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洋食屋あなたこなた センターグリル(横浜野毛)

洋食屋あなたこなた

【センターグリル】
横浜・野毛(中区 花咲町)

 横浜という都市は、万華鏡のように駅の出口やひとつ先の曲がり角を変えるだけで景色が変貌する。

 過去に書いてきたカフェ巡りエッセイにおいて、みなとみらいの一角に佇むフランス紅茶店や秋の金木犀の花弁と香りに包まれた唐紅の鮮やかな景色の片隅にあるシノワなチャイニーズ・カフェなど色々な景色や紅茶やお菓子にまつわる話を書いてきた。

 みなとみらいの反対側、合わせ鏡のように懐かしく飲み屋街やラーメン屋の看板が並ぶどこかもの錆びた街並みが間近の高層ビル街を見上げている。

 お酒を呑まない私だが、

「本は紙こそ至高」

 …というタイプで、電子書籍もここ3年でようやく利用し始めた人間なので横浜市民の書物の城である横浜中央図書館に定期的にお世話になっている。

 初めて「横浜に5階建ての大きな図書館がある」事を聞きつけて意気揚々と家から出かけた時のお話である。

 図書館では近所のものではお目にかかれないレアな本に囲まれてよく貸出上限数を守れたよなぁ、という程ペンギンブックスのトートバッグにまだ見ぬ沢山の物語を詰め込み帰路についた。

 物語は、その日の昼食にさかのぼる。


 その前に腹ごしらえを…と中央図書館とは最寄り出口は別だが横浜に数多あるノスタルジックな老舗洋食店を目指していた。

(迷うのが心配な方でこのエッセイの通りに歩く方がいたら、ご飯を食べた後一旦市鉄ブルーラインの桜木町に戻ってから図書館の最寄り出口から向かうのを推奨する。駅を出たら建物まで案内看板が要所にあります)

 「センターグリル」と年季の入った青いシェードに印字された大衆食堂の使い込まれた銀の皿は、とにかくどの料理もてんこ盛りなのだ。

 しかも800~990円前後でランチメニューでもハムテキやチキンカツが大ぶりで白飯の味わいが学校給食のカレーライスで味わうような程よくあったかいものだったりスパゲティの麺が私の両親が、

「学校給食で楽しみだった献立」

 である所のソフト麺の太くて柔らかいので、とにかく“元気が出る”一皿が味わえるのだ。

 夏などは、土用の丑の日でもウナギが苦手な私は外へ出られる暑さの日にこのお店で滋養を摂る事もある。

 私が頼むのは、「ランチ」といういたってシンプルな名前のひと皿で注文をしてから余り待たされる事なく、

「おまたせしました」

 と食事が提供される。

 老舗であるが、直近で2階のテーブル席が改装されたので建物が綺麗である。

 簡素ながら清潔感ある店内を見渡し銀のフォークを手に取りまずは大きなチキンカツにウスターソースをかけるなり一口サイズに切って口に運んだ。

 衣がサクサクと軽やかだがチキンもまた、肉厚でジューシーですかさず白飯を匙いっぱいに掬って頬張るのがマナーなのかもしれない(カフェ巡りではこんな豪快な食べ方はできないし)。

 付け合わせのポテサラやキャベツにもウスターソースをかける。

 家でもカツが出る時、付け合わせの生野菜にウスターか中濃のソースをかけるのはあるあるなのだろうか……。

 ハムステーキは、主にご家庭などでハムカツを作る時などに使う肉厚で焼くとジューシーなお肉でご飯との相性が抜群なのは言うまでもないがどうして洋食屋で家でも親しんでいる味が改めて出されると、

(目玉焼きパン然り、ホットケーキ然りお店やカフェで改めてそういうのが出ていると実は頼んじゃうのよな……)

 と、取り留めのない事を考える。

 白飯はもちろん、食べ盛りの男子でも十分お腹いっぱいになる事は保証できるがわたし(20代女子)が匙を持っても思いの外もたれる事なく食べやすいプレートだ。

 スパゲッティもソフト麺よろしくもちもちとしていて食べ応えがありミートソースの懐かしい味付けがよく似合っていた。

 スパゲッティは自家製のものらしく、もちろん購入もできる。

 ナポリタンを作る時に用意して長めに茹でたあと冷や水を浸してこの上なく伸ばして昔ながらのものを作ってみたいところである。

 ポテトサラダもシンプルながら美味しい味付けである。


 カフェでのお洒落なティータイムもいいが、根がズボラでかつ脂っこいもの好きなので懐かしい街並みの中にある懐かしい店構えの洋食屋でご飯を食べると安心した心持になる。

 しまむらやハニーズの洋字プリントのパーカーやトレーナーにGUのジャージ素材のズボンにフラットシューズ、というとってもラフな装いですたすたと野毛を歩いている(さすがに化粧して最低限髪は整えているが)。

 普段大きな街にはお洒落をして出かける分、図書館や野毛の洋食屋に行くのは気楽に歩いている。

 野毛の街が(個人的に)一番歩いていて楽しいのは桜の季節だと感じるので気が向いたらまた、気楽な散歩が出来ればいいなぁと思う。




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