キャンプの達人3人がそれぞれのコツを教えます! 「人生を最高にするキャンプの楽しみ方」イベントレポート
ソロキャンプやグランピングが2018年ごろよりメディアやSNSで注目を浴び、さまざまなキャンプの楽しみ方が一気に広がりました。
でもまだ「野外活動に不慣れで、子どもを連れて行くのは不安...」「グッズを何から揃えたらいいかわからない」「虫が苦手で野外泊はちょっと...」と二の足を踏んでいる方も少なくないのでは?
そんな方々に向け、キャンプにつながる学問分野を多くもつ國學院大學のご協力で、「人生を最高にするキャンプの楽しみ方」と題したイベントを行いました。
キャンプ上級者である料理家の今井真実さん、建築家・起業家の谷尻誠さん、國學院大學で教育×キャンプの研究をしている青木康太朗さんをゲストに、それぞれのキャンプの楽しみ方について語っていただきました。
このnoteでは、イベントの様子をまとめてお伝えします。
キャンプ計画で盛りあがろう
ーーまずはキャンプの計画の立て方や準備についておうかがいします。みなさんは、計画の段階で役割分担をしていますか。
今井 キャンプに行く前は、保冷剤を冷凍したり、お米を計っておいたりといろいろ細かい準備が必要なんですよね。そういうのはすべて役割分担しています。
子どもたちも、「自分の準備は自分でする」というのが役割です。ちゃんとバッグの中に入る分だけ、必要なものを自分たちで用意しています。
谷尻 うちは妻が事前に食材の買い物をしておいてくれて、現地で調理をするのが私の役割です。ふだん家での調理は妻にまかせっきり。なので、キャンプでは私が料理をすることになっているんです。
青木 事前準備は私か妻のうち、手が空いているほうがしています。子どもたちも少し手伝ったりして。
キャンプって、行っている間だけが楽しいんじゃないんですよね。「何食べる?」とか「どこ行こうか?」とみんなで話して、スケジュールを立てていくのがまた楽しいんです。
ですから、家族みんなで「何をしようか」と計画を立てるところから大事にして、進めていくといいと思います。
具体的な役割分担ができるのは、キャンプに行ってからです。テントを建てるときに何かできることがあれば、子どもたちがすることもあります。ご飯を食べたら食器を洗うなど、必ず役割分担をしますね。
キャンプだと「親がやることを手伝う」のではなくて、それぞれが自分の役割をもって「みんなでやる」という感じになる。それがキャンプのいいところでもあります。
今井 子どもたちも自然に動きだしますよね。薪や調理器具が重くて1人では持ちきれないとか、食器を片づけないとテーブルが空かないなど、助け合わないと早く終わらないということが身をもって感じられるからでしょうね。
キャンプ飯には地元の食材をフル活用
ーー料理家の今井さんに、キャンプでの食事の楽しみ方をぜひお聞きしたいです。
今井 キャンプに行くときは、事前に必ず「キャンプ場の名前」、「土地名」、「精肉店」で検索をします。地元のおいしいお肉屋さんが見つかったら、まずそこをめがけて買い物に行くんです。
だいたいどこの土地にも銘柄牛っていうのがあるんですよ。それを買って、秋冬はテントの中ですき焼きやお鍋をするのが定番ですね。
今井 すき焼きで余った牛肉を夜中にいぶしてビーフジャーキーにしたり、豚肉でベーコンなどの燻製をつくったりもします。
そうやって保存食をたくさんつくって帰ると、帰宅後1週間の食事づくりがめっちゃラクになるんですよ! 保存食をつくるためにキャンプに行っているようなところもあります(笑)。
夜の焚き火タイムにはお芋さんを放り込んでおいて。焼き芋にしておけば、キャンプから疲れて帰ったあとの食事も、ラクに済ませられます。
青木 私は道の駅とかで何が売っているか探したり、地元の料理店に食べに行くのも楽しみにしていますね。
その場でしか見られないもの、できないこと、食べられないものなど、「その場を楽しむ」ということをすごく大事にしていて。子どもたちにも、それぞれの地域に触れる経験をたくさんしてもらいたいなと思っています。
今井 私も、何泊もするときは外食をしますね。地元のおいしいお店を探したり、日帰りじゃ無理だけど1泊2日だったら行けるようなちょっと有名店に行ったりします。
ーーキャンプだと「野外でご飯をつくらなくちゃ!」と思いがちです。でも、外食してもいいんですね。
今井 もちろんです! 自由に楽しめばいいと思いますよ。
ーーキャンプ好きが高じて、プライベートな会員制のキャンプ場「DAICHI silent river(以下、DAICHI)」までつくってしまった谷尻さん。キャンプ飯のこだわりは何かありますか。
谷尻 私は料理が全然できないんですよ。だからいつもつくるのは、バーベキューばかりでした。
そこで、そんな私でも簡単においしい料理がつくれるようにと、食材や調味料がセットになったパエリアキットを妻(料理家の谷尻直子さん)に開発してもらったんです。
ーーこの写真の料理、谷尻さんがつくったんですよね? すごい!
