ドリアン・グレイの肖像、オスカーワイルド、光文社古典新訳文庫

・主人公ドリアングレイの心の醜さや罪がすべて肖像画の中に描かれた自分に写し取られ、本人は美と若さを保ち続けるという寓話的設定の小説で、視覚的表現に溢れ、非常に面白い。中心にあるのは、正しく生きるべきか、刹那的に快楽的に生きるべきか。悪い行いに対する罰がない時、人はどのように行動するのか。視覚的表現が多いので、映画的な表現も面白いのではないかな。実際、映画化や舞台化は数多くされているよう。

誘惑を退けるにはそれに身を任せるしかない。そうしないと人はそれに病的に捕らわれる。罪は人の脳の中だけにある。ヘンリー卿の言葉に突き動かされたあどけないドリアン。

・「美を疑うことはできない」ヘンリー卿のドリアンのからかいは、言葉巧みに、しかし確かに美を賛美している。

・p69、「そもそも結婚などやめておけ、ドリアン。男は疲れたから結婚する。女は好奇心から結婚する。そして両方ともがっかりするんだ。」ヘンリー卿がドリアンに向けて話した言葉。

・p72「大いなる情熱こそ、無為徒食を常とする人間の特権なのだ。」ヘンリー卿はドリアンへを快楽主義的な道へ引き摺り込もうと懸命である。

・p82「しかし通常、科学が取り上げるテーマは瑣末で、何の重要性もないように感じられた。人間の生活、それこそが唯一研究する価値があると思えたのだ。それに比べれば、価値のあるものなど何もない」ヘンリー卿のこの、一回性を持つ人間の生活と経験こそが重要であるというのは、文学的な考え方で共感する。

・p89「情熱の牢獄にいる彼女は自由だった」ドリアンと婚約したシビルの浮かれ切ったさまを表現した描写。牢獄にいるのに自由とは、よく表現されている。

・p107「結婚の本当のデメリットは人を利己的でなくすことだ。利己的でない人間はつまらない。」ヘンリー卿は道徳の欺瞞に対して果敢に挑むが、それはドリアンを通してであり、本人が不道徳的に振る舞うことがない。そこに保身を感じるし、このプロットには少しシラノドベルジュラック的な要素も感じる。

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