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デビューを目指すクリエイター必見!プロ作家の「物語の終わらせ方」──細音啓さん×栗原ちひろさん×丸戸史明さん

7月2日(日)にnoteで開催したオフライン創作会で、人気作家の細音啓さざねけいさん、栗原くりはらちひろさん、丸戸史明まるとふみあきさんによるトークセッションを行いました。

7月17日(月)の「創作大賞」の締め切りが間近に迫る中、「物語の終わらせ方」というテーマでお話しいただきました。ほぼ全文文字起こしでお届けします。聞き手は、noteディレクターで編集者の萩原猛はぎわらたけしさんです。

細音啓(作家・シナリオライター)
神奈川県出身。第18回ファンタジア長編小説大賞にて佳作を受賞し、2007年に『黄昏色の詠使い』でデビュー。以降もファンタジー作品を中心に精力的に執筆を続け、2017年から始まり現在も刊行中の『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』シリーズは2020年にTVアニメになった(SeasonⅡ放送決定)。また、並行してシリーズ展開している『神は遊戯に飢えている。』もアニメ化企画が進行中である。
Twitter:@sazanek

栗原ちひろ(作家・シナリオライター)
東京都出身。第3回角川ビーンズ小説大賞にて『即興オペラ・世界旅行者』で優秀賞を受賞。同作を改題・改稿した「オペラ・エテルニタ」で、2005年9月にデビュー。​その後も少女小説やキャラクター文芸等のジャンルで執筆を続けている。さらに、その活動の合間を縫ってWebに投稿していた『死んでも推します!! 〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜』も書籍化した。また、2022年には作家・紅玉いづきらとともに「株式会社ツクリゴト」を設立し、さらに活躍の幅を広げている。
note:https://note.com/kuriharachihiro/
Twitter:@c_kurihara

丸戸史明(シナリオライター・作家) 2002年にゲームシナリオライターとしてデビュー。『パルフェ 〜ショコラ second brew〜』『この青空に約束を―』『WHITE ALBUM2』など数々のヒット作を手がけたのち、2012年に『冴えない彼女の育てかた』で小説家デビュー。全13冊+短編集7冊刊行されるヒットタイトルとして、2回のTVアニメを経て、劇場版アニメにもなった。2022年にはオリジナルTVアニメーション『Engage Kiss』のシリーズ構成と脚本も手がけた。
Twitter:@F_Maruto_staff

萩原猛(noteディレクター・編集者)
1980年生まれ。ぎょうせい、幻冬舎コミックスを経て、富士見書房(現KADOKAWA)に入社。ドラゴンブック編集部デスク、ファンタジア文庫編集部副編集長、富士見L文庫創刊編集長、カドカワBOOKS創刊編集長、小説サイト「カクヨム」創設編集長を務めたのち、退社。現在はnoteでディレクターをするかたわら、多くのクリエイターとともに、映像IPやゲームIPの企画立案に携わっている。主な立ち上げ担当作品は『冴えない彼女の育てかた』『かくりよの宿飯』『紅霞後宮物語』『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』『蜘蛛ですが、なにか?』など。また、原作担当編集としてTVアニメ『リコリス・リコイル』『Engage Kiss』『LINK!LIKE!ラブライブ!』等にも携わっている。
note :https://note.com/takeshihagiwara
Twitter:@yajin


物語の終わりはどうやって決める?

プロローグとエピローグが対になるようにつくっている

── 最初のテーマは、「物語の完結をどのタイミングで決めているか」。書きはじめる前なのか、途中なのか、それぞれ流派があると思いますが、細音さんはいかがですか?

細音啓さん(以下、細音) 自分の場合は二つあります。一つはプロットをつくって、大筋のはじまりと終わり方を決めるとき。もう一つは、実際に物語を書き終えるタイミングではなく、プロローグを書いたときですね。プロローグとエピローグが対になって、相互補完的になると美しいと思っているんです。だから、プロローグを書き出した段階で、自分の中でエピローグが鮮明になる気がしています。

── プロローグとエピローグをつなげるというのは、1冊の本の構成のお話だと思いますが、仮に2巻、3巻と広がっていった場合は?

