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【豪州留学記】海外留学中の選挙は投票できる?在外選挙制度について

先日、有効期限が近かったのでパスポートの更新をしてきました。

自分の顔が劇的に変化するなんてことはもう当分ないだろうから、生まれて初めて10年用の赤いパスポートを申請しました。

小さい時、連れて行ってもらった海外旅行で見た両親のあの赤色のパスポートが、今は自分のものになっていると思うとどこか不思議な感じ。

風邪を引くことも気にせず、無邪気にホテルのプールで遊んでいたあの頃にはもう戻れないのだと烙印を押された気分だし、10年という長い期間使うのなら、もう少し署名欄にある名前をキレイに書いておけばよかったなとも思います。

ただ、ここまで育ててくれた両親と周りの人には感謝しかありません。自分が社会で今後10年果たすべき役割や責任についても良く考えさせられました。

そういえば、今回パスポートの申請及び受領で訪れた在メルボルン日本国総領事館では、旅券申請の他に在外選挙人名簿登録というものが出来るそうです。

在外選挙制度とは

在外選挙人名簿登録とは、海外からの日本の国政選挙に参加するために必要な手続きのことで、この「在外選挙人名簿」に登録申請することにより在外選挙に必要な選挙人証を取得することが出来ます。

ただ、「在外選挙制度」は国政選挙、つまり国会議員を選ぶ選挙(衆院選・参院選)に限られるので、例えば先週あった都知事選のような地方選挙には投票できないことに注意が必要です。

登録資格は簡単で、

①年齢満18歳以上で日本国籍をもっていること
②領事館管内に引き続き3か月以上在留,又は3か月以上住む予定があること
③日本国内の最終住居地の役場に転出届を提出済みであること

上記の資格すべてに当てはまる場合、あとは必要書類(申請書や旅券、住所確認ができる書類)を揃えて領事館窓口で申請すれば良いそうです。

これにより、留学や仕事で海外にいても、現地にいながら大使館をはじめ在外公館に設けられた投票所や郵送で国政選挙に投票することが出来るようになるのですね。

投票期間については、「選挙の公示日の翌日から日本国内における投票日の6日前まで」となっているようですが、大使館によっては投票用紙を日本に送付する日程が異なる関係で短くなることもあるそうなので、事前に自分で投票できるか確認する必要がありそうです。

外務省 在外投票・国民選挙
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/senkyo/vote1.html

私から見た東京都知事選挙2024

先週末に行われた4年ぶりの東京都知事選挙。現職の小池百合子氏が129万票、全体の40%以上の票を獲得し勝利したようですが、先に述べたように在外選挙制度によって海外に住む私は残念ながら今回の地方選挙に参加することが出来ませんでした。

Al Jazeera. Tokyo governor declares win after exit polls show her clinching third term
https://www.aljazeera.com/news/2024/7/7/tokyo-governor-declares-win-after-exit-polls-show-her-clinching-third-term

ただ、18年間東京で育った身として、また一度外の世界を見てきた身として、既存のメディアとは少し違った分析をすることもある程度価値もあるかなと思うので、ここでは私が今回の都知事選で注目した点を3つ紹介したいと思います。

①一国の財力にも値する東京都がいま優先的に行いたいことは何か

東京都の人口は現在約1,350万人。NHK首都圏ナビによると今年度の都の予算は16兆5500億円で、これはポルトガルやアイルランドとほぼ同じ規模です。また、その総生産はおよそ113兆円と日本のGDP(国内総生産)の20%を占めており、歴代の都知事は日本の国政にも影響を及ぼしてきました。

そんな東京都の知事選で私が今回、注目した公約は2つ。

一つ目は少子化対策です。都の政策企画局によれば、東京の人口は今後も少しずつ増加し続けるものの、2025年の 1,398 万人を境に減少に転じ、2060年には 1,173 万人になると見込みだそう。こうした変化の時期に際して、候補者たちがどのような公約を掲げるのか注目していました。

これについて小池氏は出産時の支援として、無痛分娩費用に対する助成制度を創設することや高校の授業料の実質無償化などを掲げ、子育て・教育にお金がかからない東京を作ることを訴えていました。

小池氏への対立候補として注目されていた蓮舫氏はこれに対し、現役世代の手取りを増やすことの重要性を指摘。「どんな境遇にいる若者でも…人生の選択肢がある東京都にしたい」と訴え、都と契約する企業に働く人の待遇改善や都の非正規職員の正規化といった公約を掲げていました。

もう一つ、私が注目していたのは現役世代への経済支援策です。少子化対策とも重なるところがありますが、コロナ後に円安と物価高が進み、このままではジリ貧にもならざるを得ないような状況下で、強い財政力を持つ東京都がこれからどのような方向性に向かっていくのか注目していました。

これに対して小池氏は、子育て世帯への家賃負担の軽減や東京版大学給付金制度の創設といった、経済的な負担の軽減策を講ずることを主張。また、無電柱化を進めることで将来の危険、災害に備える構えを見せていました。

一方で、対立候補の石丸氏は「政治再建」を目標に、インバウンドなどの外需に注目した産業創出や災害リスクへの対応、人工知能を活用した民意の集約と利権政治からの脱却などを目指す公約を掲げていました。

②小池氏が満遍なく高い支持率を獲得できたのは何故か

非常に興味深かったのは、今回当選した現職の小池氏が、62のすべての自治体でほかの候補を上回る票を獲得したということでした。特に島しょ部や多摩西部では、50-60%台の得票率のところも多かったそうです。

これについては過去2期8年にわたる小池氏の都政運営の評価が強く表れていると言えると思います。NHKの出口調査によると、都政運営に対する評価を尋ねたところ、「大いに評価する」と「ある程度評価する」と回答した人は全体の67%に及びました。

