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セキララ!精神科☆千里さん篇

これは私が認知症の閉鎖病棟にいた時の話です。
認知症病棟と言っても認知症だけの方は珍しく、アルコール依存症や統合失調症など合併症のある方が多く、また車椅子や寝たきりの方が多い病棟だったのでトランス(車椅子移乗)も多く体力的にも精神的にもとても辛い場所でした。

その中でも私の癒しになっていた患者さんがいました。
その人は千里さん(仮)と言います。

とても可愛いおばあちゃんで顔も行動も言動も可愛くてスタッフからも人気の方でした。
千里さんは車椅子に乗っているのですが、自席に来るといつも目の前のテーブルを素手で摩ってました。
一箇所ではなく車椅子から身を乗り出してテーブルの隅から隅まで丁寧に摩っているのです。

「何してるの?」
と聞いたことがありますが
「拭いてるの。」
とのことで手で綺麗に拭いているのだそうです。

前に手が汚れてしまうと思って布巾を渡してそれで拭いてもらうようにしたのですが、見事布巾はテーブルの下に捨てられていて千里さんはいつものように手で拭いていました。

「あれ!?布巾捨ててあるよ?」
と言うと
「捨ててないよ!落ちちゃったの。」
と言うのでまた洗って絞って、綺麗に畳んで千里さんに持たせてあげたら一生懸命布巾でテーブルを拭いているのですが、だんだん手から布巾がズレてきて結果手で拭いていてテーブルに取り残された布巾はテーブルを綺麗にしている千里さんの手によって端に端にと追いやられてテーブルの下に落とされてしまいました。

また、千里さんが拭いているテーブルに手を置いているとテーブルの延長なのか、手を摩られるのです。
手から徐々に登ってきて肘ぐらいまで摩られます。

「マッサージしてくれてるの?」
と聞いたら

「汚いから拭いてる。」


と言っていました。

とても可愛いです。


私は千里さんののんびりな感じが大好きでこういうおばあちゃんになりたいと思っていました。
認知症でも、まぁ病気がなくても歳をとっておじいちゃんおばあちゃんになって気性が荒くなる人もいますが、忘れることが多くても穏やかでのんびりしていてみんなに可愛い可愛いと言われる千里さんはまさに私の理想です。


私は千里さんのことを「ちーさま」と呼ぶことがありました。
ある時、なんとなく
「ちーさま!」と呼んだら

「はいさま?」

と言われたことがあります。
めちゃくちゃ可愛くないですか?笑

様を付けられたから自分も返事に様をつけて返す。
千里さんは私の名前も覚えてないし、自分が今どこにいるかもわかってないと思いますが、そういう咄嗟のお茶目な返しは千里さんの今までの人生を表しているようでとても素敵です。


基本的に病院などは患者さまには敬語で話します。
〇〇様と様付けする病院もあります。敬語で話し、敬うのは確かに大事ですが、コミュニケーションとして気楽に話すのも私個人的には大事だと思います。
冗談を言い合って楽しい会話をしたり、病状だけでなく天気の話をしたり、政治家の悪口を言ったり…。笑


相手の病気の具合にもよりますが、病院の

「絶対に敬語で話す、余計な話はしない」

みたいな方針は私は嫌いでした。


例えば山田さんという名前の人が「やまさん」と呼ばれて怒ることはないですし、「山田の兄貴」と呼んで満更でもない人もいます。

実際にトモヒロさん(仮名)という方がいて家族のこともわからなくなっている方がいたのですが、幼い頃から「トモくん」と呼ばれていたので名字やトモヒロさんと呼んでも自分のことだとわからないから声をかけるときは「トモくん」と呼んであげてくださいと言うご家族もいました。

こういった認知症などは本人の意思確認が難しいので自己満足で行動することが多いです。
特に病院側は。

だからこそ、患者さんの一番近くにいるスタッフ達は本当の家族のようになんでも言えて安心できる存在であることがベストだと私は思っています。


精神科の患者さんはできないことも多いです。

トイレもわからず、ドライヤーに怯える人もいます。
でもその代わりに元気をもらうことも多いです。
確かに精神科の仕事は大変です。

私はどんな仕事よりも大変だと思っています。
大変なのに給料は低い。
働く人は年々減っています。
それでも全くいないわけじゃない。

大変な仕事で給料も安いのに働く人がいるのは私のように大変な中にも素敵な出会いが会って心に残る経験と楽しい記憶があるからだと信じています。


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