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【モータル・アンド・イモータル】プラス・ヴィジョン#5

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「ベイン・オブ・ソウカイヤ! ここでまみえるとはなーッ!」応じたのはクロスヘアー! 車を横滑りさせると、赤黒のモーターサイクルに衝突! ニンジャスレイヤーはトラックの荷台に飛び移り、モーターオトメは退避!「アマクダリ・セクト、野良ニンジャ、そして殺人鬼……根こそぎにする」

「貴様ら協力しろ! 俺がこいつを殺す!」怒のマルチプルが小太刀を振りかざすとニンジャスレイヤーに飛びかかる! カラテ! ニンジャスレイヤーのメンポから蒸気が吹き出す!「ニンジャ! 殺すべし! イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

「クロスヘアー=サン、ボウガンを貸してくれ!」ドバシが叫ぶと、ハンドルを握るクロスヘアーは渋い顔!「断る! 俺の得物だ!」「鉄パイプじゃ届かない! あの赤黒ニンジャ、あんたにとっちゃマズイんだろ!?」クロスヘアーは笑った。「お前本当にモータルか!? 使えェ!」

 ボウガンを借り受けたドバシは両腕でそれを保持! 大変重い! これを片手で軽々と扱うクロスヘアーの膂力……!「当たれッ!」射出したボウガンはニンジャスレイヤーの首筋をかすめる! ニンジャスレイヤーは相手のカラテを受け流しながらドバシを知覚!

 その瞬間ドバシは、奈落を覗いた。

 これまでドバシは多くの死を、シュラバ・インシデントを見てきた。五十と数年。だがドバシを……モータルの想像を遥かに凌駕した《暴力》が、針先のように陰々とし、太陽のように強大なものが輝いていた。モータルとイモータルにまみれた億兆の屍山血河がそこにある。

「オボボーッ!」ドバシは吐く! 過剰ニンジャ接触による重篤NRS症状だ! ボウガンを持つ手が震え、取り落としそうになる。「どうしたァ!」何も知らないクロスヘアーの声……「イヤーッ!」「イヤーッ!」……重いカラテシャウト……通行人の悲鳴とマッポピーグル……無意味……無駄……視界が歪む。

 もしここで諦めれば……どうなるだろう? 簡単だ。車から飛び降りてマッポピーグルの前に転がる。彼はタイホされるし怪我もするだろうが、身の安全は保証される。単なる重犯罪者として収監される。あるいは自我科に入院できるかもしれない。ニンジャからもモータルからも逃げだして。

 その世界にはタノシイもないしカワイイもない。暴力も死体もない。平穏だろう。そこでドバシは市街を逃走しながらたくさん殺したバカとして、他のバカたちと座りながら消滅を待つ。歩きもせずラッコのように眠り、人生をどこまでもやり過ごすのだろう。

 死ぬまで。

「貴様は頭が四つあるせいか矛盾しておるな。四方八方に手を出して私に行き着くとは。その首をねじり切って楽にしてやる」ドバシとマルチプルの様子を伺うニンジャスレイヤーがいう。彼はドバシも油断なく睥睨しており、次に動けば躊躇なくスリケンを投擲する。

「俺たちは」「平行する自我として」「ニンジャソウルを追うのだ」「貴様もカラテにする」マルチプルの首が交互にニンジャスレイヤーをなじる。だがダメージが大きい喜の声は小さく、いまにも消えそうだ。怒に語らせながら、マルチプルはニューロンへ潜行する。

 マルチプルのニューロン内部。喜は傷を負っており実際深手である。喜が発言した。(((俺のニューロンを食え)))(((だがそうするとお前は消え去るぞ)))哀が応答すると、喜は返した。(((ここが山場だ。何でも使え……あの赤黒ニンジャ相手に出し惜しみはできない。生き延びてこそのニンジャだ)))

 ほんの一瞬、黙祷というべきものがニューロンを満たした。そして怒が、哀が、楽が喜のニューロンを咀嚼した。喜は消滅し、マルチプルは目覚める。より巨大に成った。死んだ感情は生きた感情に吸収され、平行するニンジャソウルたちは微かにゆらめく。

 改めて怒が発言する。喜の首はそのままだが、そこに存在感は既にない。「いまからトムライを始める。供物はニンジャスレイヤー=サン、お前の首だ」

「犠牲者に捧げるのは貴様の首だ」ニンジャスレイヤーはスリケンを放つ。イクサが始まった。

「イヤーッ!」強靭なムチめいて腕がしなるとスリケン襲来!「イヤーッ!」マルチプルが弾くと同時に怒と楽が吹き矢を放つ! 身体と首へ別個に動き、まさに異形の生命体だ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがブリッジ回避と共に肥大化アームが上空から攻撃! 荷台がひしゃげる!