細音 ファンタジア長編小説大賞で佳作を受賞したデビュー作『黄昏色の詠使い』の場合は、最初から1巻から10巻までの構想が浮かんでいました。受賞したときに担当編集さんに「10巻までやりたいんです」って言ったら、「10巻はよっぽどのミラクルがないと難しいです」って教えていただきました。

実はそのときに10巻分の設定資料集を持っていったんですが、編集さんは15年経ったいまでもそれを持ってるんですよね、自分の中では忘れたいんですけど(笑)

── 実際に2巻目以降を書くときは、その構成に則っていたんですか?

細音 そうですね。珍しいと思うんですが、編集さんに構成通りさせていただきました。

1巻では設定を広げすぎないように

── 栗原さんは「物語の終わらせ方」はいつ決めますか?

栗原ちひろさん(以下、栗原) 私は基本的にはプロットのときですね。文庫を1冊完結させる場合は、主要キャラクターの最初の目的を達成したところできれいに終わるのが基本かなと思います。これがすごく売れて、3冊くらいのシリーズになってくると、1冊目の事件とか、終着点を深掘りしてもう1回やる、という感じです。

5冊ぐらいになると、話の枠自体を広げていく。関わる国が増えるとか、大きい事件になっていくとか、キャラクターが増えるとか。それ以上続くと、最初に決めたキャラクターの配置ごと、ぐるぐる変わっていくような。そんな感覚で終着点を決めています。

── 1巻のときに、5巻の設定のイメージって持ってましたか?

栗原 ないですね。1巻のときは1巻だけ。ここで広げすぎていると、未練が出ちゃうんですよ。「これをちょっとでも書いておきたい」みたいな。そうなると、大体においてはわかりづらいというか、設定過多の印象が出てきてしまう。

ただ、自分の中での整合性をとるために、歴史や神話のような過去の設定を長くつくってあることはあります。そういうところは、いくら深めていても書かないようにできるんですよね。「みんなはこういう神さまを信じている、だからスプーンは丸い」みたいな設定をつくっていたとしても、スプーンが丸いのは普通のことなので。

流れで書き上げたラストシーンが好き

── 丸戸さんはいかがでしょうか。

丸戸史明さん(以下、丸戸) 自分がやったシリーズ作品の場合は、1巻目のときは、1巻の終わりを考えます。担当さんが「3巻までいけますよ」と言ったら、そのときに「3巻まではこうしよう」と考えて…というふうに広がっていきましたね。

単体の作品でいうと、プロットの段階で終わりを決めるんですが、そのときに二つのパターンがあります。ラストシーンが浮かんでいる場合と、浮かんでいない場合。浮かんでいる場合はそこに向かって進めていくんですが、書いている間中浮かばなくて、最後のノリでラストシーンが浮かんで物語が流れていったときのほうが、いいものができるような気がしますね。

── ラストシーンが決まってなくても、書きはじめられるときの感覚ってなにかあるんですか?

丸戸 決まってようが、決まってなかろうが、書かなきゃいけないんで書くんですよ。でも、決めずに書いて、そこまでの流れから自然と湧き出てくるラストシーンのほうが好きだなっていう感じです。

── 書きはじめはぼんやりとしていて形になってないものを、書きながら見つけていくということですね。

丸戸 逆にすごくかっこいいラストシーンがカチッと決まってると、もしかしたら間をねじ曲げなきゃいけないかもしれません。そのあたりが痛し痒しというか、どっちがいいかっていうのはよくわからないんですけど。

Web小説の場合は「おもしろさ」を最初に寄せる

── ここまでは書き下ろしや枠が決まっているケースのお話が多かったと思いますが、栗原さんはWeb小説も書かれますよね。Web小説は文字量が自由ですが、その場合はどこで終わりを考えていますか?

栗原 私は商業でやってる作家だから、(その後に本にしたいという)スケベ心があって、10万字で切れるように書きはじめるんです。ただ、Web小説って、長いほうがポイントが入るんですよ(笑)。10万字書いてみて、「ちょっとイマイチだったな…20万字!」って書いていって、「疲れたからもうやめるか」とやめているので、ラストはかなり直前に決めました(笑)

書籍化した『死んでも推します!! 〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜』は、途中で番外編を入れたりして長さを調整しながら、きれいなラストが浮かぶまで頑張りました。

── じゃあ、書きはじめのときに、ラストシーンが頭の中にあったわけではない。

栗原 Web小説って、最初に「おもしろさ」を寄せないといけないと思ってます。「こういうコンセプトなんだよ。おもしろいかな?」と周りの人に聞いてまわって、みんなが「いいね!」と言ったらやる、みたいにしています。

── それって、いままでのつくり方とは違うと思うんですが、ノウハウはどうやって考えたんですか?

