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A dreamer in a kitchen.

あれは18だったか、19だったか。

旅に出たきっかけも忘れた。ひたすらに風の吹くまま気の向くまま何かに導かれるまま、ただ流れるように旅をした。

宿にはほとんどお世話にならずに、扉のむこうに出逢えるかもしれない地球家族を探した。指の先いっぽん一本に心を込めて、ノックノック。

行く先々で、その”魔法使い”たちは待っていてくれた。彼らは私の胃袋を逸品で、心は言葉で温めた。ひと時、ひと月、必死にかき集めた”なにか”たちは私をわたしに近づけた。ただの旅にはならなかった。

右足が帰ろうと言ったのはそれから一年後。左足はうなずかなかったけれど。

それから数年たった今、なにより鮮やかに想い出されるのは魔法使いたちの背中。キッチンこそがアトリエのようだ。

どこの国の彼らも等しく、それはどっしりとしたポプラのような存在感とフラミンゴがサンバでも踊るかのように愛らしく愉快だ。背中が語っているのは愛の外になにもないから。

だから私は台所で夢をみる。

あの奇跡みたいな魔法のひと匙と言葉たちを、ありったけの感謝と愛と敬意とともにここでみなさんにも少しずつ…。

味見していきませんか?