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不定期連載小説『YOU&I』5話

「え?……な、何で?」

國立は絶句する。なぜなら、コーヒーを持ってきた店員が中野だったからだ。

中野は、

「コーヒーお待たせしました。ゆっくりしてってね」

と國立に笑顔で声をかけ、レジへと戻っていった。その後ろ姿をただただ呆然と見送る國立。手に持っていた本をがするりと手から落ちる。

“バサッ”

本が落ちた音で我に返り、國立は本を拾いあげる。

(待て待て待て。なんであの子がこのカフェで働いてるんだよ。何がどうなってるんだ)

先程まで平穏を取り戻していた國立の心は再び大きくざわつきはじめる。

國立は中野がこのカフェでバイトをしていることを知らなかった。先にこのカフェに通い始めたのは國立である。その数週間後に、たまたま中野がバイトとして働き始めたのだ。中野は國立がカフェに来る姿を目撃していたが、國立は常に読書をしているので店員のことなどは一切気に止めていないので、中野の存在に気づくことが出来なかった。

なので國立の頭の中は再び激しい混乱に襲われる。

(あの子、ここで働いてるのか? いつから? ずーっと見られてたのか? ……もしかして、だから今日俺に声をかけてきたとか?)

そんなことを考えながら、そろりとレジの方へ目を向けた。すると、それに気づいた中野と目が合う。中野はニコッと笑い、小さくこちらへ手を振った。

國立は急いで目をそらす。

(何なんだ一体……。あの子が何を考えているのかわからない)

國立の心臓はより早く脈をうち、胸がざわついている。それからは何度も本に集中しようとしたものの、一切頭に内容が入ってこない。同じ空間に中野がいること、もしかしたら見られているのではないかという不安、そしてあの笑顔。

(……ダメだ。これ以上ここにいると頭がおかしくなりそうだ)

そう思った國立は、コーヒーを一気に飲み干し本をカバンにしまう。そして、チラチラとレジの方を確認して、中野が接客しているタイミングを伺って逃げるように退店する。

カフェを出ると國立は走った。

なぜ走っているのか、國立にもわからなかったが、とにかく駅まで走り続けた。

「……はぁ、はぁ、はぁ。ここまで来れば大丈夫か」

駅に到着すると國立は膝に手を置き息を整える。そして、大きく深呼吸すると徐々に冷静さを取り戻した。

「俺は何から逃げてるんだ。まるで悪いことをしてるみたいじゃないか。……まったく、あの子のせいで今日はほとほと疲れたぞ」

深呼吸とは別に大きなため息をつき、改札を抜けて電車へと乗り自宅へと戻る。

この時はまだ自分の気持ちに気づいていなかった。なぜこんなに焦っているのか。なぜ中野の笑顔が頭から離れないのか。

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、國立は帰路についた。

▶To be continued

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