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『エンドウォーカー・ワン』第23話

「……」

 コクピット後部の兵装担当席に乗り込んだイリアだが、すぐに機体とリンクしようとはせず、兵装や電子機器にエラーが表示される。

「どうした、ベータ。魔力を使い過ぎたか?」

 ベルハルトは黄金色の瞳で低く重心を下げた敵機を睨みつけたまま相棒にたずねる。

「ううん、平気。だけどあれは……お父さん――リカルドの部下なんだよね」
「ああ、俺達に立ち塞がる『敵』さ。反応速度を見るに、正規軍より厄介だぞ」
「それでいいの? あなたの大切な人の肉親なんでしょ?」
「違うっ」

 青年はまるで反抗心丸出しの少年のように感情に任せて吠えた。
 だが、それは彼の中に宿るもう一つの魂がそう言わせているだけだ。

「ベルハルト、泣いてるの?」

 イリアとかたったベータは身動みじろぎ一つせず、極めて穏やかな口調で彼の顔を覗き込もうとする。

「こんな感情、知らなければよかった。本当に……」

 彼の苛烈な言葉に感情の湿り気が生まれる。
 思い出すや大陸戦争終結の年――


***


「長期化したこの度の戦争で抗戦を続けるサウストリアに対し、北は終止符を打つために首都への核投下を決定した」

 深夜、ブリーフィングルームに集められて寝ぼけ眼だった四人のハウンズ隊員たちはリカルド・トロイヤード少佐の言葉に叩き起こされた。

「発射予測地点はここより北西に存在するビルバレー軍事基地だ。私たちが一番近く、そして確実に任務を遂行できると判断された」
「でもよ、ハンドラー。平和ボケした首都の連中なんざ焼かれたほうがよくないか?」
「そうだそうだ! 俺たちが命張っているのに、戦争反対とか抜かしやがって。過去の敗戦国がどうなってるか勉強しろってんだ」

 二足歩行兵器WAWを主軸に構成されるサウストリア陸軍第44ハウンズ小隊の面々は少佐の言葉にいきり立ち、先ほどの眠たげな顔はどこへやら。血の気が多い彼らはぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。

「静かにしてくれ。落ち着け! ……よし、静かになったな。作戦を伝える」

 滅多に声を荒げない人間の一喝で場は静まり返り、リカルド少佐が咳払いをして照明を落とし、大画面モニタを操作し始めた。

「明朝0400時、ノーストリアビルバレー基地を強襲する。目標は地下に設けられた核ミサイル発射施設の破壊。当目標は「ボールアイ」による厚い防空システムが張られており、航空支援は期待できない。その為作戦は少数で超低空による侵入を行い、レーザー照射に警戒しつつ自動砲台群を破壊。パルスシールドに守られた巨大兵器を叩く。これを撃破できれば当作戦は達成したもの同然だ。回収はベータ班が行う」

 モニタに衛星からの情報が映し出され、各隊員の携帯端末にも転送される。

「首都1000万人の運命がかかっている重要な作戦だ心して挑め。以上だ」

 リカルドが席を立つと同時に隊員たちは一斉に立ち上がり右手を頭にあて、親指以外を真っすぐにしてサウストリア軍式の敬礼で指揮官を見送る。

「やれやれ、寝直す訳にもいかないな」
「スクランブル明けだってのによぉ、あーダリィぜ」
「コンディションは万全だとは言えませんね。『ベルハルト』様、どう思われますか」
「様付けはよしてくれと言っただろう、『ノイン』」

 散っていく他の隊員を「青色」の瞳で見送りながらベルハルト・トロイヤードが大きく息を漏らす。

「しかし、貴方の私のマスターでありオリジナルです。偽者フェイカーであるものが対等だとはとても――」
「ノイン」

 ベルハルトは普段部下には見せぬ柔らかい表情を浮かべ、続ける。

「確かにお前は俺のクローンだ。だが、こうして知性を宿し、独立した意思を持っている。それを偽りというには自虐が過ぎるとは思わないか?」
「ですが……」

 ベルハルトと容姿の似通ったノインの黄金色の瞳が遠慮気味に床を泳いでいた。

「いつか話してくれただろう。俺の故郷に行ってみたいと。戦争が終わったら、幼馴染を見つけて一緒に戻ろう。そしてそこでお前だけの人生を歩むんだ」
「私だけの人生――ですか……」

 ノインの表情がみるみる曇り、さらに顔は下を向いてしまう。
 ベルハルトはまるで実の弟を見守るように口から何も発そうとはせず、言葉を待っていた。
 耳が痛くなるほどの静寂が暫しの間流れる。

「……変な意味に取らないでほしいのですが、私は貴方のようになりたい。過酷な背景を背負いながらも皆を思いやり導く光のような存在の貴方にっ」

 ノインが心の内を吐露とろする一方で、ベルハルトは何故だか口元を緩めて「それは結構だが、女性の好みは一考の余地ありだな」と楽しそうに返した。

「そ、それはどういう……」
「隊の誰もが知っているぞ。ベータ班のあの子だろう? 少し子どもっぽいとは思うがな」
「それが良いんじゃないですかっ! あの低身長! 庇護ひご欲をそそる顔立ち! あのような子は他にはいません!」
「……ぷっ、はははッ」

 相変わらず真剣な面持ちで異性の好みについて語るノインにベルハルトが見せたことのないほどの笑みを溢した。

「やっぱりお前はお前だよ。俺じゃない」

 その顔は「ノイン」の脳裏に鮮明に残っている。


***


「……ベルハルト?」
「あの人は死んだ。この星アルター7に殺されたんだ。だから彼の記憶を継いだ私がベルハルト・トロイヤードとして生きるって……だけど、だけど……」
「しっかりしてっ。まずは目の前の敵を倒すんでしょう?」

 反対していたイリア――幼顔おさながおのベータは覚悟を決めたのか、細い指で彼の頬を撫でると座席に着いた。

「君で良かった」

 ベルハルトは瞼を一旦強く閉じると眼光鋭く「まずはリカルドの犬を鳴かしてやらねばなぁ!」と機体を急発進させる。

「『ノイン』、来ます」
「あれがベルハルトとイリア……。本物なのか?」

 彼の疑惑は76ミリ電磁ライフル弾が機体を掠めた瞬間、晴れることなく端へ追いやられるのだった。



  • 執筆・投稿 雨月サト

  • ©DIGITAL butter/EUREKA project

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