栗原 即興小説に近い感覚ですね。チャットで小説を書くようなサイトで遊んだり、お題を与えられて1時間で書いたり、瞬発力で書くことは結構やってたんですよね。


原稿の見直し方・推敲の仕方

書いているうちにキャラクターが成長するから、見直しで整合性を取る

── では、次のテーマにいきます。書き上がった原稿をどうやって見直しているか、どこを見ているのかをうかがいたいと思います。

丸戸 一番基本的なことは、キャラクターは書いていくうちに育つものなので、言葉遣いとか思考のルーチンって、最初に書いていたものと絶対に乖離しているんですよ。だからそこの整合性を取るための作業をしていく。

あとはたとえば、「このキャラとこのキャラが、実は血縁だったとしたらおもしろいんじゃない?」というふうに、展開そのものに関しても、即興で動くときがあります。そうすると最初の設定と辻褄が合っていないので、「じゃあ前に伏線を仕込んでおこう」と。それがうまくいくと、読者が「こんなところに伏線を仕込んであったんだ、すごい!」と勘違いしてくれることがあるので、おすすめです(笑)

読者の期待を裏切っていないかをチェックする

── 後付けの伏線ですね(笑)。栗原さんはいかがですか?

栗原 最近、仕事ですごいやばい直しをしたんですよ。最初は5話構成の想定で、最後の1話にラスボスとの因縁の対決を持ってくる予定だったんです。でも初稿を出したあとに、パッケージが恋愛小説だったことを思い出して、「恋愛の盛り上がりが足りない」と気づきまして(笑)。ラスボスをリストラすることにして最後の1話を切り、恋愛の決着を長めにとって終わりにしました。

最初に物語の目標を設定します。恋愛小説だったら、それは2人が結ばれること。決してラスボスと戦うことじゃないんですよね。最初に設定した目的を達成してるかどうかを確認して、達成していなかったら、元気に切っていくのが大事なのかなと思います。

読者さんも表紙や最初の展開を見て、何かを期待して読み始めるので、期待を裏切るのが一番いけないことです。逆に、期待したところが分厚く書かれていると、満足度が上がります。あとは、基本的にはストーリーがいっぱいあるよりも、感情が充実しているほうが読後感がよくなると思うので、そうしたところをチェックして、どちらかを捨てなきゃいけないと思ったらストーリーを捨てます。

見直すタイミングも大事

細音 僕は「いつ直すか」も大事だと思っています。原稿が書き上がった直後だと、興奮していておもしろく感じちゃうので、直しがうまくいかないことが多いんですよね。学校のテストでも、テストが終わった後に自分の間違いに気づくことがあるじゃないですか。そういうふうに、クールダウンして冷静になる時間が必要だと思っているので、1日空けたりしています。お二人はどうですか?

丸戸 見直す時間はあんまり意識したことはないですが、中盤は読んでいておもしろいんですけど、序盤は恥ずかしい。興奮状態であろうが、つまらないですね(笑)

栗原 時間を空けることができないときは、形式を変えるようにしてます。縦で書いたら横で読むとか、プリントアウトして読むとか。新鮮に見えるようにすると、粗が見つかりますね。

── 時短方法もあるんですね。丸戸さんは先ほど、書いた後に辻褄の合わなさに気づくということですが、書いている途中ではないんですね?

丸戸 途中に気づこうが何しようが、書いている間は意識して止まらないようにしてるんです。

── 書き上がるまでは見直すな、ということですね。

栗原 私は、だいたい1章が終わったころに、“自分会議”を開きます。このオープニングで滑っていけるのか?と。物語の目標を提示するところであるし、キャラクターの設定を開示するところであるので、キャラクターの相性とかもみながら、「このストーリーにお前たちは乗っていけるのか?」みたいに考えて、調整したりしますね。

細音 僕もプロローグってすごい大事だと思っているので、終わりを確かめるためにもプロローグは何度も読んで、直してますね。たとえば、1章を書き上げたら、2章を書きはじめる前に読み返したりして、作業中はほぼ毎日、プロローグを微調整してます。

設定の矛盾を起こさないためには?

