『舟』

皆が死に向かって舟に乗るなら
私は生に向かって溺れよう
肺にLCL水溶液を満たして
間違えた
これはただの潮水だ
肺に満ちるは凪の水面の月の水

舟が輪廻の渦に沈むのなら
私は海底に縛られて永遠に月を舐めよう
死にゆく神経と生まれ変わり続ける血液
私は神経 けれど生に向かう
産まれてすでに狂った神経 死に刃向かう

血液のあなたたちとは元から袂を分かち合った仲
満ちていたはずの血はぼたぼたと音もなく膝の上に落ちたから
諦念の多面体を嗤って手を振る渦の中の人々
海底の神経たちは喉を振り絞って
嗚呼 嗚呼
咆哮は金網を通り過ぎることもできずに
死の声
怒りという死の声

握り潰した人間から舟に乗る
違うんだ 違うんだ
本当は私も舟に乗りたかった
神経にいくら色を塗りたくっても
その色は潮水に溶けて透き通る
舟は輪廻の風に乗り
カラカラと水底の生が手を伸ばしてくる

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