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自分の意図を正しく伝えるために「文章のまちがいや誤解を防ぐ校閲のきほん」#安心創作勉強会

noteを含めインターネットで発信するときに必要な知識、考え方を学ぶ、オンライン勉強会シリーズ「安心創作勉強会」。第3弾の今回は、LINE株式会社校閲チームで活躍されている3名をお招きし、校閲の基本について教えていただきました。

校閲とは、文章や用語・用法的な間違いをチェックするだけでなく、内容に矛盾や事実関係の誤り、差別語などひとに不快感を与える不適切な表現がないかなども検討し、筆者に修正や再考を促すこと。こうすることで、配信後のミスや炎上の発生を未然に防ぐ重要な役割を、校閲は担っています。

LINE NEWSやlivedoor ニュースを中心に、毎日たくさんの記事を校閲するというLINE校閲チームのみなさん。日々の業務で出会った実例や例題をまじえ、実践的なお話をしていただきました。

創作物を投稿する前にいま一度このnoteを見直して、より多くのひとによろこばれる記事づくりに役立ててもらえたらうれしいです。

校閲が必要な理由

澤田 まずはじめに、校閲がなぜ必要なのか、ご説明したいと思います。以下の3つが校閲の主な目的です。

①文の読みづらさを回避する

読みづらい文章は読者に最後まで読んでもらえない可能性が高く、筆者の意図が伝わらないことも。また、複数の解釈ができる文章は事実誤認を招く恐れがあるため、それらを避けるために校閲を行う必要があります。

②ファクトの誤りを防ぐ

記事の関係先に多大な迷惑をかけてしまう、固有名詞や事実関係の誤りを未然に防ぎます。文章に誤りがあると、読者はコンテンツの質や執筆者、所属先、場合によっては文を掲載したプラットフォームに対して不信感を抱きかねません。

③「公共の場」に文を公開するという意識づけ

昨今とくに、コンプライアンスやポリティカル・コレクトネス(以下、ポリコレ)に係る内容が議論を呼ぶ傾向にあります。校閲者は、公式に発表されていることと、推測、推量、疑惑、憶測が明確に書き分けられているか、性差別や人種差別的な表現が含まれていないかなどを多角的な視点でチェックし、炎上などの事態を防ぎます。

基本のきは「1文字ずつ読む」こと


中村 次に、校閲の目的①のポイントについて具体的にお話しします。まず、以下のスライドを見てください。文章に間違った点があるのですが、どこかわかりますでしょうか。

誤りは3カ所。答えは以下のとおりです。

最初に問題を解いてもらったのには理由があります。それは、みなさんが文章をチェックするときの自分自身のやり方を、再認識していただきたかったからです。どこをポイントに文章のチェックをするか、明確に決めたうえで取り組んだ方は少なかったのではないでしょうか?

校閲者にとっての基礎中の基礎、それは「1文字ずつ読む」こと。クリエイターのみなさんが作品を制作して「早く世に出したい!」と気持ちがはやるようなときはとくに、最初にこれを意識するようにしてほしいです。

そして、もうひとつ大事なのが「チェックすべきポイントを知る」こと。校閲者はチェックするポイントを知っています。そのため、闇雲やみくもに文章を確認する必要がありません。まずはチェックするポイントを認識して、間違いの見つけ方や間違いを見つける時の読み方、姿勢を明確にしましょう。具体的なポイントについては、以下に解説します。

校閲のチェックポイント


中村 LINEの校閲チームでは、文章のミスを以下の8項目に大分類しています。

※分類の仕方は各社さまざまです。こちらが一般的な正解というわけでありません。参考までにご覧ください

中でも非常に重要な「入力」と「日本語」について、解説します。

「入力」のミスには「変換ミス」と「タイプミス(誤字・脱字・衍字えんじ)」があります。それぞれ事例を見てみましょう。

「入力」の誤り

<変換ミス:チェックポイント>

中村 変換ミスとは、キーボードでテキストを入力する際に、文字入力の予測候補の中から意図したものとは異なる選択をしてしまうなどして、結果的に文字の変換を誤ること。以下の事例でご説明します。

「摂取」は生物が物質を食べるなどして体内に吸収するという意味。「受診」は診察を受けるという意味なので、どちらも文脈と合わない

とくに下の文について。これは、本来「受信」とすべき内容ですが、文頭に「医療」という文字があるため、診察を受けるという意味の「受診」がつかわれていても間違いに気づきにくい例です。

