表参道 Q-pot CAFE.
東京喫茶あなたこなた
今までは東京の喫茶店について書くのは『横浜喫茶あなたこなた』番外編という扱いだったが、書きたい話のストックが増えた為個別でシリーズ化させて頂く。
まぁ、私は東京にいようが横浜にいようが割とやる事が大体決まっている人間なので一見代り映えのない喫茶店巡りを都市の一角で繰り広げるだけのものになるかも知れないが…。
【Q-pot cafe】
(表参道)
このアクセサリーブランドの存在は学生の頃から知っていて、当時の私の経済感覚ではちゃんとしたネックレスともなると(当時¥12,000程だった)
(とても、手が出せない……)
と目を回していた。
当時流行していた『スイーツデコ』という、フルーツやホイップクリームを模したシリコンパーツを台座の上で組み合わせてケーキやメレンゲを模したアクセサリーの火付け役であり、今も支持を集めているエキスパート的存在のブランドである。
当時、他にもスイーツデコアクセサリーに力を入れているアクセサリーショップは数多存在したがここのアクセサリーは素人目でも分かるほど群を抜いて精巧な作りをしていた。
故に、それを模したスイーツを扱うカフェが出来るのは必然だったのかも知れない。
現在、そのネックレスも貯金を渋らなければ自力で購入出来るようになりこのカフェにも今までで2回ほど赴いているが(このカフェはかなりリピーター率が多いのではないか、と勝手に踏んでいる)この表参道という地に隠し扉がある“おかしな”空間の話をしたい。
表参道の一角、何処を見渡しても洗練とシンプルさを兼ね備えた大人向けのカフェやアパレルが軒を連ねる中そのアクセサリーショップの本店はあった。
近隣を調べてみても、“某高級アパレル店のカフェ”や“人気テキスタイル店の運営するカフェ”などある程度対象年齢高めなお店が軒を連ねていた。
事実、ここの住所を調べるまで神宮前など“いかにもKAWAII文化と密接している土地”にあるのかと思っていた。
この機会がなかったら、もしかしたら一生この地に足を踏み入れる事はなかったかも知れない。
クリスマスも近い2021年の12月に来た時のことである。
その年の1月にイクスピアリで購入したこの店のイヤリングをしてきてはいたがそれ以外は“まぁ、表参道に溶け込めればそれでいいか“と適当に選んだ出で立ちで神宮前駅から千代田線に乗り換えた。
楽しみすぎて予約時間より1時間近く早く着いてしまったが故、しばらく近くのスタバで時間をつぶしていた。
だがそこは都心の一等地の店舗、列に並んでいる人もやたらオーラのある人たちばかりだ。
モデルをやっていてもおかしくない黒髪の綺麗なお姉さんもいればiPhoneを高そうな腕時計を巻いた右手で持ち難しいビジネス用語の混じった会話をしている若いスーツ姿の兄ちゃんもいた。
(絵に描いたような“都会”を、味わっている…!)
この状況に、尻込みしない人間が果たしているのだろうか。
好物のホワイトモカを受け取り2階のイートインスペースに腰掛ける。
(この後お菓子食べるけれど、お出かけだからよしとするか)
と、窓の外に広がる街並みを見ながら啜る。
冬の初めの、黄色い葉っぱが落ちた街道と背の低い店が並ぶこの通りの背後にそびえ立つタワーマンションや大きなビルを見ている。
(あのタワマンに住んでいる人やこの辺のお高いバーに繰り出す人たちは、多分私たちと住む世界が違うのかもしれないけれど。でもこうやってお洒落なカフェで寛ぐばかりじゃない日常は確かにあるだろうな。食事をとるヒマがなくてペヤングの焼きそばで済ませる日もインスタに乗っけないだけで確実に、あるだろうし…)
と、取り留めのない事を思う。
さて、予約時間が20分後に迫り急いで表へ出る。
今まで暖房の効いた部屋にいた後に外へ出る時、ことさら木枯らしというのは効くものである。
もっともこの年は2022年の冬に比べればよっぽど暖冬の部類で、12月にしては気温の高い日もあった年ではあったが。
一本道だが、目的地までは割と道が長いがそれでも厚底で来店している人もいた。
最初に訪れた時には通り過ぎた程、入り口には看板があるだけの目立たない入り口のその店はまさにこの都市から不思議の国に続くアリスの落ちていった穴のようである。
店の扉に続いている長い玄関口を抜けると、年末だったからか絵馬を飾られていた。
見てみると、
『推しのライブが当たりますように!』
『声優の〇〇君がもっと活躍できますように!』