谷尻 キットがありますから(笑)。自然の中にいて1番豊かな時間が何かって聞かれたら、私にとってはおいしいご飯とお酒をいただいているときなんです。だから、そこはこだわりました。
キャンプって、けっこう忙しいんですよね。テントを設営したらすぐ晩御飯の準備に取りかからないとならない。
今井 火を起こすのにもけっこう時間がかかります。
谷尻 そうなんですよね。だから、その時間をできるだけ上手く短縮して、自然の中でゆっくりする時間をつくり出すように工夫しています。
テントはとにかく寝床を快適に
ーーテントの空間づくりに関するこだわりを教えてください。
今井 寝るときがしんどいとキャンプを嫌いになってしまうんですよね。だから、寝床づくりにはこだわっていて。私はコット(※キャンプなどでつかう簡易ベッドの総称。地面高が約20cmのローコットと、約40cmのハイコットがある)と電気毛布を必ず持参しています。
谷尻 寝心地は重要ですよね。私は、朝起きたときに体がバキバキになるのがイヤで。エアベッドを持っていったり、コットを並べて寝たりしています。家より快適なんじゃないかというくらい(笑)。
青木 グランドシート(※テントと地面の間に敷くシート。テントの底面の保護にもなる)というマットも、必ず買っておいたほうがいいと思います。河原など石がごろごろあるような場所だと、足の裏が痛くなることがあるので。
キャンプ道具を買うときは、メンテナンスができるかどうかも重要です。ある程度有名なメーカーのものだとメンテナンスできることが多いので、そうすると長くつかえますよ。
たとえばテントは、ポールが折れて立てられなくなることがあるんです。そういうのを直してもらえるところがあるといいですね。
ーー壊れたら買い直すのではなく、「長くつかい続けられるものを」ということですね。
青木 ずっとつかっていると、それが思い出になるんですよ。「いろんな場所でこのテントをつかって、子どもたちと一緒に過ごしたなぁ」と。
子どもや家族が、テントやキャンプ道具と一緒に成長していくような感覚もおもしろいなと思うんですよね。
そうそう、寝心地ということでは虫除けも欠かせません。寝てるときに虫がブーンと入ってきたら、もう眠れないじゃないですか。だから、虫除けは必ず持っていきます。
谷尻 ちょっと高いけど、「ウルトラベープPRO」っていうのがあるんですよ。いろんな飲食店やホテルなどでつかわれているものです。それを置くようにしてからは、キャンプ場でもほとんど蚊に刺されなくなりました。
キャンプに欠かせないモノとは
ーー虫除けのほかに、キャンプの際に必ず持っていく道具はなんですか。
青木 ファーストエイドキット(※ケガなどをしたときに最初の処置をするための道具を詰め合わせたもの)を用意しています。
青木 それとマルチツール、むかしでいう十徳ナイフ(※ナイフの刃のほかに、ハサミや缶切り、ドライバーなどさまざまな機能が付属している折りたたみ式ナイフ)を必ず持っていきます。
青木 写真の十徳ナイフは、自分が働きだしたときに親父がくれたものです。それをずっとつかい続けています。
やっぱり便利なんですよ。ヒモを切るときや木の枝を削るときなど、いろいろな場面で活躍します。
谷尻 私が欠かさず持っていくものは、海パンです(笑)。本当は、何も身につけないで川に飛びこむとめちゃめちゃ気持ちいいんですよね。(谷尻さんが運営するプライベートな会員制キャンプ場に)男だけで行ったときは、その状態で川に飛び込んで自然の中で寝転んだりもします。本当、最高ですよ(笑)。
今井 風ぼうはマストアイテムです。調理にはカセットコンロやシングルガスバーナーをつかっているんですが、風が強い日や寒い日は温かくなりにくいんですね。
今井 でも、風ぼうでちょっと囲んであげると、火がふだん通り起こせるんです。ご飯を炊くときも、風ぼうがないと温度が上がりきらなくて硬く仕上がったりするので。風ぼうは欠かせません。
実は私、キャンプに行くときに包丁をよく忘れるんです(笑)。
