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周術期におけるがんのリハビリテーションについて【エブリ塾・オンライン研修会より】

こんにちは。エブリ塾の陽川です。

今回は、先日8月25日にエブリ塾で開催しました、神戸大学医学部付属病院の井上順一朗先生「周術期におけるがんリハビリテーション」の内容について振り返っていきたいと思います。 

『緩和医療におけるがんリハビリテーション』の記事はこちらから

今回も非常に盛りだくさんの内容でした!
「ポイントだけ振り返りたい」という方や当日参加されていない方にも勉強になるよう、重要なポイントだけに絞ってご紹介させていただきたいと思います。

がん患者さんのリハビリテーションを考えるにあたって、急性期や回復期・生活期など、どのタームにおいても、これまでにどういった治療やリハビリを受けてこられたのかを理解することがとても重要となります。

今回は食道がんを中心に治療方法やリハビリの内容、自宅退院後の課題についてまとめていきたいと思います。

食道がんの概要

まず食道がんについて、基本的な情報からまとめます。食道がんは男性に多いがんで、がん死亡の第6位を占めています。食道がんの症状としては食べたものが飲み込みにくい狭窄症状や嚥下困難が多く見られますが、中には人間ドックなどで発見される無症状の方も約2割の割合でおられます。また、食道がんは比較的早い段階でリンパ節転移をきたしやすいという特徴があります。食道がんの危険因子には、飲酒・喫煙・熱い飲料・肥満などがあげられ、日本人には飲酒や喫煙が主な原因として起こる扁平上皮癌が約9割を占めています。

食道は周囲を心臓や肺、大動脈などの重要臓器に囲まれているため、食道がんでは術後合併症が出やすいという特徴があります。食道がんの好発部位は胸部食道が約9割を占めています。他部位の頚部食道の食道がんでは喉頭がんや咽頭がん、下部食道の食道がんでは胃がんを併発していることもあります。

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食道がんの診断後はTNM分類に基づいて治療方針を決定していきます。TNM分類はがん組織の深達度やリンパ節転移の有無、遠隔臓器への転移の有無によってStage0からⅣbの6つに分類されます。リハビリではStage Ⅱ・Ⅲの方に関わることが多く、化学療法と手術治療の併用が主な治療方針となります。

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胸部食道がんの手術では頚部食道から胃の1/3程度を摘出し、残りの胃で胃管を作り食道を再建する方法が採用されます。再建した場合、その胃管をどこに置くかはその方の既往歴によって変えることがあります。例えば、糖尿病を持っていらっしゃる方は術後縫合不全を起こす可能性が高いため、元の縦隔ではなく胸骨の前に再建経路を作ることもあります。また、胃がんを併発されており、胃管を作成できない方については小腸や結腸などで再建経路を作ることもあります。

手術の術式に関しては低侵襲化がすすんでおり、これまでは開胸・開腹でしかできなかったところが内視鏡下やダヴィンチなどの手術ロボットなどが活用されるようになってきています。

また、術式の違いによって得られる効果も異なってきます。内視鏡下手術では開胸・開腹手術と比較し術後疼痛の軽減、肺活量の早期回復、血清中炎症性サイトカインの上昇抑制などの効果があると言われており、腹腔鏡手術では術後呼吸器合併症の減少や術後運動耐容能の早期回復などに効果があると言われています。しかし、内視鏡下手術では反回神経麻痺などの発症が多いという報告もあり、手術ロボットでは反回神経麻痺などの発症が少ないと言われています。反回神経麻痺では嚥下障害が引き起こされやすいため、注意が必要です

術後合併症について

術中・術後合併症の中では呼吸器合併症が頻回に起こると言われています。リハビリでは呼吸器合併症をいかに予防するかが重要なポイントとなってきます。術後合併症を予防するためには、高齢や喫煙歴、併存疾患などのリスクファクターとなる因子について情報収集がとても重要です。

また、近年高齢者に対する手術件数の増加もあり、フレイルの評価をすることが必要となってきています。術前にフレイルの評価をすることで術後合併症や生命予後の予測ができるという報告も出てきており、高齢がん患者においてはフレイルの有病率も高いため、特に注意が必要です。(Fukuda A, et al. 2nd Asian Conference for Frailty and Sarcopenia, 2016. )また、フレイルと同様にサルコペニアのあるなしでも術後の生存率に差が出ており、術後合併症を予防するためには、術前にどれだけ必要な情報を集め、それらに対する対応を行えるかということが術後の経過を左右します。(Makiura D, et al. Ann Surg Oncol. 2018;25(2):456-464.)