また、2016年の選挙で小池氏が掲げた公約「7つのゼロ」を振り返ってみると、具体的な比較が難しいところやコロナによる影響もあるものの、待機児童やペット殺処分において大きな進歩を見せたことが分かります。

https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/008/25/

今回、小池氏に投票した有権者の多くはこうした比較的安定した都政運営を肯定的に見た結果、3期目の継続を希望したのでしょう。

ですが、小池氏と130万票差で敗れた石丸氏が今回の選挙で、30代以下の有権者から最も多く支持を集めたこと、無党派層30%の中では小池氏と並んでトップの支持を集めたことも特筆に値します。

残念ながら年長者や自民党・公明党の支持層から圧倒的な数の票を集められなかったことが、石丸氏の敗因に繋がったようです。

③今回の選挙投票率の高さは、今後の都民のWellbeing向上に期待が持てることを示唆しているのではないか

Richard Layard氏とJan-Emmanuel De Neve氏が書いた『Wellbeing: Science and Policy』によると、政治に対する関心の高い人ほど、人生に対する満足度が高いという研究結果があります。

『Wellbeing: Science and Policy Book』p.268
(Jan-Emmanuel De Neve, P. Richard G. Layard)

やや飛躍した議論に聞こえるかもしれませんが、これに基づくと今回の都知事選挙が記録した投票率の高さは、都民の人生に対する満足感、つまりWellbeingの向上が期待できることを表しているのではないでしょうか。

https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/007/15/

投票率60.62%を獲得した今回の都知事選は平成以降では2番目に高い数字。コロナ感染予防対策に注目が集まった前回の選挙よりも5.6ポイント高かったみたいです。

勿論、投票率が上がった背景はいくつかあると思います。今回の都知事選挙では過去最多の56人が立候補したと聞くし、こうしたニュースが有権者たちの投票意欲を刺激したという事実はあるでしょう。

ですが、読売新聞が投票日前の6月末に行った世論調査によれば、今回の選挙に「大いに関心がある」と答えた有権者は57%と、前回選の2020年よりも12ポイント高かったことが分かっています。また、候補者の中で誰に投票するか決めた人の4割が最も重視する項目として「政策や公約」を掲げ、具体的な課題解決を望みました。

こうしたデータから分かることは、より多くの人が東京都が抱える課題やそれを解決する最も有効な手段である政治に目を向けるようになったことだと思います。こうした民意が都政運営に活用されるようになれば、今後の都民のWellbeing向上にも期待が持てるようになるのではないでしょうか。

留学生が投票することの価値と限界

何度も強調するように、今回の都知事選挙に関しては海外留学中の私は要件を満たさなかったので投票することが叶いませんでした。

ただ、国会議員を選ぶ国政選挙には参加することが出来るので、もし機会があれば先述したような手続きを通して獲得した在外選挙人証を手に投票しに行きたいです。

海外に留学している者が国政に貢献できることは何でしょうか。

私は、それは「長期的な視点から政治を見れること」だと思います。

ご存じの通り、国会議員は法律の制定や予算の議決、内閣総理大臣の指名といった仕事を担当し、全国民の働きを活かす重大な責務です。

よりよい("よい"の定義にもよりますが)国策や法律、予算案を作れる国会議員を選ぶためには、選挙に立候補した候補者の掲げる公約や実績を時間をかけて吟味し、より高い識見がある人を見分ける必要があります。

こうした際に、一度海外に出て学んだことがある人間は、長期的なスパンで捉えたときのその人の信頼性や実行力を見ることが出来るのだろうと個人的には思います。

だから、仮に実行できない公約を掲げても当選すればよいと思っているような人気取りの候補者には投票しないし、「今の国政に必要なこと」の定義がもっと長期的なリターンで考えられているはずです。

新五千円札に活用された日本初の女子留学生、津田梅子や日本人初の学士(Bachelor)の学位を取得した新島襄など、日本の社会は留学生と外国人によって大きく変えられてきたと言えるでしょう。

皆さんは、この記事をどこから読んでくださっているのでしょうか。

これから留学を目指していて、たまたまこの記事を見つけて下さった方。
たったいま留学中で、寮の自室で勉学に励む傍ら暇つぶし程度に読んでくださった方。
むかし若い時に留学していて、懐かしさ半分に読んでくださった方。

選挙に限らず、課題先進国の日本には皆さんが出来ることが沢山あります。

世界は広いのだから、

「やるだけのことはやったし、もう後悔はない!」

そんなことが言える4年後を目指して、あまり気をとめすぎず、希望がある人に一票を投じてみませんか。

上手く行かなくたっていいんです。どうせ同じ4年間を過ごすなら、他人にかじ取りさせるよりも、可能性を求めて自分で決めた航路を走る方が楽しいじゃないですか!

昨年の東京大学学部入学式で祝辞を行ったグローバルファンド保健システム対策部長、馬渕俊介氏はスピーチの中でこう言っています。

時間がすごく限られている中で、考えるべきリスクは、何かに失敗するリスクではなくて、難しい挑戦に踏み込まないことで、成長できず、なりたい自分になれないリスク、世界に対してしたい貢献ができないリスク、行動を起こさずに「現状に留まることのリスク」だと思います。

これから皆さんが生きる世界は、これまでと比べて圧倒的に不確実で不安定で、危険が多く、逆にとてつもない可能性にも満ちた世界です。

令和5年度東京大学学部入学式 祝辞(グローバルファンド 保健システム及びパンデミック対策部長 馬渕 俊介 様)

私は今回、メルボルンで学ぶ一留学生としての立場から見た記事を書きましたが、皆さんがしたい東京や日本、国際社会への貢献、投資したい未来って何でしょう。

今回の都知事選が、そんなことを考えるきっかけになっていれば幸いです。

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