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読書メモ:D2C「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略

この本で書かれていること

D2Cとはダイレクトtoコンシューマーの略で「企業が顧客へ直接販売する」ということ。アメリカで多く起業され、顧客の消費行動やライフスタイルへの変革を起こし、そして既存の大手企業にまでを及ぼすトレンドになったD2Cブランドの事例をベースにD2Cの本質や戦略、そしていかにD2Cの取り込むかの方法論の具体まで書かれている。

D2C企業の定義
・顧客のと節点がデジタル起点、デジタルネイティブであること
・小売店経由でなく、直接顧客に販売、コミュニケーションすること
・安価であること(中間コストがない為)
・指数関数的な成長をする(積み上げでなく雪だるま式)
・提供価値は世界観(ライフスタイル)
・ミレニアル世代以下がターゲット
・顧客はコミュニティであり仲間

上記を実現するにあたり、ブランドはものづくりを行うメーカーとしての機能だけでなく、メディアやテック企業のようである必要がある。その要素について、下記にD2Cの本質として①〜③でまとめる。

D2Cの本質 ①
メディア:共感できる世界観をストーリーと共に伝える

従来のマスマーケティングでなく、顧客自身がブランドの世界観に共感し、体験やブランドのストーリーを語りエバンジェリストとして伝播させていく。

そのために企業は企業目線の「自社比較して機能がこれだけアップした」というプロダクト機能面の訴求でなく、顧客が語りたくなるようなブランドの世界観を訴求する必要がある。

事例:ブランドの世界観が伝わるメッセージ、ストーリー

SNSでシェアしたくなるED薬『Him』
デザイン性の高いパッケージやオンライン診療を通じて健康問題をオープンに語る社会へ

原価を全て開示する過激なまでの透明性を見せるアパレルブランド『Everlane』
原価にかかる要素をクリアに開示、通常のアパレルブランドだといくらで販売されるか?まで明記され「顧客は買う商品のコストを知る権利がある」というメッセージや、工場の様子が見れたり、売れ残りも廃棄せず顧客が値段を決めれる取り組みも行なっている

そのためには、ただ商品を販売するだけでなく、全ての顧客接点で一貫した世界観を描き、世界観に合ったメディアやコンテンツを提供し続けるようなブランドのメデイア化が重要だ。
背景にはターゲットであるミレニアル世代、Z世代(若者)の価値観が「何をしているか」「何に興味を持って活動しようとしているか」の精神面にあることだ。共感できるメッセージのブランドやプロダクトと心理的なつながりが持てることが大きな価値になる。ブランドのメッセージを伝えるためにはメディアが有効で、アメリカではPodcast、雑誌、映像が使われている。

事例:メディア化しているブランド

スーツケースブランド『Away』
「HERE」という雑誌でアーティストへのインタビューや大自然の写真、有名作家が旅に持って行くもの特集など旅に行きたくなる気持ちを喚起するコンテンツを提供。インスタでも商品は売らず、アートギャラリーのような旅の写真のみ

マットレスブランド『Casper』
「WOOLLY」という雑誌でヨガインストラクターの告白、入眠方法などプロダクト以外のコンテンツを提供し、雑誌が寝室やリビングに置いて生活の中でのフィジカルなタッチポイントを設置

従来のマーケティングではコンバージョンがゴールとされカスタマージャーニーは個人で完結していたが、今は購入の先には利活用があり、さらには周りに推奨するところまでを含む社会的カスタマージャーニーへと進化している。推奨された他者が行動に移す=社会的と表現されているが、それにはブランドに「顧客が語りたくなるストーリー」が必須だ。

D2Cの本質 ②
テック:顧客と繋がり続け、共にブランドを作る

社会的カスタマージャーニーにもあるように、顧客との関係には終わりがなくループするような形へと変わった。継続してブランドの世界観を伝え、更には顧客からのフィードバックがもらえるような、繋がり続ける仕組みが必要である。

顧客と繋がり続けるためにデジタルは有効で、店舗ではできないようなサービス、例えば購入後スムーズに利用開始できるようサポートメッセージを送ったり、利用状況を聞くような仕組みや、企業とのやり取りも趣味の話が盛り込まれていたりファーストネームで呼び合うような関係性を築き、デジタルでも人のぬくもりか感じられるように設計されている。

