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緩和医療におけるがんのリハビリテーション【エブリ塾・オンライン研修会より】

皆さん、こんにちは
エブリ塾の陽川です。

今回は、先日7月30日にエブリ塾で開催しました、神戸大学医学部付属病院の井上順一朗先生の「緩和医療におけるがんリハビリテーション」の内容について振り返っていきたいと思います。

今回も盛りだくさんの内容でしたので、すべてを盛り込むことはできませんが、一受講者として、特に重要と感じたポイントについてご紹介させていただきたいと思います。とても充実した内容だったので、エブリ塾会員の皆さんや一般参加者の皆さんはアーカイブ動画も復習に活用してください。この記事では「さくっと内容を振り返りたい!」という方に向けて、そして参加されていない読者の方にも勉強になるようにまとめていきたいと思います思います。

* 尚、本記事はエブリ塾事務局が講演内容をもとに編集したものですので、必ずしも井上先生のご意見ではないことをご理解ください。詳細をについては会員限定のアーカイブ動画で配信しております。

今回の目次は以下の3点です。 それぞれのテーマについて、研修の中から特に重要だと思うポイントをまとめていきます。

1.緩和医療の概論

まず、はじめのテーマです。ここのセクションについてのキーワードは「緩和ケア≠終末期」です。つまり、緩和ケアと終末期ケアは全く異なるものだということです。

「緩和ケア」といえば、終わりを穏やかに迎えるためのケア、強いては終わりが近づいている頃に提供するものだと思われがちです。ですが、その認識は大きな間違いで、いかに自立した生活を継続していくか、どういう状態で過ごしていきたいか、また、これからの人生をどのように生きていきたいかということを考えるためのケアなのです。

ここで、緩和ケアの定義について振り返ってみたいと思います。緩和ケアの定義は以下のようになっています(WHOによる緩和ケアの定義より抜粋)。

緩和ケアの定義(WHO, 2002)
『緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。 』

少し難しい表現ですが、まとめると、緩和ケアとは生命を脅かす病による心と体の痛みを和らげるためのケアである、ということです。 

つまり、
・終末期に行うのではなく、診断と同時にできるだけ早期から介入する
・心不全などの慢性疾患など、がん以外の疾患でも介入する
・病期や予後に制限されずに介入する 
・ICUや在宅などその人がいる場所にとらわれずに介入する
ということです。これらは2014年に追加説明で緩和ケアの定義に追加された内容です。

「緩和ケア」といえばがんのリハビリテーションが1番に思いつくところかと思います。驚くことに、緩和ケアの定義とがんのリハビリテーションの定義はほとんど同じです
がんによって起こる身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛について、いかにそのつらさを和らげ、その人らしい生活を過ごすかということをがんのリハビリテーションでは考えていきます。がん患者さんにおいても、時間や予後、場所にとらわれず、がんと診断されると同時にできるだけ早期に緩和ケアが介入することで生命予後やQOLの改善が見込めるということを強く認識しておくことが必要です。


2.緩和医療におけるリハビリテーション

緩和医療におけるリハビリテーションについて考えていく際、とりわけ重要なキーワードは「生命予後とリハビリテーション」です。

進行がん患者さんは多くの症状を抱えていらっしゃいます。それらの症状により、ADLの低下や社会的制限が発生し、QOLの低下に繋がります。では、進行がん患者さんに対して、提供するリハビリテーションはどういう風に組み立てていけばいいのでしょうか?

