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オペレイション・メンシュ

「たぶん最初のスカイネットだな」

 ブラコウスキはそう口にした。移民の血を継いだ彼は、いまでは特殊部隊からの生え抜きで作戦を指揮する。ミヒターの上司でもある。テント内は午前四時なのに蒸し暑い。

 ベルリンを中心にしてドイツ三十二箇所でテロに及んだのは介助ロボット《リラックス》だ。空港、老人ホーム、大邸宅でテロに及んだロボットらは周囲の人間を殺害して籠城し、要求を取った。内容は日本赤軍の恩赦から教科書の書き換えまで多岐だが、意味はないと上層部は考えている。シェルターで難を逃れた首相は伝令で特別命令を下した。

「今回の直接的なテロ犯に人間はいない。ロボットだ。だが数体を調べた結果、ロボットの暴走ではない。操っている奴がいる。三日前、日本人がスイス経由でドイツに入国した。我々はそいつが〈パペタリー〉の可能性が高いと見ている」

〈パペタリー〉。数年前に発生した、介助ロボットによる大暴動の黒幕と思しき人物だ。無線経由で日本中のロボットを暴走させ、二十万人近い犠牲者が出た。

「そんな奴がどうしてドイツに」

「〈ドイツのために快適な暮らしを〉だ。あの党が主導するキャンペーンに大規模な介助ロボットの導入があった。そして介助ロボットの主流はアジア勢だ。あの事件でクソほど日本製にはケチがついたが、それで輸出を諦める奴らじゃない。それに乗じて〈パペタリー〉が来独した」

 ミヒターはテントを透かすように外を見た。広がるのはシュターミット鉄道場の外縁。

「しかしなぜ鉄道場に」

「そこが奴の移動した最終地点だ。これは試運転だ。〈パペタリー〉がアジアマシンを完全に掌握した場合、次に盗られるのはヨーロッパだ。つまり、欧州が血の海になる。今回の作戦にマシンは関与させない。ヘリはなし、衛星もなし。この戦いは第一次世界大戦と地続きであると考えろ。作戦名はメンシュ。ここで我々が奴を捕らえる。作戦開始だ」

【続く】

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