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あいいろのうさぎ  短編集

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「あいいろのうさぎ」として活動している私が日々書き溜めている短編をまとめたものです。恐らく文字数は1000字程度なので、サクッと読んでいただけると思います。 巡り合ったあなたの時…
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2023年7月の記事一覧

ドルフィンネックレス

ドルフィンネックレス

ドルフィンネックレス

あいいろのうさぎ

 なぜ私は水族館にいるのか。

 そんなことを自問自答してしまうほど、この場を楽しめていない。まあ、「なぜ」なんていうのは簡単な話だ。これが学校行事で、参加しなければ欠席扱いになってしまうからである。楽しめていない理由も歴然としている。そもそも水族館に興味のない私はそれを楽しもうという気もない。同じ班のメンバーも遠足にワクワクしないタイプの人間で、言って

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旅路に、幸あれ

旅路に、幸あれ

あいいろのうさぎ

 あなたは沢山の負の感情に触れて帰ってきたのですね。

 分かりますよ。……いえ、こうして目の前に立つまで分からなかったことを考えると、やはり私は母親失格でしょうか。

 あなたは人間界で沢山の感情に触れた。その中には楽しい、嬉しいといったものもあったでしょうが、辛い、苦しい、妬ましい、憎らしいといったものの方が多かったようです。

 人間の世界には負の感情が撒菱のように転がっ

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今夜は熱帯夜

今夜は熱帯夜

あいいろのうさぎ

 連日、日中の気温は三十度を超え、当然のように訪れる熱帯夜。まだ七月、されど七月。太陽は惜しげもなく煌々と照りつけ、その熱を置き土産に去っていく。もはや月でさえ熱をこちらに伝えてきているんじゃないかと勘違いできるような生温い風が吹く二十時。

「なんでこんな暑いのに外でなきゃいけないの……。家でまったりのんびりゲームにでも興じればいいじゃない……」

「そんなこと言ってられない

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深紅に願う

深紅に願う

あいいろのうさぎ

 その赤い瞳を見た時、最初に抱いたのは恐れだった。淡雪のように真っ白な肌とは対照的に燃え盛るような赤い瞳。あるいは鮮血のようなそれ。自分を吸い込んでしまうのかと錯覚するほどに見開かれた赤に、恐れを抱かない方がどうかしているとさえ思う。

 夜風が吹き荒び、彼女のぬばたまの黒髪を乱す。それでもその赤は、じっとこちらを見据えて、淡雪に閉じられた唇をゆっくりと開き、脳に直接響くような

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