とても大切なことが「予後予測をしっかり立てる」ということです。これは他の疾患においても同様ですが、進行がん患者さんにとっては今日の状態が来月まで続くかどうかわかりません。来週だってどうなっているか分かりません。そこで、生命予後を予測するツールを使って、その方の生命予後がどのくらいなのかをしっかり把握した上で、適切な目標を立て、最適なリハビリテーションを提供していきます。

予後予測を立てるツールとしてPaP Scoreというものがあります。これは呼吸困難や食欲不振などの症状や医師の臨床的な予後予測、採決データなどを点数化し、生命予後を予測するものです。比較的予測精度は高いと言われています。

プレゼンテーション1

目標や提供するリハビリテーションは予後予測の結果で変わります。そのボーダーラインは生命予後が月単位であるかどうかということでした。


◾️生命予後が1ヶ月以上の方に対しては、出来るだけ長くADLが自立した状態を保てることが重要となります。その目標については、
①基本動作・歩行などADLの安全性・脳力向上
②廃用症候群の予防・改善
③在宅療養支援

の3点が柱になってきます。また、それらに対しての目標は数か月後に達成可能なものでなく、短期に達成可能な目標を立てることがポイントとなります。小さくても達成できることを積み重ねていくことがとても重要だということです。

また、運動療法を提供する上での運動負荷や頻度については、総負荷量を元に考えます。ポイントは、「筋疲労しない程度の運動を毎日続ける」ということです。


◾️生命予後が週単位・日単位の方については、
①苦痛の緩和
②呼吸困難の緩和
③離床支援・ADL動作の指導
④心理的支持
を柱にリハビリテーションの目標を立てていきます。

生命予後が週・日単位の方に対してはADLの改善を目標とするのは難しいかもしれません。それよりも、今ある痛みをどうしたら軽減できるのか、離床をすすめるならばどの時間帯がいいのか、どのように行えばいいのか、また、ご本人だけでなく家族に対しても心理的な支援をどう行えばいいのか、考え実践することがとても重要となるケースが多くあります。


*ここに関して、実際に例として示してくださった先生の体験談、とても素敵なお話でしたね。その方にとっての希望や幸せは何か、家族の望むことは何かということをしっかり考え、それを叶えるためにリハビリテーションは何ができるのか、何を提供しないといけないのか実践されたとてもいいお話でした。これこそリハビリテーションのあるべき姿だと強く思ったお話でした。


3.骨転移への対応

最後のセクションでは、「骨転移とリハビリテーション」についてを学びます。

がん患者さんのおおよそ10%〜20%は骨転移を持っていらっしゃいます。骨転移の好発部位は、脊椎や腸骨、大腿骨などの荷重骨に多いです。荷重骨に骨転移がある場合の注意点として、起居動作や離床支援の方法によっては骨折のリスクがぐんと上がることがあげられます。そのため、骨転移のある方に関してはどこにどれくらい転移しているのか日常生活はどういった環境でどのように行なっているのかということを細かに確認する必要があります。ここを知らずにリハビリテーションを行なっていると、知らない間に圧迫骨折をしていた、脊髄麻痺を起こしてしまった、その結果寝たきりになってしまった、ということも起こりかねません。その方を良くしたいと思ってリハビリテーションを提供したはずなのに、寝たきりになってしまった、リハビリを行ったせいでQOLを低下させてしまった、では本末転倒です。

骨転移のある方にリハビリテーションを提供するポイントは2つあります。
①SREを予防する
②機能予後を改善する

SREとは、骨関連事象(SRE: skeletal related events)の略で、放射線療法や整形外科的治療が必要な骨転移痛、脊髄 圧迫、病的骨折、高Ca血症などがあります。

以上のことから、骨転移のあるがん患者さんにおいては、身体の最大の臓器である骨に対し、 専門的かつ積極的な介入を行い、 患者の予後やQOLを最大にすることが求められます。”Bone Management”という概念が非常に重要と言えます。

何れにしても、リハビリ職だけでは得られる情報にも、提供できるケアにも限界があるので、その方の治療方針や日常生活の支援についてチームでケアを行っていいくということも重要です。


ここまで、講義内容のそれぞれのテーマについて、ポイントをピックアップしてまとめていきました。実際の講義ではいろいろな研究データや資料を含め、解説していただいています。さらにどういったリハビリを提供しているかという具体的な内容まで解説していただいていますので、もっと詳しく知りたい方はぜひアーカイブ動画をご活用ください! 


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