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演劇と共に歩む豊岡のまちづくり

〜演劇には、外なる他者を受け入れ、内なる自己を表現する力を育む土台がある、
消費されない地域作りの具体的な戦略とは〜

ほどよい距離感の豊岡の人たち

豊岡演劇祭にサポーターという形で参加して、豊岡演劇祭を通じて、地域を盛り上げようとしている地元の皆さんと交流させていただく中で、ここにまた来たいと思わせてくれたのは『ほどよい距離感でそこにいてくれる、控えめだけど優しく、自律した人々の存在感』でした。

観光地のイベントに興醒めするケースとして、都会の大企業や大手代理店などの意図で体裁よくキレイにつくりあげられてしまい、地元の人たちの意志や“らしさ“が見えないことがあります。一方で、豊岡演劇祭は、それぞれのエリアの魅力を自分達で発掘して、演出して、演じきるという、まだ荒削りかもしれないけど、そこに関わる域内外の人たちの今できる全てが現れているなと感じました。
来年、再来年、さらに10年、20年、その先に、どんな世界都市になっているのか、一緒に見ていきたい、そう思わせてくれる大交流の舞台が豊岡にはありました。

そんな地元が消費されないイベントが作り上げられる背景には、やはり緻密な戦略があったようです。

戦略1、小中学校での演劇授業

豊岡では学力アップを目指した「演劇教育」が2015年より導入された。この演劇教育は豊岡市に移住し、市の文化政策担当参与に就任した演出家の平田オリザさんがサポートで関わっています。

授業の中では、表情やボディランゲージのみを使い、喋らずにコミュニケーションをとったり、グループで話し合って一つの劇を作る。例えば、子どもたちが役割を分担し、「転入生が自分のクラスにやってきた」場面の設定やセリフを考えて演じる授業などがあるそうです。
(参照:飛んでローカル豊岡 https://tonderu-local.com/

平田さんが注目しているのは『非認知能力』。非認知能力とはIQテストなどでは測れない能力で表1のようなものを指す.多様性、国際化、ボーダレス化が進む現代では、この能力が生きる力として重要視されるようになってきています。

日本生涯学習総合研究所によると、非認知能力の代表的な能力には以下のものがあります。

【非認知能力の例】
* 協調性
* コミュニケーション力
* 主体性
* 自己管理能力
* 自己肯定感
* 実行力
* 統率力
* 創造性
* 探究心
* 共感性
* 道徳心
* 倫理観
* 規範意識
* 公共性

数年後には、演劇教育と学力テストの相関を測定するそうで、全国的に演劇教育が注目されていくきっかけになるかもしれません。

実際に豊岡では、過去にはAO入試を受験する地元の学生はほとんどいませんでしたが、今では合格者が40名近くにまでなりました。自分を表現する力が学生達の中に着実に培われているようです。

戦略2、芸術文化観光専門職大学の開校

2021年(令和3年)4月、兵庫県豊岡市山王町に芸術文化観光専門職大学が誕生しました(https://www.at-hyogo.jp)。卒業すれば、芸術文化学士(専門職)、または、観光学士(専門職)のいずれかの学位が授与されます。初年度入学試験の令和2年では、兵庫県内が18名、兵庫県外が73名が合格し、全体の志願倍率は7.8倍でした。演劇、観光を学べる日本の公立専門職大学は豊岡のみです。

今回の豊岡演劇祭りの中で行われた『豊岡ファンミーティング』、そこで芸術文化観光専門職大学観光学士コース2年生、粒耒楓彩さんが演者として豊岡の街づくりについて語っていたことが印象的でした。
(期間限定でファンミーティングの動画視聴できます。)

従来のように外部から大きな資本を入れて、既存のモノや場所を取り壊し、観光のための効率的で経済合理的な観光資産を作りだすことではなく、すでにそこにある文化、伝統、環境、人といった無形の資産がもつ本来の資質を掘り起こし、磨いていくこと、それがこれからの観光のカタチだと思う

