寝れない、じゃないんだわ

　不眠症、睡眠障害と聞いて大抵の人は「眠れないんだな」と思うだろう。間違いではないが、正しくもない。
　恐らくそれは初期症状で、「なんだか寝付けない」「睡眠が浅い」段階だ。不眠症・睡眠障害が悪化し、薬の服用なしでは寝られない状況の頃には、違う症状へとレベルアップしている場合がある。

　なにかを考えすぎて寝られないだのスマホを弄っているから寝られないだの、そんなのは健常者の話。私は睡眠障害を患って最早二十年、人生の半分以上をこの障害と付き合っているので、なにがどう違うのか言語化しておきたいと思う。

大きな誤解

　まあまあな頻度で下手すれば精神科医からも「寝る前の一時間はスマホを弄らないで」「寝る一時間前はリラックスして」なんて言われるが、だからそれが通用するのは健常者だっつってんだろとカチムカする。
　なにをそんな此方が『寝ようとしない患者』扱いしてんだよ、寝たいに決まってんだろ。当たり前に健常者と同じように寝たいに決まってるのだ、私だって。

　そもそも論、『寝れない』のではない。『寝付けない』のでもない。
　厳密に言えば私の場合、睡眠薬を服用し床についた時は大抵は寝られる。
　但し最悪のパターンがあって、それを的確に言語化するなら『寝ようとした瞬間、身体が生命の危機を感じて覚醒する』だ。
　今寝たら死ぬぞ！といきなり脳内でシグナルが鳴り、強制覚醒させられる。心臓はバクバク鳴るし全身から汗も噴き出る。なにが起きたか一瞬理解が遅れるが、「あぁまたか」と落胆するのだ。

　思うに多くの睡眠障害者（不眠症とは違う）はこの『強制覚醒』によって体調不良や思考低下に苦悩するのではないだろうか。だが明確に言語化出来ず「寝付けない」「寝られない」とどこかで聞いたことある言葉を主治医に告げているのでは？と感じた。

　健常者の方々はうたた寝からのガチ寝の感覚が判るだろう。ていうかほぼ大半の人は普段寝る時そうだよね。
　あれ最高にこの世の天国だよ、こんな幸福ほかにないって思うよ。
　睡眠障害の場合、その『うたた寝』から『ガチ寝』への移行段階で「寝るな！　死ぬぞ！」のシグナルが時々発せられるんだ。
　もう不快とか不愉快の話じゃない、マジこんな地獄がこの世にあるのかって理不尽な現象に怒りすら憶える。

　そして一度覚醒したら二度寝が出来ない。
　睡眠薬によって脳の機能が低下するからなんとか眠りにつけるのであり、それを強制覚醒させられたら寝られるわけがない。自分を宥めてもう一度寝ようと枕に頭をつけ続ければ今度は頭痛がして来る。一度浅くなった、或いは覚醒してしまった意識は大人しくならず、些細な物音でも神経が過敏になってゆく。

　正直な話、睡眠障害というものを精神科医も周囲も本人さえも、かなり軽んじているのではないか？
　中には本当に寝付けない、寝られない人もいるだろう。だが私と私のマブ（道民）はこの『強制覚醒』が一番苦痛だと感じている。しかもそれが一晩で何度も繰り返される時も少なくない。

　うたた寝……強制覚醒！うたた寝……強制覚醒！が夜明けまで続くなんてザラである。

　物凄く気持ちよく寝ているところを突然誰かに叩き起こされるのは、人生の中で一度二度経験するだろう。その時一度目なら「どうした！？」になると思うが、それが頻繁に繰り返されればどれだけ温和な人でも相手にブチギレる。しかも大した内容ではないことで起こされると考えて欲しい。
　相手との距離感を考え直す原因にすらなり得ると私は思う。

　私はそれを一晩中繰り返すことがある。
　しかも二度寝はなく、激怒ブチギレになる精神余力もとうにない。ブチギレたくとも相手は自分自身であり、もっと言えば脳のバグだ。
　すべての睡眠障害者がそうとは言わないが、私は睡眠を維持することが困難なだけで、切っ掛けがあれば寝られる。眠りにつける。
　しかし睡眠薬を服用しないと、うたた寝からガチ寝への移行で強制覚醒させられ、心身ともに疲労困憊になるのだ。

　皆さんはどうだろうか。
　寝付けないのか、眠りが浅いのか。
　それとも睡眠を維持出来ないのか。

　私やマブ以外にも脳のバグで強制覚醒させられるから、睡眠薬を服用している人もいるのではないだろうか。