搾取とモラハラについて

 最近よく考えることがありまして、おのれの中の議事録代わりに書いておきます。当時「なんだろう、このモヤモヤは」と感じたことが言語化できるようになった、明確になにが不快だったのかを自覚できた。その記念としてです。

 私はそもそも物心つく前から絵を描く、漫画を描くことが好きでした。外で遊ぶことも大好きでしたが、なにより好きだったのは絵を描くこと、漫画を描くこと、小説を書くことでした。
 区別するのも面倒なので纏めますが、創作そのものが私は好きだったのです。表現方法はなんでもよかった。文字でも絵でも関係なく創作自体が好きです。
 幸いなことに私の両親や兄も漫画大好き人間でしたので、漫画を読むのに事欠かない生活を過ごしました。父と兄から少年漫画・青年漫画を借りて読み、母からは少女漫画、レディースコミックを借りて読んでましたのでジャンルは問いません。絵柄の好き嫌いなどもなく、それが『物語』の体を成しているのであれば私の興味対象足り得ます。
 最初は絵や漫画を描くだけでしたが、小学校二年の頃、三つ年上の兄が書いていた自作の小説(ノートの走り書きのようなもの)を見て、小説を書くのも面白そうと手を出すようになりました。あいにくとワープロなどない家でしたから、ノートに手書きでオリジナル小説を書くことになりましたが。

 小学校高学年。「絵が上手いクラスメイト」と言われれば、必ず名指しされるぐらいには上達しました。小学校はバスケ部に入っていたのですが、絵の上手な子だけが集まり、任意で活動するイラスト部にも参加していました。私の先輩にあたる人は既に投稿などを始めている方がおり、投稿時における疑問などはその先輩が教えてくださったのも覚えています。

 中学に入った私は同人誌活動を早速始め、中学の先輩と共に地元の即売会に参加するようにもなります。コミケに初参加したのも中一です。地元では結構有名な即売会が二ヵ所ありまして、中学生の下手クソなコピー同人誌でも、お情けなのかなんなのか、記念に手に取ってもらえるような温かい空間でした。

 私がそうした同人誌活動をしていると知った小学校時代のクラスメイトから、「一緒に同人誌を出そう」と持ち掛けられ、二つ返事で私は快諾しました。
 これまで個人誌しか出していなかったので初めての合同誌です。個人とは言えそれまで数回同人誌を発行している私が仕切る形になり、オリジナルの内容で漫画を描くことになりました。
 二人で原稿の進捗を語り合いながら学校に行き、授業を受け、放課後は残って漫画を描く。楽しかったです。本当に楽しかった。
 途中までは。

 ある日のことでした。
 即売会が近付いて来て原稿の仕上げに入っていた私は、合同誌相手のクラスメイトに「表紙描いてよ!」と頼みました。私はそれまでに個人誌を出していたので、同人誌の顔とも呼べる表紙まで私が担当する必要はないかなと思ったのです。そうしたことがしたいのなら個人誌を出せばいい、なので合同相手のクラスメイトにお願いしました。
 けれど返って来た言葉がこれです。

「やだ。珠季ちゃんが描いてよ。そのほうが売れるから」

 は??
 は????
 は??????

 思考停止。
 なにを言っているんだろうとマジで止まりました。
 この合同誌を出すにあたってページ割り、コピー、裁断、ホチキス止めはすべて私の担当になっていました。表紙用のちょっと見栄えのいい和紙だって購入してました。もちろんコピー代も私持ちです。
 でも私は創作そのものが好きで、それを形に残せる同人活動が好きだったから、どれだけ赤字が出ようが別に構わない。苦労だって苦労だと思わない。「判んないから任せていい?」と言われて「いいよ!」と答えたのは私ですが、合同誌について持ちかけて来たのはあちらさんです。

 「そのほうが売れるから」ってなんぞ……??

