第7話 マリー・ロンロンの期待
これは、クウ星のとある街にある、少食さん向けの会員制隠れ家カフェのお話。
日の光が降り注いでても、空気がヒンヤリしている季節です。
その日の朝、ローミニさんは元気がありませんでした。
それは昨日、仕事で気を利かせてやった事が、返って相手の手数を増やしてしまい、胸を痛めていたからでした。
大したミスではありませんが、朝が来てもローミニさんはまだ少しそれを引き摺っていました。
「(こんな日は……うぅ、うん、“いつもと違う事”をしよう!)」
ローミニさんはカフェを目指しました。 いえ、決してカフェに行く事が“いつもと違う事”ではありません。
ローミニさんは“いつもより早い時間”にカフェに向かいました。
「(いつもと違う事をするって、うぅ、ちょっとワクワクドキドキ……)」
カラン、コロン♪
「いらっしゃいませ! あ、ローミニさん!」
ローミニさんは笑顔を見せてマーチさんに挨拶しましたが、カフェのマスターのマーチさんはローミニさんがどこか元気がないのを察し、深く探ることなく、でも楽しげにローミニさんを迎え入れました。
ローミニさんはいつものカウンターではなく、引き込まれるようにテーブル席に腰掛けました。
「今、お茶ご用意しますね。 今の時間ならモーニングのメニューもご用意できますのでお気軽にご注文下さいね!」
マーチさんが立ち去るとローミニさんはメニューに何気なく手をかけ、でも開く事無く手を下げました。
「(今日は、決まってる。 ここに来るまでに決めてたんだよね……オヨ?)」
ローミニさんの目に簡素なデザインのポップが飛び込んできました。
「どうぞ、あったかいお茶ですー」
丁度テーブルの前に来たマーチさんにローミニさんは声を掛けました。
「ママさん、このメニュー……」
マーチさんの表情にフワッと花が舞いました。
「あ! それは……! 今、巷で流行ってるお菓子マリー・ロンロンをこのお店風に小さくアレンジしてみたんです。 本物の見た目は美味しそうだけど、ちょっとボリュームがあって抵抗を感じちゃうかなって思って。 今日じゃなくても良いのでもし良かったら!」
「じゃ、じゃあ!これを1つと……うーん、これに合う紅茶は……うーん、こ、今回は“オレンジ・クローブ・フレーバー”でお願いします!」
ローミニさんは、本当はみたらし団子と黒豆フレーバーの緑茶を頼むつもりでいました。
けれど、ローミニさんの心はこの時、誰かの笑顔の役に立ちたいと、誰かの思いに応えたいと求めていました。
だから後悔はありませんでした。 もし1つ後悔するとしたら、このマリー・ロンロンにもっと合いそうなお茶をもっとゆっくり選べば良かったなぁという事くらいでした。
「(うう、ううん、また探せばいいや、新しい小さな楽しみとして……!)」
嬉しそうに引き返すマーチさんを背に、ローミニさんの心にも小さな花が咲いたのでした。
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