食道がん患者の術後リハビリテーションの主な目的は「術後合併症の予防」や「廃用症候群の予防」が大きな柱となってきます。手術において手術時間も長く、呼吸器や循環動態への影響は大きく、術前後の状態把握が特に重要です。呼吸器においては術中の肢位やリンパ節郭清の有無が無気肺や反回神経麻痺などの原因となるため、術後の無気肺や肺炎、肺水腫などの呼吸器合併症へ注意が必要です。また、循環動態においては術中・術後の出血量や尿量、ドレーンからの廃液量など水分出納(in/outバランス)をチェックがとても重要となります。それにより胸水や肺水腫、無気肺や不整脈、浮腫などの予測を立てることができます。手術方法の低侵襲化は進んでいますが、術後呼吸器合併症は一定の割合存在しているため、食道がん術後におけるリハビリテーションの役割は大きいと言えます。

術前リハビリテーション

術後合併症の予防には術前から身体活動量をしっかり維持しておくことが重要です。術前の身体活動量の高い人は術後合併症のリスクが低いという報告もあります。

術前の身体機能を高めるために術前リハビリテーションも有用です。術前リハビリテーションを行うことで術後の合併症の減少や入院期間の短縮、運動耐容能の改善などが報告されています。具体的にはインセンティブスパイロメータの使用や運動療法の実施によって全身状態の改善を図ります。

周術期リハビリテーション

術後リハビリテーションは術後の運動耐容能や身体活動性、QOLの改善のために重要です。手術翌日より呼吸器合併症を予防するための呼吸訓練や廃用症候群を予防するための筋力トレーニングを行い、早期離床へと進めていきます。

術後、早期離床は機能的残気量(Functional Residual Capacity : FRC)を確保する上で非常に重要な軸となります。FRCは安静時呼気終末に肺内に残っている空気量のことで、FRCが残っていることで末梢気道の虚脱が起こらず、無呼吸の場合にも酸素化が保たれるようになっています。FRCが小さいと酸素化不良となり、呼吸不全へと陥ります。このFRCは姿勢の影響を受けやすく、臥位では立位の半分しかないと言われています。FRCの減少により安静時呼吸の末梢軌道閉塞から酸素化不良、無気肺へと繋がり重篤な呼吸不全となる可能性があるため、FRCを確保する、つまり、早期離床をすすめることでFRCを確保することが呼吸器合併症を予防する上で非常に重要なポイントとなります。しかし、術後は呼吸・循環動態も不安定な状態にあるためバイタルサインのチェックをはじめ、人工呼吸器・ドレーン・ルート類の長さの確認や管理などをしっかり行った上で離床を進めていく必要があります。

多職種連携

周術期リハビリテーションでは多職種連携が非常に重要になります。早期離床を行うにも、セラピストだけでは行えません。周術期リハビリテーションを行う上でERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プログラムという考え方があります。これは手術後の回復促進に役立つ各種ケアをエビデンスに基づき統合的に導入することで、安全性と回復促進効果を期待した集学的リハビリテーションプログラムを確立するものです。これは手術侵襲の軽減や手術合併症の予防、術後の機能回復促進を目的とし、これにより術後合併症の減少や在院日数の短縮化、早期の社会復帰を目指します。ERASの構成要素では様々な職種が関わるようになっており、リハビリでは離床・歩行の促進を担っています。ERASの考え方を元に術後リハビリテーションを多職種で行うことで在院日数の短縮や術後の呼吸器合併症を減少することができます。ERASプログラムは、チーム医療でそれぞれの職種が自分の役割を全うすることで上手く機能することができます。ERASプログラムを元に集学的リハビリテーションプログラムを実践することが術後の機能回復につながるため、術後のリハビリテーションプログラムや身体活動量が身体機能の回復には重要であると言えます。

自宅退院後の課題

自宅退院後の重要課題は再入院を防ぐことです。再入院の原因としては肺炎や脱水が主な原因となります。がん患者さんの半数以上に食欲不振や体重減少が見られています。栄養障害を起こすことで身体活動やADL、QOLの低下につながり、それが生命予後の悪化を招く要因となります。そのため、再入院を予防するためにはしっかりと栄養状態を保ちながら運動を続けることが重要なポイントとなります。退院後の栄養障害を予防するために重要なことは体重管理です。退院後の体重管理を適切に行うために、退院前の栄養指導や運動を続けるための運動指導が再入院を予防する上で非常に大切です。

ここまで、講義内容のそれぞれのテーマについて、ポイントをピックアップしてまとめていきました。実際の講義では実際の手術の様子や嚥下評価の動画なども交えて非常に分かりやすく解説していただいていますので、より詳しく知りたい方はぜひアーカイブ動画をご活用ください! 


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