 当時私はなんだかよく判らない不安と焦燥で「わかった……」としか言えませんでしたが、結局相手が原稿描けない!無理!と言い出し、即売会当日は私の個人誌だけを頒布しました。
 最初に違和感を抱いたのはきっとこの時なんだと思います。

 それから時が経ち高校生になりました。
 今からおよそ二十八年前です。
 即売会を通じて知り合った仲間と過ごすことが増え、個人誌を出す人はいなかったものの、皆ヲタクとして意欲的にヲタ活に励む日々でした。
 私は土日以外すべてにバイトを入れ金を稼ぎ(お小遣いは中学卒業と同時に消失)、平日の夜は同人原稿、土日は仲間たちと集まり遊ぶ、充実極まりない青春時代を過ごしていました。

 ところで、『CLAMP』さんというプロの漫画家さんがいらっしゃいますね。
 厳密に言えば漫画家『グループ』です。
 原作者がおられ、作画担当がおられ、トーン処理担当がおられ、そして(当時は)日常生活担当の方がおられました。私が高校生だった頃CLAMPさんはまだ聖りいざ(現・伊庭竹緒)さん、秋山たまよさんなどがおられまして、主な作画担当はもこなさんでも、決して一人だけが作画を担っていたわけではないのを記憶しております。

 そんなCLAMPさんに憧れた私の仲間が、「私たちで第二のCLAMPになろう!」と言い出しました。
 その場にいたのは私と文字書きのU、そしてコスプレが好きなM、あと一人は誰だったか覚えてません。ただとにかくその場にいる私以外の三人は、個人誌を出したことのない人たちでした。
 またMはコスプレはするものの同人誌活動はしておらず、「トーンぐらいなら私貼れるし!」と言いましたが、アイシーやデリーター、マクソンの種類があるなどは知らない子です(まだアナログ原稿の時代)。
 文字書きのUは小説の上手な子でしたが個人誌を出したことがなく、私と合同で一冊出したような立場。
 この状況下で私が賛成したとなれば、私はマベタ(ベタ一色塗)の基礎から三人に教えなければならない。ベタ一色塗でも均等に塗らなければ印刷ムラが出ますし、塗り過ぎると乾くのに時間がかかり、原稿用紙に迂闊に触れなくなる。そこから教えなければならない三人を抱えて、私一人で作画担当するのはリスキー過ぎます。

 ですので「それなら悪いけど、私はちょっと多めにギャラもらえないとやだよ……」と言いました。同人誌活動でCLAMPさんの形態を取るのではなく、プロを目指すのならその条件では耐えられない。
 私は自力でストーリーを作れ作画もでき、トーンや効果線、効果音なども一人でできます。メリットが全くないのにデメリットのすべてを負担しろと言われたら納得いきません。既にこの頃は漫画家としてデビューの話も出ていましたし、同人誌ではなく私の目的地はプロの漫画家でした。
 しかし返された言葉は「珠季って冷たいんだね」「お金の問題じゃないでしょ」。

 ん??
 んん????
 んんん?????

 待ってぇ~~判らん判らん!!
 なにそんな人を金の亡者みたいに言ってんのどうしたの??キャラの主線輪郭を躊躇いなくGペンや丸ペンで描ける人達が集まってるならともかく、残りの三人はペンすら握ったことのないド素人の集まりなんだよ??他人の下書きをペン入れするのだって実力が同等でないとガッタガタな線になるのは知ってる??
 トーンぐらいなら貼れるよ!じゃねえよそのトーンをどう処理するのかベタ貼りするだけがトーン貼りじゃねえんだけどそこも説明しなきゃダメ?グラデカケアミ削りとか指定して即できる??トーンフラッシュ指定して即できるの??わりとフラッシュで削る音不快だけど我慢できるかな??
 点描グラデ指定して丸ペンでチマチマ点描打つのできる??二点透視図法把握してないのに背景描ける??イナフラ(稲妻フラッシュ)だって時と場合によってはトーンなしで手書きだよ??つやベタはマジの毛筆筆ペンだし、入りと抜きの強弱一から覚えるのそんな簡単じゃないよ??下手なやつがしたらクソ汚いよ??髪に入る光源意識してそれできる??キャラの顔の角度によってつやベタ毎回変わってくるけどそこら辺理解してる??それがプロの現場だよ??
 つか君ら全員カラーイラスト描いたことないよね??直で工程見たこともなかったよね??漫画やイラスト見て分解・解剖・考察したことない人たちだよね!?
 意味が判らんなんで全員が私と同レベルにトーン処理つやベタ効果線諸々できる前提なのかしら!?