このように、変換ミスをチェックするポイントは、日本語の特徴でもある「同音異義語に注意して文章を見る」ことです。ひとは、人名などの固有名詞は注意深くチェックしますが、何気ない文章に紛れている同音異義語を見落としがちなので、注意してください。

<タイプミス:チェックポイント>

タイプミスは「誤字」「脱字」「衍字」に分類されます。衍字とは、文中に不要な文字が入っていること。

1番上の例「進めるととともに」が「衍字」です。2つ目の例は、「か」と「な」の順番が入れ替わっているミス、3つ目は「た」が抜けた「脱字」です。

タイプミスがよく起きるパターンは以下に分類されます。

このように、タイプミスは共通して、単語の中間で起こりやすいことがわかります。

日本語の単語は、最初と最後が正しければ多くのひとは読めてしまうという現象があり、タイポグリセミア(Typoglycemia)と呼ばれています。そのため、「誤字」「脱字」「衍字」が見落とされがち。ですからやはり最初にお伝えしたように、校閲するときには「1文字ずつ読む」という意識、作業が重要なんです。

「日本語」の誤り

中村 日本語の誤りは、以下の3つに分類されます。

<てにをはの誤り:チェックポイント>

これは、助詞の誤りの総称です。助詞は語と語を結びつけたり名詞について主語をつくったり、日本語の中でも非常に重要な役割を担っているので、文章の中でひとつ間違うだけでも全体の意味が異なってしまうことがあります。

ポイントは、文章を「流れの中で読む」こと。先ほどは「1文字ずつ読むこと」が大事だとお話ししましたが、この場合は文章の流れの中で1文の意味を把握しながら読むことが必要になります。

<用語の意味・用法の間違い:チェックポイント>

日本語には非常に微妙な表現が多いので、ふだんつかっている単語が厳密な意味では間違っていたり、慣用句をはじめから誤解して覚えていたりすることがよくあります。事例を見ていきましょう。

ぱっと見ただけでは正しく思えますよね。でも、「公示」は「一般のひとに選挙の期日などを広く知らしめること」で、天皇の国事行為をともなう選挙に対してつかわれる言葉。つまり、衆議院の総選挙、参議院の通常選挙に対してつかわれるべきで、都議選には当てはまりません。

ここで校閲者にとって大事なことをひとつ述べます。それは「調べる行為を大切にする」ことです。知っていると思っている単語も、もしかしたら間違って覚えているかもしれない。自分の知識を信用しないで、常に調べるという習性をぜひ身につけていただきたいと思います。

<つながり・係り受けがおかしい:チェックポイント>

日本語について、最後のチェックポイントは、つながりと係り受けについてです。日本語の文章構造には、主語+述語の短文のほか、1文の中に主語+述語が複数存在する復文、重文などがあります。

しかし、1文が長くなると、主語述語にねじれが生じたり、修飾関係や係り受けがおかしくなったりしやすいのです。たとえば、この例文。

主語が「文部科学省は」なので、述語は受け身ではなく「表明しました」になります。

長文を読むときは、文章全体を俯瞰ふかんしてみるようにし、「文節ごとに主述関係や修飾関係を整理して文を構造的にチェック」しましょう。とくに、上の例のように述語が受け身になっている場合に誤っていることが多いので、注意して見るようにするといいですね。

クリエイターのみなさんは、こうしたねじれが生じないよう1文を長くしすぎないように心がけることも大切です。

ファクトチェックは複数のソースで行う


澤田 次に、校閲の目的②「ファクトの誤りを防ぐ」についてご説明します。ファクトチェックとは、情報の信ぴょう性を検証すること。文書や発言で事実として示されている事柄に誤りがないかを調べます。たとえば固有名詞であれば、公式サイトなどの確かなソースで確認するのが基本です。

また、数字も致命的なミスになりやすいので要注意。「最上級」や「最大級」、「唯一の」、「日本初」といった表現は、根拠があるのか裏づけをとる必要があります。この場合、ひとつのソースでは確認が取れないこともありますので、信頼できる複数のサイトでチェックするのがよいでしょう。

無意識の差別・偏見にも注意が必要、ポリティカルコレクトネス

次は、③の「『公共の場』に文を公開するという意識づけ」についてです。これは文章表現の中にコンプライアンスやポリコレを遵守する姿勢が貫かれているか、校閲でチェックすることを通して行います。コンプライアンスは法令遵守と訳されることが多いと思いますが、法令だけでなく、社会規範や社会道徳などの意味も含む広い概念。ポリコレは、語句や表現が性差別、人種差別などの偏見をもたないという意味です。