ーーその場合、どうするんですか。
今井 ハサミをつかいます。肉も野菜も全部ハサミで切ります。あと、引きちぎる(笑)。
ーーワイルドでいいですね(笑)。
谷尻 道具がないならないなりに、工夫するんですよね。忘れ物をしたことも、いい思い出になります。
キャンプでの過ごし方
ーーキャンプ場では何をして過ごされることが多いですか。
今井 家族みんなそれぞれに、ゴロゴロしながら本を読んでいることが多いですね。デイキャンプのばあいは子どもたちと、ポテトチップスやパイの実などの買ってきたお菓子を炙る実験をしたりも。
今井 それから、夜に夫と焚き火をじっと見ながら過ごすのも楽しみのひとつです。炭化した薪が最後にキラキラと光る様子を眺めるのが好きなんですよね。
家族連れだと予定が思い通りにいかないことが多いので、そんなにたっぷり予定を詰めこまず、まずはゆっくり過ごせるようにするのが1番かなって思っています。
谷尻 私は川の水の流れが穏やかな場所でカヌーをしたり、DAICHIにあるサウナを満喫したりしています。
実はサウナは、冬がベストシーズンなんですよ。サウナのあとに冷たくて透明な川の水に飛び込んで、自然の中で外気浴すると最高に気持ちいいんです。
青木 うちは、子どもが小さいころは家族4人でキャンプに出かけて、よく湖でカヌーをしていました。でも最近は、次男と2人で行くことが多くなってきています。
キャンプって、ライフステージに合わせてスタイルが変わっていくんですよね。子どもが小さいうちは、その子ができることを家族みんなで楽しんで。成長してくると、たとえば子どもが自分で木を削ってお箸をつくったり、料理をはじめたりします。
うちでは次男が登れる山のレベルが変わってきたので、最近は少し高い山に一緒に登ったり、小さい縦走用のテント(※雨風に強い山岳用のテントのこと)で2人で寝たりして、キャンプを楽しんでいます。
子どもとキャンプ
ーー谷尻さん、今井さんのお子さんたちは、キャンプをどのように楽しんでいますか。
谷尻 川の石をつかって遊んだり、落ちている枝を拾って何かをつくったりしています。
今井 本当に子どもは石が好き(笑)。うちの子も、きれいな石を拾って積みかさねて遊んでいます。
谷尻 自然の中では遊び道具が何も用意されていないので、子どもたちが自分で遊び方を発明するんですよね。
うちの子はほかにも、カヌーに乗ったり、釣りをしたり、五右衛門風呂に火をくべて、お風呂の守りもしますよ。
私は子どもにできるだけいろんなことをやらせるようにしているんです。ちょっと危ないぐらいの思いをしたほうが、やり方をよく覚えるんですよね。
青木 そう思います。火を扱わせるときなどには確かに危ないこともあるかもしれません。ですが経験するなかで子どもは、自分がどうやったらうまくできるかを考えて学んでいくんですよね。
自然の中での経験や遊びには、子どもたちの学びのきっかけになることが多いと思います。
自然の中にはすぐにつかえる人工的な遊び道具がありませんから、自分で考えて手間をかける。そうやっていろいろと考えることが、思考力を伸ばすことにつながっていくと思います。
今井 子どもって、自然の中にいると、大人にはよくわからない子ども独自の遊びをふいにしはじめますよね。
青木 そうですね。大人が想像もしないような遊びをつくり出します。
自然の中で何か興味があるものを見つけて「これってなんだろう?」と調べてみたり。それは、子どもの探究心を高めることにもつながると思います。
学問としてのキャンプ
ーー青木先生は、大学の教え子の学びにキャンプをどう生かされているのでしょうか。
青木 教員や保育士を目指す学生には、野外活動のスキルが必要なんです。学校でキャンプに行く宿泊研修や幼稚園のお泊り保育では、野外でカレーをつくる際などに教師が子どもを指導しなければなりませんから。
でもいまの学生たちは、自然体験が少ない世代。ですから、大学の実習でキャンプに出かけ、正しい薪の割り方や火の起こし方、カレーのつくり方などを経験してもらいます。