 脳内で荒れ狂う自分の感情をこの時は言語化できず、「だってそれだと私の負担大きいじゃん……」と言いましたが、「珠季って協調性ないよね」と言われました。
 もうパーペキに私悪者。
 容赦なく「仲間の夢を壊す馬鹿」扱い。

 この時なんで「ごめん」と謝ってしまったのか、未だに悔しい。マジで悔しい。ふざけんなと思う。プロを目指して長年努力して、プロからお呼びがかかっている状態の人間に、Gペンすら握ったことのない奴らが「私たちのために無料で技術提供しろ」と言ってきた。
 なんでそれで謝っちゃったのかな私~~!!

 ですがこの当時、私は私をかなり責めました。
 どうして仲間が楽しんで語っている未来を否定してしまったのだろう、どうして快く「いいよ!」と言えなかったのだろう、こんなにも心が狭い人間だったのかとかなり自分を責めました。
 なにせ「そんなにいやならもういいよ」と言われてしまったので、自分の居場所を失ってしまうと謝罪せざるを得なかった。
 惨めすぎる。
 泣きたい。

 今なら断言できます。
 中学の時の違和感も、高校の時の違和感も、これすべて私が正しい。
 だって搾取されてんだもんな!
 私が長年独自で自力で培ってきた技術と努力を無料で寄越せ、自分たちのために消費しろと搾取されてるんですよね。
 しかも高校時代の仲間の発言は搾取しようとした側が此方を金の亡者扱いしてる、最悪のパターンです。
 自分たちのしていることが不当だと理解してるから此方を責めたんですよね。自分たちの実力じゃCLAMPさんのようになれないのが判っていたから。
 正当だと感じているなら「そうだね」「確かにね」と理解しますもん。理解したくないから私を悪者にしたんだろえげつねえ~~!!
 同じだけの努力してから発言して~~!!
 右手中指ペンダコで爪埋没変形するまで努力してから発言して~~!!
 右手四ヵ所腱鞘炎作って腰を故障するまで努力してから発言して~~!!

 まあそれで私は身体の故障から漫画家デビューを断るしかなくなりましたが。

 私自身が毒親育ちなので自己肯定感が著しく低く、周囲にいいように利用されてしまいます。
 モラハラへの耐性が強すぎる。
 ほかの人なら一発で「こいつとは縁切ろ」ってなる事案でも「私が悪かったんだ。気分を害して申し訳ないと謝ろう」と引いてしまいます。それが学生時代はものすごく多かった。

 勝手に同人誌の相棒みたいな立ち位置にいたRという子は、私の絵を見て「アンタってペン入れするとキャラが死ぬよねw」とか「なにこのカケアミ、きったないww」とか「つやベタ下手過ぎ。もっと勉強しなよww」とマウントの嵐でした。本人は文字書きですが「私は絵は描けないけど読むのはプロなの(キリッ)」が口癖。
 なんかもう編集部に入社して私の担当になってから出直せよ。

 それでも私馬鹿だから「そうか、頑張ろう」って思って努力しちゃってたんですようわ~~まあ上達したから痛み分けだと飲み込みますけども。
 このRにもいいように利用されました。最終的に話し合いの結果決別したんですが、Rの捨て台詞が「アンタとはもう一緒にいたくない。でもアンタと一緒にいると目立つ(注目される)から、その時だけは一緒にいる」でした。

 目立って注目されていい気分だからその時だけは一緒にいる。
 「お前を利用させろ」と正面切って言う人間がこの世には存在します。
 しかもこっちに拒否権なしみたい。
 冗談じゃないわと私が「いやもうRとは行動一緒にしないから。Rを見かけたら私はその場を離れるよ」と言ったところ、「アンタのそういうところがみんなに嫌われるんだよ」と言われました。
 えっすごい。
 お前のことは気に入らねえから足引っ張るし助けてやらねえけど、一緒にいると目立って気分いいからその時だけは利用してやる。
 そんな理屈が通ると思ってる人がこいつ以外にも存在すんの?クソコワ理不尽すぎんよ縁切ろ……。って普通になりますよね。
 しかしR曰く「珠季は変わってしまった」らしいです。あそこでまた私がRに「全部私が悪かった。ごめん」と言ってたら搾取の日々が続いてたんだろうな~~当時の私奴隷乙。

 もちろん私にも悪いところはあります。今でさえ他人の心に土足で「こんにちは~」するような性格ですから、これまで周囲の仲間たちに多大な迷惑かけてきたのだろうと思ってます。発言に矛盾があったり、ええかっこしいで迷惑かけたことだってはちゃめちゃにある。

