不定期連載小説『YOU&I』7話
それから國立と市ヶ谷の距離は近くなった。お互いに今まで気づかなかったが、同じ授業をとっている日が他にもあり、その時は一緒に授業を受けたりもした。
「てかさ、國立くんっていうのも何か堅苦しいからさ、他の呼び方していい?」
「い、いいよ。どう呼んでもらっても大丈夫」
「あれ、下の名前って何だっけ?」
「え? えーと。……は、春樹だけど」
國立は恥ずかしそうに自分の名前を言った。
「春樹か! 何か俺と似てるな」
「そうなの? 市ヶ谷くんって下の名前なんだっけ?」
「冬に真って書いて冬真!」
「……に、似てるかな?」
「え? ほら、名前に季節が入ってるじゃん? 似てない?」
「ま、まあ、そういう意味じゃ似てるのかな?」
「ならこれからは春樹って呼ぶわ。俺のことも冬真でいいから」
「う、うん。わかった」
國立にとって、下の名前で呼び合うような友人が出来たのは久しぶりだった。市ヶ谷とはその後も他愛もない話しをしたり、昼食を共にしたり、この数日でかなり親交を深めていった。
(これだけ冬真と仲良くなれたんだから、あの授業もそんなに嫌じゃなくなるかも。まだ他の人とはしゃべれてないけど、先週よりかはリラックスできそうだ)
市ヶ谷と仲良くなったことで、あの授業に対しての苦手意識も薄れていく。それよりも、市ヶ谷と同じように他の人とも仲良くなれたらなと、國立の気持ちはポジティブなものへと変化していた。
それくらい、市ヶ谷のことを友達として好きになっていたのだ。まだ知り合ってから数日しか経っていないが、市ヶ谷とはリラックスして話せる。そう感じていた。
そして迎えた授業の日。
國立は少し緊張しながら教室へと向かう。教室に入ると既に市ヶ谷たちがおり、
「お、春樹! こっちこっち!」
と市ヶ谷が声をかけてくれた。市ヶ谷が声をかけてくれたことで緊張していた國立の心がほどける。
「えー? 何々? 何で下の名前で呼んでるの?」
席につくと、神田からさっそく質問が飛ぶ。
「いやぁ、この前たまたま春樹とコンビニで会ってさ。それから色々と話したりしたら仲良くなってな。 な?」
「う、うん。他の授業も一緒だったりして、そこで色々話して……」
國立は少し照れながら話した。
「そうなんだ! えー、何か二人だけ急に仲良くなってずるい感じじゃん。私も入れてよ」
「入れてって、もう既に今同じグループじゃん。春樹、智美はけっこうグイグイくるから気をつけろよ」
「ちょっと! まるで私が肉食女みたいじゃない!」
國立はこのやり取りをみてほほ笑んだ。
(友達ってこんな感じなのか。今まで人と関わるのを避けてたけど、こうしてみると、悪くないもんだな)
「じゃあ私もこれから春樹って呼んでもいい?」
「あ、う、うん。全然いいよ」
「あ、私のことも智美って呼んでいいからね。こんな感じで冬真とかからは結構雑に扱われているけど、春樹くんは優しくしてね」
「う、うん。よ、よろしくね」
神田はみんなのお姉さんのような存在。明るくて美人であるが、そのことをまったく鼻にかけることもなく、いじられ役も買うような心の優しい女性だと國立は思った。
そうして、しばらく市ヶ谷や神田らと楽しく話しをしていると、
「おはよー!」
と後ろから元気な声が聞こえた。その声に國立の心臓は大きく脈を打った。
▶To be continued
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