亡霊が見る夢 第6話(喜劇終幕)
それから数十年の時が流れた。
一つの家族が、年老いた国王と近代装備に身を包んだ兵士に護衛され、棺を運ぶ馬車の後に続いた。
向かう先は墓地だった。
墓地に到着すると、あらかじめ掘られていた穴に棺を安置し、兵士たちがそれに土をかぶせてゆくのだった。
墓地の敷地には大勢の人が押し寄せており、亡くなった人物の偉大さを物語っていた。
この者の死を神は祝福せず、ただ暖かい日の光が降り注ぐだけの明るい墓地だったが、誰一人、涙を流すものはいなかった。
国王
「見よ、この者は私たちに死を恐れることなかれと身をもって教えてくれた。彼の生涯がある以前、人は死後天へ旅立つ、または無に帰ると唱える者が多かったが、彼の示した人の死とは、枯れていく花と同じように、種子を残すものであることを教えてくれた。彼は、その功績を私が讃え、没落貴族の身から元の貴族の身分を授けてやろうとしたが、断られてしまった。全く、国王からの贈り物を拒むなど無礼にもほどがある。が、彼は多くの人と対話をして、知見を広げてゆく人生に生きがいを見出していた。そして、彼の仕事は国内で困っている多くの人を救い、彼は生涯その職務を全うした。一度貴族の身を体験したのか、窮屈な貴族よりも自由な平民であることを選んだのだ。国王と言う自由の利かない身分である私は、彼をうらやましく感じる。そして今日、彼の人生の幕が閉じた。彼の喜劇はこれにて終幕、皆の者、今日あった出来事は忘れて、日常に戻るのだ。どんな英雄にも、どんな貴婦人にも、皆さん自身にも、そして私にも、やがては等しく死が訪れる」
国王の葬儀の言葉を聞いていたトーマスとオリヴィアによく似た紳士の姿があった。
彼はトーマスによく似た紳士だったが、オリヴィアの影響かな、少し華やかな印象を受ける人物だった。
物腰は柔らかく、表情も柔らかい、そして父の死を唯一嘆いている存在だった。
彼こそが、トーマスとオリヴィアが残した種子だ。
が、この物語の主役はあくまでもトーマスであり、トーマスが死んだ時点で終幕である。
トーマスの種子たちは幕が閉じた向こう側で変わらず日々を過ごしてゆくが、それはまた別の話だ。
そんなわけで、トーマスの棺に兵士たちが土をかぶせ終えたわけで、この話も終わりだ。
願わくば、あなたの心の中に何らかの種が残ることをお祈りしています。
制作 秋照様
投稿 笹木スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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