…と、乙女たちの尽きぬ願い事が飾られていた。
中には今活躍している声優さん本人(この年にこのアクセサリー店とコラボしていたらしい)が書いたと思しき絵馬もあった。
黒い扉をくぐり、店内に入るとまず可愛い制服を着た店員さんがケーキショーケースの後ろで控えて。
「カフェのご利用でしょうか?」
と尋ねられる。すかさず、
「予約は16:15からで…まだ時間があるので上の階を覗いても大丈夫ですか?」
と返す。
“どうぞ、ごゆっくりご覧ください”と笑顔で見送られ二階への階段を登る。
クリスマスが5日後に迫っていたこの日、会計に並んでいる女の子達の列は階段にまで及んでいた。
不思議とカップル連れが一人も居なかった。
確かに、この店は東京における“ロリィタ向けカフェ”の鉄板だし(あのファッションは自分の為にしか着られない。世の男性が全員我々に寛容かと言われたら…ザンネンながら違うのだ)そう考えるとカップル向けの場所、とは少し違うかも知れない。
『自分の為に来るカフェ』
と言った方が正しいのかもしれない。
2階はギャラリー兼、アクセサリーや表参道店でのみ取り扱っている茶器などのショップになっている。
他にはなかなか無いラインナップなので、見ているだけでも目の保養である。
お店をひやかす為だけに入るのは余り推奨される事ではないが…。
こういう時、せめてものというのでギャラリーの出入り口付近にあるガチャガチャを見る。
このアクセサリー店のシンボルであるロゴが刻印された板チョコレートの図案やホイップクリームとケーキの図案の缶バッジがランダムで当たる物が上段、限定の図案のマスキングテープが下段…など500円のロマンがこの四角い箱に詰まっている事を改めて思い知らされる。
それは、どのカプセルトイにも言える事だが。
さて、カフェの予約時間ちょうどになったので階段をゆっくりと駆けおりて入口へ着く。
「1名様ですねー」
と可愛いエプロンをなびかせた店員さんに案内されて“カワイイ”の世界へ。
金平糖や琥珀糖をたまに光に透かしてみる子どもが居るが、もしかしたらあの半透明な世界の内側はこのように出来ているのかも知れない。
吊り下げられたミルクピッチャーを模したピンクやラベンダーのカラフルなランプが吊り下げさられたメインテーブルを筆頭に、区画によって和風の個室だったりビスケットを模したテーブルや壁で出来たヘクセンハウスのような一空間あり…と店内そのものがデコレーションケーキのような空間に座る。
今日はミルクピッチャーの照明の下に案内され、メレンゲクッキーのような椅子に座る。
ネット予約でメニューは注文してあったのでそれが来るまで店内を見てボーっとしていた。
表参道や代官山など…大人の女性の為にあるような瀟洒な街は、時折“大人の少女服”を着た我々にも手を差し伸べる。
代官山にもロリィタのショップが今もあるし、表参道には駅を出た時から紅茶屋に出迎えられる。
(先人たちの尽力に感謝だわ……)
と思いつつ、店内の写真撮影に勤しんだ。
そうこうしているうちにメニューが運ばれてきた。
この時、クリスマスメニューにはテディベアモチーフのものと雪だるまモチーフの2つがあり私が頼んだのはオートミールで出来たテディベアのクッキーが可愛いスイーツプレートだ。
ハートのチョコレートを抱えたクマのチョコレートムースと、ホワイトのアラザンが乗ったマカロンとサンタを模した苺…など店員さんに説明を受けている間ニヤケを堪える羽目に陥る程可愛かった。
オートミールの小さいクッキーが上に二つ乗り、ココアで顔が書いてあるティーラテ(これもテディベアのモチーフである)を啜りまずはマカロンに手を伸ばす。
このカフェは単に甘味を摂取する為来るのではない。
人によっては(あ、私だ)明日を生きるカンフル剤を取りに来るような気持ちで来店する人も少なくないだろう。
手に取り、しばらく迷ったがテディベアのクッキーを頂く。
キャラクターや可愛い物を模したクッキーを食す時、一瞬だけ申し訳なさを感じるのは私だけでないと信じたい。
その年も、まぁ色々な事があった。
けれど終わり良ければすべてよし、という心持で来年の年末もちょっといいカフェでお茶をしよう……とお会計を済ませる時に思った。
執筆 むぎすけ様
挿絵 シエラ様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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