── ちなみに、誤字脱字はけっこうチェックしてますか?

丸戸 僕は誤字を見つけるのはけっこう得意なので、書きながら見つけてつぶすんですよね。だから適切なアドバイスはできないです(笑)

栗原 私もそんなにないほうなので……。長い西洋人名をつけたときは、単語登録をして一発変換できるようにしておくことで、だいぶ誤字は軽減するかなと思ってます。

細音 誤字脱字は何回か文章上で推敲することで、ある程度、削っていけるかなと思っています。先ほど栗原先生が、デスクトップと紙で見るのは違うとおっしゃっていましたが、僕も新人賞でデビューしたときには、紙で印刷して応募締め切りギリギリまでチェックしてましたね。

あとは誤字脱字とはちょっと違うんですけど、途中で時間経過の矛盾が起きちゃうことがあるので、時間の設定を書いておいて、気をつけるようにしてますね。

── 設定矛盾は、読み直して気づくことはありますか?

丸戸 発売されて気づくことはあります。「あっ!」って(笑)

栗原 私は「小説家になろう」に書いている作品は、元気にいっぱい矛盾してますけど(笑)、印刷したあとに気づくことはあまりないですかね。そんな難しいこと、やってないです(笑)

── 私はよく若い作家さんに、「数字をできるだけ書かないように」って言います。意味がある数字はいいんですが、意味がない数字を書くと、その数字に引っ張られて矛盾が出て、それで読者が余計なことを考えるようになっちゃうので。意味がない数字は具体的に書かず、「数時間後」「数日後」という表現でいいよって。


終わらせ方に詰まったらどうする?

終わりに至るまでのどこかで詰まっているはず

── じゃあ、次の質問にいきます。終わらせ方に詰まってしまったときの対処法について、細音さんからお聞きしたいと思います。

細音 終わらせ方に詰まったときって、終わりに詰まってるんじゃなくて、終わりに至るまでのどこかで詰まってるはずなんですよね。主人公の目的がスタートのときにブレていたりとか、プロローグや早めの段階での詰まりが、終わりのときに可視化されたんじゃないかなと。そういう意味では、自戒でもあるんですが、プロットをしっかり書いたほうがいいと思います。

── 準備不足が響いている、みたいな。

細音 はい。だからそれまでの経過をちゃんと見たほうがいいと思います。

栗原 私も全面的に同意ですね。細音さんのおっしゃるとおりで、それまでの積み重ねが足りていないはずなので、もう少し手前から直すといいかなと思います。

大体において、クライマックスって感情的にもすごく盛り上がるはずなんですよ。でも盛り上がりきらない場合は、手前でちゃんと下がってないことがあって。感情って下がらないと上がらないので。そこまでにきちんと感情を積んでこられたか、積んだ上でちゃんと下げきれたか、っていうのをチェックするといいんじゃないでしょうか。

単純に、ラストまでの展開をどうつなげたらいいかわからなくなることもあります。そういうときは、私は映画を観にいきます。映画って、2時間の中に必ずクライマックスがあるので、どういうつなぎ方をしているか、どういう落とし方・上げ方をしているかがチェックできるので、都合がいいんですよね。観ると本当に書けるので、おすすめです。

── そのときに観る映画って、いま書いているものと近いものを観るんですか?

栗原 近くなくてもいいけど、単館のヨーロッパ映画とかはダメです。エンタメだったらハリウッド系みたいなやつを観てください。

人に相談するのもおすすめ

── 丸戸さんはどうでしょう?

丸戸 僕はお二方に比べると、プロットは粗いんですよね。だいたい終盤はそこまでの2〜3倍のペースで書けて、そのまま終わるんですよね。序盤は改稿しますが、終盤は改稿しません。僕は奇跡的にうまくいってしまっているので、あんまり参考にならないし、これができなくなったら、自分はもうダメなんだと思います(笑)

── プロットの段階で、「後半が浮かばないから相談に乗ってほしい」と、私に言うこともありますよね?

丸戸 商業作家になったら、堂々と相談ができるんですよ。話をして、いろいろな展開が浮かべば、あとは書ける。

── デビュー前だとしたら、編集者じゃなくて、友人でもいいですよね。

丸戸 もちろん。褒めるだけでもない、けなすだけでもない友人に相談できるといいですね。

── 自分の中で寝かさずに、詰まった瞬間に相談するというのも、ポイントかもしれないですね。


質疑応答

Q.原稿の途中で、これはおもしろくないんじゃないかと不安になったときの対処法は?