豊岡ファンミーティング2022での粒耒楓彩さんのお話より
豊岡ファンミーティング2022のトークセッション:左から2番目が粒耒さん、3番目が田口さん

粒耒さんの学びの深さにとても感銘を受けましたが、彼女のように演劇や観光について深く掘り下げていく人たちが毎年100人近くも豊岡に学びに来る、そして、観光の根本として地域本来の資質を掘り出す心で観光事業を作ろうとする人たちがいて、特化した大学を作るということの効果を実感しました。

さらに副次的な観光への効果としては、大学があることにより、入試、入学式、演劇祭、卒業式のタイミングで学生さん達の家族が全国からやってくるようになったこと、海、山、古都、温泉がひとつの町で楽しめる豊岡の魅力が学生さん達を通じて、少しづつ全国に拡がっていることを感じました。

大学のカリキュラムの中には、地域リサーチなどの実践の学びも多くあるそうです。学生さんのヒアリングのおかげで、美しい出石の城下町は、観光バスの動線と駐車場のために、街並みを変えるのではなく、効率性は犠牲にしてでも、この場所のもつ資質を生かすという選択をしたことを、地元の観光ガイドの加藤さんが誇らしげに語っている姿は、わずか2年でこの大学が地元に新たな価値を醸成し始めていることを垣間見る時間でもありました。

出石の名ガイド加藤さん、この町の歴史と文化と人を繋いでくれるお話が面白いです♪
出石で”うだつがあがる”の実物(左右の屋根瓦!)を発見!
鞄の町、豊岡のルーツは柳行李。西洋風のスーツケースになった柳行李の深い味わいにほれぼれ❤︎

戦略3、豊岡演劇祭

街をあげた演劇教育、専門職大学による人材の流入、これらを統合していくのが豊岡演劇祭であり、2022年の来場者数は1万人を超えました。

演劇祭のチケット手配や交通や演目の内容等々、演劇祭にまつわる相談所(フェスティバルセンター)では、普段は直接会話する機会の少ない学生さん達と嬉しそうに会話をしている地元の方や観光客の方々の交流が拡がっていたり、町のあちこちで行われる大道芸に足を止める時間は、足早に効率的に観光地を通り抜ける消費的な観光の形とは一線を画す豊かなものでした。

2022年の演目数は96演目で、強天児牛大(あまがつ うしお)さん主催の山海塾、平田オリザさん主催の青年団の公演もあり、全国から18000人強の演劇ファン、豊岡ファンが集まりました。

豊岡かよっのワンシーン(©️igaki photo studio 提供:豊岡演劇祭実行委員会)
日本文学盛衰史のワンシーン(©️igaki photo studio 提供:豊岡演劇祭実行委員会)

ナイトマーケットでは、フェスティバルセンターで実習を行う学生が中心となり、商品ポップからディスプレイ、販売までを行いました。販売のみではなく、大道芸パフォーマンスへの誘客を行うなど、積極的に観光客、地元客とコミュニケーションをとる光景を見ることができました。

また、豊岡演劇祭応援コインのチャージ場所であり、相談受付も兼ねてのブースということもあり、ご年配の方には馴染みの少ない、電子マネーの説明も積極的に行うなど、学生達は、地域、観光客とのハブとなる存在であることも見てとれました。

城崎国際アートセンター元館長で、豊岡演劇祭実行委員の田口幹也さんにこのようなコメントをもらいました。

今回の豊岡演劇祭2022は2019年度に実施したプレ的な第0回を含めて、3回目となるが、一昨年はコロナで半分以下のキャパシティでの開催、去年は中止ということで、実質的には初めてと言えるフルキャパシティでの演劇祭でした。また、専門職大学の学生が参加する最初の演劇祭でもあります。
ある程度、来場者や市民の方々に、豊岡市が目指す、「まちづくりと連携した演劇祭」というのは理解いただけたのではと思います。
来年度は、より演劇祭を積極的に活用してくださる方が増えるのを期待しています。