青木 とくに幼稚園の教育では、遊びを通して学ぶことが大事なんですね。そしてその遊びの中心は、自然です。自然の中で遊びながらどうやって子どもたちの興味を引きだすか、自然との関わりをどのようにして深めていくかということを、学生たちに教えています。
最高のキャンプに欠かせないこと
ーー最後に、キャンプを最高のものにするために欠かせないことを教えてください。
谷尻 最初は、慣れているひとに連れて行ってもらうのがいいと思いますよ。キャンプの楽しみ方をよく知っているひとに。
テントやほかの道具も、そういうひとから借りるのがおすすめです。よくわからないまま道具を買ってしまうと、扱い方が難しいと感じることも多いですから。
キャンプの楽しさがわからないまま、キャンプ嫌いになってしまうのはもったいないと思います。
今井 道具は、キャンプ場でレンタルするのもいいですよね。まずは気軽なキャビン泊から試して、野外で寝ることに慣れていくのもいいんじゃないでしょうか。
テントの立て方なんかは、YouTubeで検索すると種類ごとにいっぱい出てきます。予習してからキャンプに行くのもおすすめですよ。
青木 お2人の話を聞いて、僕も自分がやったことのないキャンプにもっとチャレンジしてみたいと思いました。ぜひ、谷尻さんのキャンプ場に行ってみたいし、パエリアもつくってみたいです(笑)。
最高のキャンプにするための大前提をひとつつけ加えるなら、「ルールとマナーを学ぶ・守る」ことかと思います。
たとえば、ゴミの処理をきちんとする、就寝時間が決まっているキャンプ場で夜遅くまで騒がないなどです。
それから、「安全」に過ごすこと。これも大事です。すごく楽しいキャンプでも、最後に大きなケガをしてしまったら、残念な思い出になってしまいますから。
とくにこれからキャンプをはじめられる方は、キャンプを最高のものにするために、ぜひ「安全」を意識していただければと思います。
ーー今日このイベントを企画した國學院大學は、2021年から「キャンプを考える研究室」というnoteを運営しています。昨年、今年と2年連続で、キャンプにまつわる記事を募集する投稿企画も行なってきました。
「キャンプを考える研究室」では、キャンプの楽しみ方やキャンプがひとに与える影響を考察する記事などを発信しています。今回のイベントをきっかけにもっとキャンプを楽しみたい、教育とキャンプの関係についてもっと知りたいと思った方は、ぜひそちらも参考にしてみてください。
みなさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
ゲスト・プロフィール
今井真実
料理家
神戸生まれ。「つくったひとがうれしくなる料理を」という考えをもとに、雑誌、Web媒体、企業広告など多岐にわたるレシピ製作を担当。著書に『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』、『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』がある。
note
谷尻誠
建築家/起業家
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.代表取締役。広島・東京の2ヶ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける。近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」をはじめとする他分野で開業するなど、事業と設計をブリッジさせて活動している。
note
青木康太朗
國學院大學 准教授
國學院大學人間開発学部子ども支援学科准教授。専門は野外教育、青少年教育、レクリエーション、安全教育。自然体験活動を通じた青少年の育成と、その指導者の養成に携わる。
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text by いとうめぐみ