「イヤーッ!」横に抜けたニンジャスレイヤーがヤリめいたサイドキック! マルチプルがヘビーアームを戻すと瞬時に変化させたフレイルを振り回す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは下に回避! だが……!「イヤーッ!」腕を伸び縮みさせたマルチプルが掬い上げ追撃!

「ヌゥ―ッ!」以前よりもカラテの腕が上がっている。ここで確実にスレイしなければ、禍根。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはマルチプルの腕に乗り上げ瞬時に側転! 迫るマルチプルの心臓! 唸るニンジャスレイヤーの右腕! ゴウランガ!

「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーの腕は心臓を貫かない! 代わりに回避行動した彼をドバシの発射したボウガンの矢が掠めており、ニンジャスレイヤーはマルチプルを殺す代わりにスリケンを投擲している! 躊躇無し!

「アイエエエ!」悲鳴を上げるドバシ! だがマルチプルの脇腹から生えた第三の腕がそれをインターラプト! さらに第四の腕も再生成!「ハッハー匹夫ゥ! 俺がカバーする! 撃てェ!」楽のマルチプルが小太刀を構えて完全防御! アサルトシールドのドウグであるシールドも生成だ!「ウ、ウォーッ!」ボウガンを再装填したドバシが叫ぶ!

「ブッダミット! 死ねッ死ねェーッ!」ドバシがニンジャスレイヤーに射出! 射出! そして壁のようなカラテ!「ヌゥ―ッ!」唸るニンジャスレイヤー! 麻痺毒のせいで動作が鈍い!「ハーハーハ! 畜生俺も殺りてェなッ!」トラックが蛇行して野次馬を轢き殺す!「アバーッ!」

 ナムアミダブツ! モータルとニンジャが協力してのイクサとは……三位一体のように敵は統制が取れており、このままではニンジャスレイヤーでも打開することは困難! 時間をかければモータルの死傷者が増える……! だが!

 ドバシに異変!「グワーッ脳が!」「どうしたドバシ=サン! スリケンか!?」「あッ頭……頭が……!」呻いて助手席で丸まるドバシ!「イーヤヤヤ!」カラテ闘争を続けるマルチプルとニンジャスレイヤー。次第にニンジャスレイヤーの目に赤黒い光が……!

 ……一方廃ビル屋上では! そこにスコープで陣取るエーリアス・ディクタスがトラックを直視! そして自身のニューロンを集中! 彼女のジツはモータルのドバシを直撃! モータルにジツをかけるなど初! そして皮膚への接触履歴はあっても、直接触れていない状態でのジツなど初!

 全てが賭けでありこれでダメならナンシー・リーによる電子インターラプトの出番であったが、これが功を奏した! ドバシの頭蓋を通じて彼の脳を若干破壊しつつ、エーリアスは潜行する。無意識にドバシのニューロンを踏み潰しながら彼女はジャックを開始する。

(((オイ、あんた……俺だよ! 何やってんだ! 早く飛び降りろ!)))灰色の脳細胞の中で繰り広げられるジツ会話。(((ザッケンナコラーッ! 私には……俺には……! もう何もない! これしか無いんだ!)))ドバシの叫びに力がない。早くしなければ彼は死ぬ……!

(((だからってこんなことする奴があるか! 止まれ……!)))エーリアスの集中!「グワーッ!」鉄パイプを頭に打ち付けるドバシ!「ブッダミット新手のジツか!」クロスヘアーの声が遠い!(((ブッダファック! ブッダアスホール! もうニンポなんて嫌なんだよ……!)))

 エーリアスは集中を強める! 今すぐ黙らせる! 鼻血!「イヤーッ!」「グワーッ!」悶絶して更に鉄パイプを頭に打ち付けるドバシ! そしてドバシは更にアクセルを踏むクロスヘアーに殴りかかる! エーリアスは困惑! 彼女のオーダーは車から逃げ出すことだけだ……!

「なんだテメェ血迷ったか!」「アマクダリも! マルチプルも! まっぴらだ! 俺は俺のやり方で行く! もうニンポなんて嫌なんだ!」「面倒臭ェ寝てろォ!」片腕カラテのクロスヘアーにもドバシは勝てない。だが彼のボウガンなら……!