細音 ある意味、自分の作品を客観的に見れたということなので、それ自体はマイナスではないのかと思います。とにかく最後まで仕上げることが大事で、書き上げることで自分の技量も上がりますし、客観的に見直すことで、プロローグから書き直すこともできる。だからとにかく、最後まで書き上げてみてください。

栗原 読者に何かを期待させてそれに応えるという、コールアンドレスポンスのようなものができていれば、最低限のおもしろさは絶対にある。そこは安心して書いていただけたらと思います。基本的に、世の中の創作はみんなおもしろいです。なにか書いたら絶対におもしろいんで、まずそれを信じて書いてください。

それでもどうしても、私も気になるときはあります。長編を書いてると、つなぎに必要なシーンだけど、どうにもおもしろくならないみたいなこともあります。そういうところは、キャラクター描写する間だと思っているので、キャラクターの個性とか、おもしろい会話とか、関係性の萌えとかを無理やりねじ込みます。

丸戸 僕も細音さんと同じく、「とにかく終わらせろ」と思っています。終わらせて、読み直して、それでも気に入らなかったら、全部捨てましょう。


Q. 物語の最後に、読者にカタルシスを与えるためにやっていることは?

丸戸 書き終わったときに、自分が「すごいよかった!」って満足してたら、それはカタルシスがあるんですよ。それ以外にないと思っていて。なんだかんだ言って自分のものですから、自分が本当によかったと思えたかどうか。

── 読者に、じゃなくて主語は自分でいいってことですね。

丸戸 最後には「俺が好きだから、いいじゃん」ってなっちゃうんで。

── 細音さんはいかがですか?

細音 僕は最初と最後がきちんと合うとかっこいいなと思っています。プロローグとエピローグの関係が対になってるか、続きになってるか、相互補完的になっているかの3つのどれかを満たすと、たぶんすごくきれいになるんじゃないかと思いますね。技法的な話をすると、終わりがタイトルの伏線回収になってると、かっこいいですよね、

丸戸 タイトルと本文、どっちを先につくりますか?

細音 僕は、受賞作はタイトルからでした。

丸戸 最後にそのタイトルが想起できるような終わり方ができたら、「やったぜ」って?

細音 そうですね。逆のパターンもあるんですけど。タイトルと本文、どっちが先かもありますが、プロローグ・エピローグ・タイトルの3つがきれいに組み合わさると、素敵なものになるような気がしています。

── ちなみに、『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』はどうだったんですか? すごく印象的なタイトルですけれど。

細音 企画のときに付けていたタイトルがあるんですが、本文を書くうちに、「もっといいタイトルがあるんじゃないか?」って担当編集さんと話し合った結果、タイトルを変えました。本文を書いていくうちに、キャラクターと一緒にタイトルも成長した感じですね。

── 栗原さんはどうでしょう?

栗原 お二方がとてもいいことを言ってくださったので、私からは完全に実作の話をします。ババーンと終わらせる方法は、①なにかを燃やす、②高いところに登って下を見る、③季節が変わる──だいたい春になるといいですよ、④夜が明ける、⑤「……という歴史になった」と歴史を語る、⑥渾身のポエムを入れる。これで、カタルシスがない話だったとしても、どうにかそれっぽくなります(笑)

── ちなみに、そういうふうに終わらせた作品ってありますか?

栗原 けっこうやってます。よく高いところに登ってます(笑)

── ポエムは、栗原さんの作品にはよく見る気がしますね。

栗原 あれは、実は私は嫌だったんですけれど、デビューのときに編集さんから「ポエムを書け」と言われて、最初の1ページ、ポエムを書きました。

── 編集さんはポエムを書けると見込んだということですね。

栗原 たぶん、厨二病的なところを出したほうがいいという判断だったんじゃないでしょうか(笑)


Q. ストーリーを先につくりますか? キャラクターを先につくりますか?

細音 僕はデビューから17年くらい経つんですが、ストーリーを先に思いついたことは実はほとんどなくて。あるのは、キャラクターが先か、世界観が先かの二択なんです。ファンタジーの場合は世界観が先のことが多いですね。

丸戸 テーマ→キャラクター→ストーリー→キャラクター(詳細)、みたいな感じですかね。ストーリーは書いているうちに変わるんで。大まかなテーマとそこに当てはめるキャラクターがあって、それが組み合わさったときにストーリーができる順番ですね。

── テーマっていうのは、ネタということ?