たとえ筆者が意図していなくても、表現が適切でない場合は「差別的」と感じる当事者がいるかもしれないため、校閲でも慎重に、厳しくチェックする必要があります。

こちらは実例なのですが、ある方を「美女」として紹介する記事がありました。しかし、その方は以前からジェンダーレスを公表していたので、校閲チームで指摘をし、配信前に修正したんです。

LGBT関連では、当事者団体が策定した「LGBT報道ガイドライン」があり、「性のあり方は本人の自認を尊重する」など注意するポイントがわかりやすくまとめられていて、参考になります。

ほかにも、障害や民族に関わる差別、偏見の表現にも注意が必要です。さまざまなひとの目に触れるという点で、暴力的であるとか、主題と離れて必要以上に内容が具体的などの「不快表現」にも注意した方がよいでしょう。これは文章だけではなく、画像にも当てはまる点です。

また近年では、女性アスリートの報道で「美しすぎる」など競技とは直接関係のない取り上げ方にも、ルックスによる差別「ルッキズム」だとして批判の声が多く寄せられています。

どのような言葉や表現が差別に当たるかは、文章全体の構成や文脈の中で判断する必要がありますが、知識として注意が必要なポイントを事前に学んでおくことが大切ですね。

差別は、目につきにくいところで潜在的に行われたり、無意識のうちに表現として現れたりしてしまいがち。日ごろから各媒体や団体が公開している報道系のガイドラインや記事などを見て議論の焦点を把握したり、差別的な表現に気づけるよう意識づけしたりしておくことが大切

<参照>
LGBT報道ガイドライン-性的指向・性自認の視点から-|LGBT法連合会
NHK放送ガイドライン2020|日本放送協会
ルッキズムと向き合う|東京新聞
東京五輪“美人アスリート”報道に物議「人種差別や経済格差の視点を持って」|ABEMA

書くときの心構え

伊藤 最後にお伝えしたいのは「書いた本人が校閲をするのは相当に難しい」ということ。なぜなら、創作と校閲では着眼点がまったく異なるからです。おもしろくて独自性のある文を書きたい筆者と、正確性を重視する校閲者とでは視点がまったく違いますよね。

ではどうすればよいか。私たちは校閲者という立場ではあるのですが、私たちなりに考えた「書くときの心構え」を3つあげさせていただきます。

①「書く」と「校閲」を切り離す
書きながらチェックするのではなく、書き終えた後に校閲の時間を設けるようにしてください。その方がミスに気づきやすくなります。

②誤りや炎上の起因を把握する
先にあげたチェックポイントを意識したうえで、文章を書くようにしましょう。また、自分が間違いやすい文字や文章のクセなどを把握しておくことも重要です。

③自分を信用しない&すべて調べる
校閲では、「わかっている」という思い込みが本当に怖い。ミスを防ぐために、用語の意味、用法、事実関係の正誤などをきちんと調べてから書くようにしてください。

Tipsは「一晩おく」「印刷する」「声に出す」

校閲的な視点で自分の文章をチェックするためのTips。それは、「一晩おいて翌朝読み直す」、「印刷して読む」、「音読する」の3つです。そして、3回は自分の文を読み直しましょう。

友人や家族など第三者に読んでもらうのもよいと思います。自分の想いや伝えたいことを100%読者に届けられるように、以上のことをぜひ実践してみてください。

▼アーカイブ動画はこちらからご覧になれます

登壇者紹介

中村陽介さん
LINE株式会社/校閲チーム
2017年から校閲チームの立ち上げに携わり、現在はチームリーダーを務める。

澤田恵理さん
LINE株式会社/校閲チーム
2019年、LINE株式会社に入社。2020年より、LINE NEWS公式noteで校閲に関する記事の企画・執筆を担当。

伊藤貴彬たかあきさん
LINE株式会社/校閲チーム
2018年、LINE株式会社に入社。校閲チームの校閲力向上を目的とした施策の実施にも携わる。

参考記事

LINE NEWSさんは公式noteで校閲業務の裏側を発信されています。

校閲はなぜ必要?
現場はどんな体制でやっているの?

......など、校閲現場の様子がわかる記事が盛りだくさん。
こちらも、ぜひ読んでみてください!


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