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木々は枝より腐敗せる

 山杉翠やますぎみどりがたくさんの自分に気づいたのは、Vtuber【ベーン=ビー】の雑談配信を見ている最中だった。初めての高額スパチャを投入した時、画面に黄金の筋が走り、複数の投げ銭が行われた。最高金額だった。

「ベンちゃんありがと!」「いつもいつもいつもお世話になってるよ!」「前から疑問だったけどビーってなに?」「現出しました」「幹の人見てる?」

 スパチャが流れる。最高金額を叩き続ける寄付の数は百に昇る。

「あ……みんな、ありがとね……」としかビーは言えなくなったが、スパチャは続く。アカウント名はどれも身近なものだ。

 試しに翠はもう一度スパチャして「明日八時に渋谷行くよん」とコメントする。

 コメント欄は「うす」「会える?」「OK」「ここ日本?」で埋まった。

 翠は布団に入る。金と緑の靄が自分を通り抜ける感覚があった。朝早くに翠は出発する。勤務先はコーヒーショップ【フルーレ】で、渋谷駅は通り道だ。果たしてオフ会は成立するか?

 着くとすぐにわかった。背丈も顔も服装も違うのに、自分の集団が集まっている。

 場所指定こそしていなかったがハチ公前にいた。ポニーテイル、眼鏡、ヒジャブを身につけた翠。西洋甲冑姿、新選組のような己もいて閉口した。

 怖くなったので回れ右しようとした時、白衣の自分に肩を掴まれた。

「どこに行くんだい?」
 翠そのものの声で彼女はいう。背が高い。

 無視して歩くと、ぞろぞろと後ろから女性たちが着いてくる。全員自分だ。僧侶、迷彩服、アイスホッケーの服装までいる。勤務先までバレているのか?

 横に白衣の翠が並ぶ。

「来ないで」

「紛争地域に四年いた。医療資格も持ってる。おうい! 店までもう少しだ! 店長にも挨拶したいな」
 どうやらハーメルンよろしく自分たちを先頭にして移動してるらしい。警察官がこっちを凝視していた。

「どうやら厄介者扱いされてるな。急ごう」と白衣がいった。

【続く/800文字】

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復路鵜
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