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過ぎ去りし頁を求めて ~文学と私~【谷崎潤一郎編 人々よ、愚であれ】 私がこの作家の本を開いたのは高校生の時であった。 白状すると10代の少女によくある背伸びに近い感情で、帰りのバスを待っていた時、同級生たちが当時流行っていた少女漫画に黄色い声を上げるのを尻目に“刺青・秘密”と印刷された赤い表紙の文庫本のページをめくる。 最初に収録された短編・“刺青”から、引き込まれた。 孤高の刺青師が己の“恋“を少女の背中に彫り込む物語である。 女郎蜘蛛、という所もこの
過ぎ去りし頁を求めて ~文学と私~【パノラマ島白昼夢 ~現世は夢、夜の夢こそまこと~】 タイトルの通り今回は江戸川乱歩の話である。 彼の短編集を読んでいると、私は妙にケバケバとした色彩の織物が継ぎ接ぎに繋がった一枚の着物が頭をチラつくのだが(本当にそんなモノがあるのかはさておき)。 それ程までに各作品の世界観は独立していて、情景描写は文字だけで人を震え上がらせる魔力がある。 私が読んだ事があるのは『人間椅子』、『屋根裏の散歩者』など初期から中期の作品に限られる
過ぎ去りし頁を求めて ~文学と私~【森茉莉編 甘い蜜の王国】 森鴎外という作家をご存じの方は多いだろうか。 『舞姫』という作品は高校の国語の教科書に載る古典の名作なので、普段本をあまり読まない人でも名前だけは聞いた事のある作家かと思う。 実は『横浜市歌』の詞もこの明治の文豪の作品の一つなのである。 鴎外には4人(正確には5人だが、一人は早くに亡くなった)の子供たちがいて、文学や医療の発展に従事してきた父の背中を見て育った為なのかそれぞれの経歴を見ると随筆家にな