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Rainych 、山下達郎「RIDE ON TIME」サブスクカバーリリースに寄せて

Rainychとは「真夜中のドア〜Stay with me」、「Blind Curve」に続いて3度目のコラボ。最初、「真夜中のドア」のリアレンジをしませんかと話をいただいた時は、こんな巡り合わせってあるのかと心躍ったのを覚えている。というのも、Rainychという名を知ったのは、実はそれより少し遡るのだ。「summertime」という、僕が作曲した歌をカバーしてくれていて、動画の再生数がその時点で百万を優に超えていた。同曲の広まり方に実感が伴わずにいた僕は、異国のYouTuberが流暢な日本語で自分の曲を歌っているのを、他人事のように見ていた。


「真夜中のドア」は彼女がカバーしてから一層聴かれるようになり、オリジナルがSpotifyのグローバルバイラルチャートで1位を記録するほどの再ヒットとなった。「真夜中」がリリースされたのは1979年のことであるから、実に41年の時を経て世界に再発見されたことになる。「Blind Curve」に至っては本家の菊池桃子さんの耳まで届くという、まさに言語の壁を取っ払った音楽の輪を目の当たりにすることができた。このプロジェクトの一端を担えたことを、僕は誇りに思う。


山下達郎さんの「RIDE ON TIME」が発売されたのは1980年のこと。これもまた、40年以上の月日が流れても歌い継がれる名曲だ。「真夜中」を作曲された林哲司さんもそうだが、僕の音楽性そのものは達郎さんに多大なる影響を受けている。有名曲のリアレンジというのは、ひょっとすると自分で作った曲よりもプレッシャーを感じながら制作するものだと思った。自惚れだが、もしかしたら達郎さんもこのカバーの存在を知ることになるかもしれないわけだし…。

さて、このカバーのリアレンジをするにあたって、僕はいくつかのことを念頭においた。グルーヴ、楽器演奏の技量、完成し切ったアレンジをどういじるか。これらの点で敵おうとしてもそれは高望みというものなので、オリジナルへの愛が伝わるような、ユーモアのあるリアレンジにすること。何より、Rainych自身のペルソナに合ったアレンジであること。

ユーモアという点では、かなり好き勝手に詰め込んだなと我ながら思う。例えば2番のAメロ前半のセクション。例えば、ファンならすぐ分かることだと思うが、達郎さんの別曲を引用してコーラスを僕が歌っている(この部分以外でもコーラスはたくさん重ねた)。大瀧詠一さんもそうだが、僕が一番憧れているのは彼らの方法論である。達郎さんを海外の有名YouTuberがカバーするというのなら、「RIDE ON TIME」以外の曲への導線になったらいいな、などと考えて引用した、お気に入りの部分だ。

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      (Rainych / RIDE ON TIMEのプロジェクト画面)


また、原曲は生楽器・生演奏で素晴らしいアレンジであるが、このカバーではRainychのキュートさが際立つよう、キラキラしたシンセの音やサウンドエフェクトを多めに投入した(宅録前提ということもあるが)。もしかしたらほとんどの人にとってこれらは注意して聴かれない部分かもしれないが、これがあると無いとでは大きく異なる。そう、神は細部に宿るのである。

僕は別にアレンジャーになりたいというわけではないのだが、やはりこのプロジェクトをやらせていただいて得るものは多い。言うまでもないが、リアレンジするなら原曲は徹底的に分析しなければならない。コードはもちろん、和声に対するメロディーの関係、音色やリズム、全てだ。こういう時は、普段何気なく音楽を聴いている時とは明らかに違う耳の使い方をする。すると、名曲が生み出される過程を追体験しているような気にもなって、大変勉強になります、ということだ。

そして、40年経っても作品が愛され続けるとはどういうことか。その条件みたいなものが、ほんの少しだけ垣間見えた気もする。結局、理屈的な部分はツールに過ぎないのであって、一番大事なのは制作者の「熱狂」だろうと(ちなみに、2009年の新春放談で大瀧さんと達郎さんは「理詰めはダメ、長く持たない」という話をしている)。目の前の作業にどれだけ熱中できるか、創造についてどれだけ貪欲でいれるか。改めて、襟を正される思いだ。この曲の歌詞じゃないが、心に火を点けること!


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Rainych  × evening cinema 全3作プレイリスト



原田夏樹 evening cinema
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