き付ける
② PP112727 以後以後アカーキーの死後アカーキーの死後 「「役人の格好をし役人の格好をした亡霊た亡霊」」
盗まれた外套に似たもの
盗まれた外套に似たもの、、外套ならなんで外套ならなんでももひっぺがしにくるひっぺがしにくる。。
ある役所の
ある役所の役人は役人はアカーキーに違いないアカーキーに違いない、、と思うがと思うが怖すぎて怖すぎて確かめられていない確かめられていない。。
指をおったてて脅す
指をおったてて脅す
③ PP112929 警察に捕まりかける幽霊警察に捕まりかける幽霊

犯行に及ぼうとしている幽霊を捕まえる行に及ぼうとしている幽霊を捕まえる。。くしゃみののちくしゃみののちひょっくり姿を消すひょっくり姿を消す
④ PP113333 おえらがたのおえらがたの外套を盗む外套を盗む幽霊幽霊
橇の上
橇の上((人間には不可能では人間には不可能では?)?)
とてつもない
とてつもない怪力で腕をつかまれる怪力で腕をつかまれる、、はっきりはっきりととアカーキー・アカーキエヴィチアカーキー・アカーキエヴィチであるであるとと明言されている明言されている
⑤ PP113636 成仏したはずなのに噂の絶えない成仏したはずなのに噂の絶えない亡霊亡霊 巡査巡査
背丈が高く
背丈が高く立派な口ひげ立派な口ひげ
人間のものとは思えないでっかいげんこつ
人間のものとは思えないでっかいげんこつ
なぜ巡査は
なぜ巡査は「「幽霊幽霊」」とわかったのだろう?とわかったのだろう?