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つくしのうた

カランカラン…

「あれ?今日はつやこ居ないの?」

ドアを開けるなり開口一番。
なんて不躾なお客様でしょう。

「なんです。つくしじゃお嫌です。」

ここは場末のスナック。
つくしはここでお酒デビューとともに、こちらのバイトデビューをした、ぴっちぴちの女子です。
ぴっちぴちすぎるせいか、たまにこう言うお客様がいるのです。
お話が合わないとか、つやこさんがいいとか、ママがいいとか。
いいんですけどね!
つくし目当てで来てくれるお客様だっていますし。

「嫌なんてことないけど、いつもこの時間はつやこがいた気がしたから。気分を悪くしたならごめんね、つくし。」

「別にいいです。つくしとの時間も楽しくしてあげます。」

このお客様は田中さん。
つやこさんのファンの方です。

つやこさんのファンになるの、つくし、わかります。

美人だし、でもそれを鼻につけないし、物静かな印象があるれど、知的にたくさん話されて、つくしだってつやこさんみたいになりたいです。

歌も上手いし。
つくしは歌あんまり。
いいなあ、つやこさん。

「拗ねないでよつくし。とりあえず1杯飲みなよ。」

「ありがとうございます。田中さんのそう言うところは好きです。」

「現金なやつ…。」

田中さんに、お酒を1杯もらって喉を潤して、つくしはご満悦です。
つくしはお酒が大好きです。
つくしは時間制で雇われているので、別にお酒をいただいてもいただかなくてもお給料は変わりませんが、つくしはお酒が好きなのでそれでいいです。

「田中さん。今日はつやこさんに用がありました?」

「用はないけど、顔を見に来ただけかな。」

「つくしで残念でしたね。」

「そんなことないさ。つくしの顔も久しぶりに見られて嬉しかったよ。」

「ふふん、そんなこと言ったって、つくしの顔“も”って時点でつくしがついでなのは、全てまるっとお見通しです。」

「どこでそんな言い回し覚えてきたの。」

「菊池さんがこの間言ってました。」

「気に入ってるならいいけど、忘れていいよ。」

「気に入ってるのでまた使います!」

田中さんはそう言いながら、少し下を向いてふふっと笑ってます。
つくしは結構古い言い回しとかネタとか覚えるの好きです。

たまに使うと、皆さんの笑顔がとれます。

「田中さん、知ってるかもしれないけど朗報です。」

「なんだい。」

「なんと、つやこさんはちょっと時間が遅くなるだけで今日来ます。」

「それは朗報だね。」

「やっぱりそっちが本音ですね!」

つくしがほっぺをぷぅっと膨らませて言うと、田中さんは笑いながら自分の口元に手をあてます。
他のお客さんはほっぺつついてきたりしますが、田中さんは絶対触ってこないのでちょっと好きです。

ちょっとです。

カラン、カラン…

「おはよう、つくし。あら、田中さん来てたの。」

つやこさんが来ました!
今日もつやこさん、いい女です。

「こんばんは、つやこ。ちょっと前に来たよ。」

「つくしが立派に田中さんのお相手してましたよ!」

「えらいわね、つくし。」

クールビューティな、つやこさん。
つくしを撫で撫でしてくれます。

「そうだつくし、一曲歌ってよ。」

「田中さんのリクエストにお答えする気分じゃないです。」

「じゃあ、私のリクエストなら歌ってくれるかしら?」

「それなら仕方ないかもしれないです。」

そう言いながら、つくしはカラオケのリモコンを手に取ります。
最近流行りの歌を1曲。
つくしはここで何回か聞いた昔の歌以外、最近聴いてる歌しか知らないです。

「相変わらずの貴重な歌声だな。」

「皮肉ですか!」

「褒め言葉だよ。」

「つくし、声が可愛いから何歌ってても可愛いわよ。」

「フォローになってないかもです。」

つやこさんはもちろん大好きですが、つくしはこの2人、嫌いじゃないです。
なんて言うんですかね。
なんかこの、お二人の独特なゆったりとした空気、つくしは好きかもしれません。

2人は、そういう仲になったりするのかな・・・?

「どうしたの、つくし。」

「何でもないです。もう一杯飲みたいです。」

「ですって、田中さん。」

「聞くんじゃなかった!」

つやこさんのお酒もいれて、もう一回3人で乾杯して、今日という素敵な夜もふけていくのでした。

また来てね、田中さん。



・執筆 かおすけ
・©DIGITAL butter/EUREKA project


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