それを本書では「優しいデジタル」と呼んでおり、顧客データやログを顧客のために使うこと、いつでもブランドとコンタクトできること、そして顧客からのフィードバックを通じて企業と顧客のコラボレーションをすることが条件として挙げられる。

デジタルをブランドに活用するからこそ、顧客の行動や反応、興味、接点の頻度、居住エリア等のデータが取得できそれを活用しながらブランド戦略に活かしていく。顧客との関わりを深め、声をブランドへ反映させていくループは顧客と共にブランドを作っていくということであり、成長を牽引するのはブランドではなく顧客である。

D2Cの本質 ③
店舗:一貫した世界観と心を揺さぶる体験

デジタル起点で始まるD2Cだが、リアルな顧客との接点の場として店舗やポップアップストアが多く出店されている。新規顧客の開拓やデジタルと同じ世界観を表現する場として活用される。ポイントはデジタルが主軸なので、店舗では必ずしも売上を目的としないことだ。

店舗で思わず写真を撮りたくなるようなデザイン・設計をすれば、写真を撮りシェアするという行動を促すことができる。企業のステートメントやコピーライトを磨くだけっでなく、顧客に何を語って欲しいか?どんな行動をして欲しいか?を考え戦略に取り込む必要がある。

顧客の心を掴むには一見利益に直結しなそうな仕掛けやサービスを提供することが効果的だ。心に残るサービスとは、遊び心やムダ、偏見などビジネスでは合理的でない要素が盛り込まれている。

事例:顧客の心を掴む店舗設計

メガネ屋『Warby Parker』
NYにある旗艦店では、商品棚と同じくらいの面積を占める本棚が天井まで続く。セレクトされた本が購入できたり、検眼スペースは図書館の司書が座る机をモチーフに設計されている。更には店舗周辺でメガネをかけながらゆっくり読書できるスポットの地図が無料で置かれている

世界観を貫いているブランドは一足店舗に入っただけで、どのブランドの店舗か言い当てることができる。Apple Storeに行くとそこがApple Storeだと瞬時に認識できるように、徹底的に作り込むことが感情の揺さぶりを生む。

個人の見解:日本でのD2C

本書では、既存ブランドのD2C化として自社内でブランドを立ち上げる、D2Cブランドを買収、提携するが挙げられていた(アメリカではWalmartがD2Cブランドを買収したり、Targetが提携を積極的に行なっている)。

日本企業では費用対効果が薄い施策に対して承認が降りづらい傾向にあり、更には長く続く流通や販売の仕組みからデジタルに切り替えるには時間と労力が必要となる。既存事業と切り離し新たに立ち上げたり、提携することが近道だと考えられる。

新たに立ち上げるとしても、大掛かりでなく小さく始めたり、既存事業とは離れたビジネスの方が社内での波紋が少なく抑えらるのではないかと思う。メディアやテックという側面では人の稼働も多く必要になるが、そこでの学びを企業のビジネスに活かせるような仕組みがあると良い。顧客がブランドを作るように、今までと異なった今の時代に即した取り組みを行うことが企業の未来を作れると信じる。

最後に個人的なD2C体験をシェアする。
もう10年以上前の体験だが、ミナトヘルスフーズでバラのサプリを定期購入していた。当時バラのサプリが流行っていたが高価で若者には継続が難しく、色々検索してミナトヘルスフーズに辿り着いた。

コストを抑えるための簡素なパッケージ、続けやすい価格、毎月商品と共に届くスタッフの手書きのお便りや青汁のサンプル。そこには製薬会社ならではの季節に沿った生活のアドバイスや顧客の声に対する返答などが丁寧な文字で書かれていた。継続中にパッケージを刷新するタイミングがあり、それは顧客の投票で決定された。当時SNSは盛んで無く、友達に口コミで話した記憶がある。

更には新規開発したサプリのモニターを無料で募集しており、サプリを数週間飲んでみてどうかをフィードバックする取り組みがされていた。既にファンになっていた私はもちろん応募し、モニター中はちょっとした手間である生活の記録もせっせと行った。

本書を読んでこの体験は正にD2Cブランドの体験と同意と気づき、今でこそ定期購入は辞めてしまったが心に残り続けるブランドの1つとなっている。大手企業こそ実現への障壁は多くあると思うが、顧客とブランドを作り上げるというマインドを忘れず、世界観をどう描きどう魅せるか?がD2C化におけるキーとなる。

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