丸戸 そうですね。ゲームをやっていたときは、クライアントからのオーダーですよね。「メイド喫茶もの」というオーダーをもらったら、メイド喫茶の店員をつくったあとに、お話をつくる流れですね。

── その後ストーリーをつくってから、もう一回キャラクターに帰る?

丸戸 このストーリーにはめるなら、キャラクターはこういう性格や境遇にしたほうがいいというのが出てきますので、そこで詳細化していく流れですね。

栗原 私はまず「これはこういう話です」というコンセプトを1行で書きます。それから、この話をどういう配役でやったらいいか──配役というのは、キャラクターの前段階である、主人公、相手役、敵役とか、そういうものですね──を決めます。そこにキャラクターを当て込んでいって、最終的にストーリーになります。

だからキャラクターが先ですね。このコンセプトに合うストーリーを紡いでいけるような、化学変化が起こるようなキャラクターになっているかをチェックしながらやっています。


Q. 感性や感覚をどのように磨いてきましたか?

栗原 なんでもいいんですけど、自分の心を動かし続けていないといけないと思っています。小説は人の心を動かすために書くものだと思うので、自分の心が動いていないのに他人の心を動かすことはできない。だけどやっぱり同じことをずっとやっていたら、人間は飽きてくるし、同じ業界のことだけ見てたら、辛いこともあるし、日常になっていっちゃうから、心って動かなくなっていくんですよ。だから「心が動くのはどこかな?」って、別の世界にも視界を広げて探し続けるのがいいのかなと思ってます。

私の場合は、定期的にちょっと理解できないもののところに行きます。自分が知らないジャンルであるとか、難しくてたぶんわからないであろう学術書を読んでみて無理やり理解しようとしてみたり。そうすることで、マンネリ化しなくなるというか、心が動き続けるきっかけになるかなと思ってます。

丸戸 僕が感性を磨いたのは人とのやりとりなんですよ。会話というより、昔でいうBBSのレス場。僕の周りにいい職人がたくさんいて、いい返しをしてくるんですよね。これが会話だと、瞬発的にやらなきゃいけないんですけど、レス場だと数分から1日だってレスポンスに時間をかけられる。

これがモノを書くための感性を磨くことにすごく役立ったと思っています。自分がおもしろいことを発信するだけでなく、相手の感情や思考を嗅ぎ取ることができる。相手の気持ちがわかるってことは、キャラクターの気持ちがわかるということになるので。

これ、結構年取ってからの話なんでね、いまからでも全然磨けると思いますよ。いまだとTwitterを使ったりね。

細音 僕は、磨こうと思って磨いてきてはいないかもしれません。いろいろなものに広くアンテナを貼る人もいると思うんですが、僕の場合は狭く深めることで身についたものがあると思います。子どもの頃にゲームが好きで、何周もしたりとか、サントラの楽譜を買ってピアノで弾いたりしていたんですよね。そういうことが、ファンタジー作品を書くことに生きている気がします。

── 一つの作品を「何周も見ろ」と言われて見ても、苦痛じゃないですか。見たくなるものを探す感覚なんですかね?

丸戸 結果論ですよね?

細音 そうですね。おもしろいから、何度もリピートしてしまった。

丸戸 みんな結局、磨こうと思って磨いたわけじゃないんですよね。結果としてそうなってるだけなんで。

── 作家さんは自分の好きなものをたくさん見てきていると思いますが、「自分もこういうエンタメをつくりたい」と思った原点となる作品があるんですよね。あたらしいものを見たときにも、そこに立ち返る瞬間をつくるといいのかなと思います。そういうものをデビュー作で書いていない人には、私は編集者として「それを書いてみませんか? あなたが今これを書いたらどうなるか、試してみませんか?」と言ったりします。

より編集視点の話をすると、みなさん小説以外にも興味があるものって、あるじゃないですか。芸術でも、政治でも、なんでもいいんですが、それを創作にコンバートするということは、編集者は頭の体操的によくやったりしますね。

ちなみに、みなさん、創作の原点となる作品ってありますか?