 でも考えるともう、高校時代のあの努力の搾取を受けた時点で、当時の仲間とは距離を置くべきだった。容易く人の努力を搾取して、断った途端牙を剥く人間なのだと気付くべきだった。
 おのれの不当を正当化する人なのだと早めに気付くべきだった。

創作関係者であっても搾取は存在する

 私の場合は判りやすい搾取に気付かなかっただけですが、『仲間』『友人』というフィルターによって、判りやすい搾取でも気付きにくいことがあります。
 仕事なら最小の労力で最大の成果をあげるのは、その人の努力と見なされるのでしょうね。ですがその最小の労力に『他人を利用する』が含まれた時点で、とても褒められた手段ではなくなります。詐欺と変わらねえのでとりあえず俺に一度謝ってくれねえか?
 手軽な方法で自分の承認欲求満たそうとして、此方が応えられないと言った瞬間罵倒するってどんだけ自分勝手なんだよ。
 
 なんでそんなことに耐えていたんだろう。今の私だったら中学時代のクラスメイトに「そのほうが売れるから」と言われたら「なら合同誌やめよう。私は別に金目的でやってない」と憤りを見せられたでしょうし、高校時代の仲間には「私になんのメリットあるの?」と逆に問えたでしょう。

搾取という言葉を知り目が覚めた

 これまで言語化できないモヤモヤだったそれらが、「私は私の努力を搾取されていたのでは?」と思った瞬間、違和感の正体を掴めた気がしたんです。
 あれモラハラだったんだな……と、どこか遠い目で昔の記憶を探り起こす羽目になりました。
 私の話を法螺だと思う人もいるでしょう。
 ですが同じく背筋が冷たくなった人もいるのではないでしょうか。今まさに同じ境遇にいらっしゃる創作者さん、いらっしゃるのではないでしょうか。

 こんな直球ストレートに友人知人にモラ発言する人なんているのかと疑問を抱くでしょうが、います
 存在します。
 なんならモラだからこそ直球で、そして直球だからこそ此方が「それおかしくない?」と口を挟めません。直球で言われても許さねばならぬ状況下が既に形成されているんですよ。
 気付いた時には自分のNOが相手に受け入れてもらえない状況に追い込まれているんです。NOを突き付けた時に「そんな人だと思わなかった」や「変わっちゃったね」なんて都合のいい言葉ほざきよる。

 どこにだってモラは存在し、そして毒親育ちはそういった人の餌食にされます。悪い意味で相性がよすぎます。
 此方が得た居場所を快適に保つため我慢し続けてばかりになり、此方の我慢が相手の増長を招きますので、メンタルをズタボロにされ自分を責めてばかりになります。

 こんな態度も声もデカく、凶悪な戦闘民族のゴリラでさえ若い頃搾取されてたんですから、私より若く未だ戦闘民族になりきれないお嬢さんは、モヤモヤしたなら即逃げて。

 ババアになったから戦えるようになったんじゃないです。
 モラを知ったから抗うことを覚えただけです。
 毒親について詳しく調べるようになり、世のモラについて詳しく調べるようになり、「搾取」という言葉が浸透したことで眼が覚めただけです。
 そうでなければ未だに搾取され続けてます。

 直球モラ発言する創作者を見たことない。
 貴方は本当にそう言えますか?
 ではついったでたまーに「反応悪いからやる気失せました」と言ってる方々は一体なんでしょう。
 私これまでにもう数えきれないほど見て来てます。
 プロでもたまにいらっしゃいますね、「アンケート結果悪かったので意欲を失いました」的な発言。
 人の罪悪感につけ込む行為がモラハラでなくてなんだと言うの??
 読み手の応援を強要する行為がモラハラでなくてなんだと言うの??
 作品を人質に取るって読み手の愛着の搾取なんじゃないんですかね??
 
 判りますか。
 貴方の身近に存在します。
 直球モラ発言する創作者が存在してます。
 自身の心が手遅れになる前に、そうした創作者とは距離を取ってください。搾取されてからでは遅いのです。

 ここまでの文章で「私のことだ……」「気を付けよう……」と感じた方は、逆に無関係ですからご安心ください。なんならその反省は一切必要ありません。
 モラハラ搾取する側は反省も自己嫌悪もせず必ず他罰的になります。
 反省する時点で貴方は搾取する側ではないので、どうかご安心ください。

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