ドラゴンリトルシガー1カートン3ミリ
出勤前にタバコに火をつけたら、景色がファンタジーになった。
「は?」
俺は混乱したが町の人のほうが驚いている。壺を落とす男もいれば知らない言葉で叫ぶ女性もいる。俺はとっさに路地裏へ逃げ込み、いつものクセでタバコに火をつけた。
今度はまた玄関だ。
「……そういう仕掛けか」
俺は頷いた。通勤途中でマンガを読んでいたのが活きた。ひとまずタバコとライターを金庫にしまい、俺は出勤した。
三日後の玄関。俺は登山用リュックとスーツケースにあらゆる物を詰め込んだ。もちろん予備のタバコとライターもスーツケースに入れた。改造エアガンまで買った俺は悠々とタバコに火をつけた。夜の十時。会社は悩んだが、有給を取った。
再び入れ替わったファンタジーの町は、ドラゴンに蹂躙されていた。
星がよく見える夜空に火炎が走る。三日前に見た気がする男女が叫びながら逃げていき、誰も俺を顧みない。どう見てもワイバーンみたいな奴が男を鷲掴みにした。
「畜生! ふざけんなこの野郎」
俺は男を食おうとしたワイバーンに飛びつき、飛び回る竜にエアガンを乱射する。スーツケースは弾みで転がっていき、石畳に尻から落ちた。すげえ痛い。男がワイバーンから逃れる。顔面にエアガンの弾丸を食らったワイバーンの瞳が赤く染まり、俺に顔を向ける。
「逃げるぞ!」
背中がズタズタになった男の腕を引いて走る。三日前と同じ路地裏に逃げ込むと、避難していた人がこっちに来る。とりあえず男を押し付けてから俺はポケットを探り、クセでタバコを吸おうとして……なかった。
ポケットが破れている。ワイバーンの爪か何か当たったか。俺はホトケに祈って石畳を蹴り、路地裏を飛び出す。タバコを落とした辺りにいるのは――女性。
ドラゴンと同じ色の皮膚で、瞳がドラゴンほども大きい女が、タバコとライターをいじくっている。もう片手にはスーツケース。その瞳が十メートル先にいる、俺を見た。
【続く】
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