細音 ゲームなんですが、『クロノ・トリガー』とか『ゼノギアス』ですね。『ゼノギアス』って設定資料集がすごい分厚いんですが、それが大好きで、楽譜もアルバムも買って、いまだに聴いてますね。

『クロノ・トリガー』が好きな人ってたぶんたくさんいるんですけど、昨日『クロノ・トリガー』の曲を聴いた人はそんなに多くないはずです。でも、僕はそれに該当します。「これだけは誰にも負けないくらい好きなんだ」というのは、創作においてすごく強みになる気がします。

栗原 私は中学くらいのときに、野田秀樹が主宰していた夢の遊眠社の演劇を、高校生がコピーした舞台を観たんですね。「まったくわからないけど、これはすごいぞ!」と思ったところからですね。昨日も野田秀樹の舞台を観に行ったんですけど(笑)。自分で文章がちょっと鈍ってるな、と思ったときは、野田秀樹の脚本集を読みますね。

丸戸 僕はもう何回も言ってるんですが、『男女7人夏物語』ですね。明石家さんまと大竹しのぶの会話劇を観て、「すごいな」と思ったのが、僕の会話劇の原点ですね。脚本家の鎌田敏夫も好き。

一番好きな映画は『キサラギ』なんですけど、あれは会話劇の頂点だと思っていて。その脚本家の古沢良太が書いている、大河ドラマの『どうする家康』も全部観てますね。

── 『キサラギ』を観たことのある作家さんは、かなりの確率で「ベストの一つに入れていい」って言いますよね。

栗原 うまさの塊なんですよね。


Q. 恋愛小説を書いてみたいのですが、ストーリーが浮かばず困っています。ここから発想が浮かんで展開させた、というような一例があれば教えてください。

細音 僕、恋愛小説を書いたことがないんですよね(笑)

── でも、ファンタジー作品に恋愛要素は入っていますよね?

細音 そうですね。発想が浮かんだところでいうと、「こういう関係性があったら素敵だな」というところから始めていたりします。わかりやすい例でいうと、『ロミオとジュリエット』のような、相入れない立場の二人というのがあると思いますが、『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』はそれに近いところがあります。

栗原 私の場合は、好きな男キャラをつくり、好きな不幸に叩き込み、それを救える女キャラをつくると、どうにかなります(笑)。これは私の実作の場合ですが、恋愛小説にも型があります。細音さんがおっしゃっていたような立場が違う二人がぶつかり合って恋に落ちるパターンが、ラブコメや契約結婚ものによく使われますよね。

あとは、虐げられた者が圧倒的な強者に助けられて恋に落ちてハッピーエンドになる、シンデレラ型。ロミジュリとか青春恋愛とか余命もののような、恋に落ちた二人が悲劇で引き裂かれる切ないパターン。何らかの事情で別れた恋人たちが問題を克服して復活愛する、しっとり恋愛のパターン。このあたりがよくある型ですね。

丸戸 僕もだいたい栗原さんと同じ意見なんですけれど、不幸はなくてもいいじゃん、って思いますね(笑)

栗原 不幸はいま流行りなんですよ!(笑)


デビューを目指すクリエイターに向けたメッセージ

── 最後に会場の皆さんにメッセージをお願いします。

細音 みなさんからいただいたご質問への回答を考えることで、自分でも勉強になりました。これからの執筆活動に、少しでも参考になっていたら幸いです。本日はありがとうございました。

栗原 作品を一つ仕上げるって、それこそカタルシスがありますし、達成感もありますし、それをコンテストに応募するってそれだけで素敵なことだと思いますので、ぜひ完成させて創作大賞に応募してみてください。

丸戸 こういう参加費無料のセミナーって貴重だと思いますので、ぜひまた来てください(笑)

── (笑)。来月以降もまたテーマを変えて、こうした作家さんを招いたトークイベントを開催したいと思っております。告知はまた出しますが、どうぞよろしくお願いします。

【〆切迫る!】投稿コンテスト「創作大賞」開催中

noteでは日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞」を開催中です。15の編集部と1つのテレビ局に協賛いただき、受賞作は書籍化や映像化などを目指します。
締め切りは7月17日(月)。応募はプロ・アマ問いません。詳細は特設ページをご覧ください。たくさんのご応募をお待ちしております!

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