田口幹也さんのコメント


ナイトマーケットで活躍する学生スタッフ(©️igaki photo studio 提供:豊岡演劇祭実行委員会)
豊岡市内のナイトマーケットも大盛況でした(©️igaki photo studio 提供:豊岡演劇祭実行委員会)

戦略が混ざりあって、相乗効果を生んでいる

3つの戦略(小中学校での演劇授業、芸術文化観光専門職大学の開講、豊岡演劇祭)が合わさって、年代を問わず、演劇によってまちづくりが進んでいることが分かりました。

これらは、10年前から戦略的に一歩づつ積み上げられてきたものでした。演劇を通じた豊岡のまちづくりには、教育と実践を繰り返しながら、個々がそれぞれ成長する機会があり、一過性のお祭りやイベントとは違う、魅力的な人づくりの場が醸成されています。魅力的なまちとは、一過性で終わる印象ではなくて、そこに集う人たちがうみだしつづける永続的なエネルギーなんですね。

田口幹也さんにまちづくりについても、伺ってみました。

豊岡は、『小さな世界都市(Local&Global City)』を目指しています。年齢、性別、国籍に関係なく、それぞれやりたいことができるまち、そしてそれをみんなが応援していくような活気ある地方都市が理想です。地域の風土、伝統文化は尊重しつつも、価値観含め常にアップデートされている。それを市民が誇りに思っているようなまち。というのをイメージしています。

田口さんのコメント

豊岡演劇祭を支えている皆さんに共通しているなと感じたのは、みんなが舞台に立っていて、楽しんでいること。今この瞬間を超えるパフォーマンスを目指して、一歩でも前に進もうという前向きなエネルギーがあることでした。
小さな世界都市の歩みはもう始まっているようです。

豊岡は演劇祭以外にも、山があり、海があり、豊かな自然の恵みと文化を楽しむ人たちがいて、一年中楽しめる場所です。興味を持った方は、ぜひ一度訪れてみて欲しいと思います。もしかするとうっかり、来年の豊岡演劇祭の舞台にあなたも立っているかもしれない?!

豊岡での地域通貨の使われ方について

今年の豊岡演劇祭から、新たな取り組みとして共感プラットフォームeumoが導入され、地域通貨『豊岡演劇祭応援コイン(CLAP:拍手の意味)』の流通が始まりました。
CLAPは地元の約30の飲食店等で利用できます(2022年9月現在)。

演劇祭では、CLAPが利用できる地元のお店に足を運び、地元を盛り上げる加盟店の方と交流するきっかけづくりとして、アプリで演劇チケット購入された方に購入額の10%をCLAPで還元する試みを行いました。実際には、CLAPをチャージした約50%の方が演劇祭期間中にこのCLAPを利用してくれていました。
また、フリンジアーティストの方々の支援としてもCLAPを配布したことで、フリンジが行われたエリアにある飲食店では、CLAPの利用が高かったことからもCLAPを通じて、出演者、観劇者、地元の人々の交流のきっかけになっていたのではないかと思います。

さらに、演劇祭期間中には、約450名がCLAPのユーザーになってくれたことで、来年以降は、例えば、CLAPを使ってフリンジアーティストに投げ銭を贈るなど、参加者同士が互いに応援しあいながら、大交流の舞台を楽しんでいける仕掛けを模索していきたいと思います。
また、かなり広範な会場で開催される演劇祭は、二次交通の問題を解決する必要があり、シェアライド等にも活用できるのではと期待しています。

地域経済に対して、お祭りが終わった後も、人と人を繋ぐプラットフォームとして、通貨とSNS機能が有効活用されればと思っています。

豊岡演劇祭の拠点フェスティバルセンターのお隣にある加盟店、茶房やしろの女将さん
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eumoでは今後とも共感が循環する社会の実現に向けて活動してまいります。
共感コミュニティ通貨eumoの詳細はこちら。

豊岡演劇祭応援コインの詳細についてはこちら。


最後までご覧いただきありがとうございました!


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