 赤い涙を流すドバシはボウガンを持ち主に構えて射出!「グワーッ麻痺毒!」クロスヘアーの足に刺さる!「ウォーッ!」麻痺毒によって動きが鈍いクロスヘアーを押しのけ、ドバシはハンドルを回す!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」四人がバランスを崩す!

 ナ、ナ、ナムアミダブツ! 無慈悲アクセルと無軌道ハンドルによってトラックは転倒! マッポたちは未曾有の大被害によってまだ追撃ならず!「ブッダファック、新手の敵か! 全員殺してスシにしてやる!」転倒寸前に車外に飛び出したマルチプルが絶叫! 周囲の瓦礫を吹き飛ばす!

「なぜ貴様はモータルを殺す」同じく脱出を果たしていたニンジャスレイヤーが決断的に近づく! 彼の目にはドス黒い光が! そしてマルチプルの頭部は蠕動しながら動きまわる……!「我々は!」「ニンジャだからだ!」「モータルは供物!」そして怒がもう一度。「それがマッポーだッ!」

 マルチプルが更に肥大化! 巨大化した腕はそれぞれフレイル状となり、怒が泡を吹きながら叫ぶ! 他の首々は巨大な仁王像だ!「ザッケンナコラーッ!」第一の腕が高速回転! 一瞬前までニンジャスレイヤーがいた空間を横薙ぎ! だが彼は跳躍済み!

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの決断的なチョップは怒の首を貫いて破壊! マルチプルの首元に着地したニンジャスレイヤーは、さながら不落の山脈に挑むロッククライマーの如く!「マッポーに貴様の論理は関係ない。それはモータルと何の関係もない!」

「ドグサレッガーッ!」哀の叫びと共に残る首が吹き矢射出! 怒が残した資源をかき集める時間は、ない……! 怒を破壊したニンジャスレイヤーをスモトリめいたヘビーアームが襲うが難なく回避! 彼は飛び離れると、メドゥーサめいてうごめくマルチプルに向けて、全身の力を引き絞る!

「イイイヤアアアーッ!」ゴウランガ! おおゴウランガ! ツヨイ・スリケンの複数枚連続投擲で全てのアームが切り飛ばされた!「グワーッ!」マルチプルがたまらず膝をつく! 残る頭部たちが変形して一本の巨大なフレイルに!「貴様も死ねーッ!」

 何というヤバレ・カバレ! だがニンジャスレイヤーはフレイルの攻撃をツルのように回避し、再跳躍!「Wasshoi!」哀のマルチプルをチョップで貫き、内部の心臓まで引き裂く!「サヨナラ!」マルチプルが爆発四散! 首達が各々の方角に吹き飛ばされる!

 ニンジャスレイヤーはザンシンをしたまま、残るトラックへと近づく。あそこにいるのは狂人とアマクダリのニンジャである。すなわち、インタビューだ。ニンジャスレイヤーはカラテ警戒を怠らずにトラックを覗きこむ。……だが不在。

 後にニンジャスレイヤーはナラクの手を借り、後続マッポと49課の眼を逃れながらくまなく探しまわった。だがアマクダリ・セクトとヨロシサンの追撃があり、ニンジャと狂人の痕跡を発見できなかった。同時にマルチプルの首幾つかが消えていることに気づくが、なぜそれが消えたのかについては推測しかできなかった。

 ヨロシサン研究者でないフジキドには知る由もなかったが、マルチプルは複数のニンジャソウルを寄せ集めて合成して作り上げた、キマイラめいたニンジャであった。マルチプルのニンジャソウルが常に議論していたのは、ニンジャソウル自体も複数であったためである。
 
 マルチプルは首の一つ一つに曖昧なニンジャソウルが封印されていたが、しかし実用段階ではそのファンシーさのせいで陽の目を見なかった。彼や他のバイオニンジャのデータを基にヨロシサンはカンゼンタイを作り上げることになるが、それは別の話だ。

 また彼が知らない点がもう一つあったが、それはマルチプルの首に残留したニンジャソウルが、未だ生存していたという点であった。だが飢えに苦しむ動物のようにやがてそれらニンジャソウルも消えるはず……であった。後にニンジャソウルは消滅し、フジキドの心残りは消えた。

 所詮、消滅への道のりが忌まわしいものであったに過ぎない。

【続く】

→ 6(完結)


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