奨励会を抜けてアヴァロンへ
「アヴァロンは三段階に分かれる。序盤は九掛ける九のボードでチェスに似たゲームが行われ、駒の半数が消滅すると中盤に入る。駒は生物であり負けたプレイヤーは食われる。中盤から戦場が五つへと増加する。ボードが中央だとすれば、上下左右に戦場が増える。ボードの面積も八十一掛ける八十一と広くなる。
平均して二十時間ほどゲームを進めると終盤に入る。終盤における戦場は十二面以上あり、駒の種類も倍増する。ここで発狂するプレイヤーも珍しくない。
ざっと駒を挙げよう。歩兵、馬兵、竜騎兵、砲兵、魔道士、間諜、王様だ。このゲームは外宇宙の神々が作り人間が改良した。王様がいい例だ。神は王様なんて概念を持たない」
やります。
「まだルールは半分も伝えてないが?」
あとは将棋と同じです。スガワラ先生。
「わかった。それと何度も言うようだが、私はスガワラではない。じゃあ、打とうか。ゲームによってどちらかが城へ入城できる」
……………………
歩兵馬兵砲兵魔道士銀砲兵間諜金間諜飛車王様金銀香車飛車角。歩。七百五十八手。先生、これが終盤ですか? 僕は勝てますか? 勝ち続ければ将棋に戻れますか?
「わからない。所詮私はただのチェス狂いだった。将棋はわからないが君にアヴァロンの見込みはある。将棋を捨てたらどうだ」
嫌です。僕は将棋に帰りたい。でも弱いんです。将棋に捨てられました。でもアヴァロンでは勝てる。こんなゲームで勝ちたくないのに勝てる。負けるのが怖いのに勝つのが鬱陶しい。八百八十二手。王手。
「アヴァロンではこれを旗取りと言うのだ。覚えておき給え」
スガワラ先生は食べられた。僕はテーブルを立ち上がる。古城の入り口が開き、僕は招かれる。
ここはイギリスの世界で四十三人しかプレイヤーが存在しない城。勝者しかいないここは天国だ。だけど僕は将棋の世界に戻ってスガワラ先生に会いたい。あるいはここにいるのかも。
【続く】(800文字)
Photo by Hassan Pasha on Unsplash
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