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逆噴射発表、時空を超える探偵と機兵とうさぎと日常(20231215)



逆噴射二次選考発表

 

 それは急に来るものです。賞の発表……待ち望んでいた商品の到来……お酒の発送……急に逆噴射小説大賞二次選考が発表されました。
 ドキドキしながら自分の作品があるかどうかチェックした……と記したいのですが、実はこの時間にnoteを開いていたので、この作品の通知がありますよ! というマークがついていました。
 結果は……『土蔵は下へと旅を紡ぐ』が二次選考通過です! これは嬉しい! 現代ファンタジー、やるじゃない!

『白いあなたを探してわたし』が落ちてしまったのは、相対的に見て残念ではあるのですが、仕方のない面もあります。
 知人に『白いあなた』を見せてみると、「〈ボイノワ〉の表現がいまいち分かりにくく、何が凄いのか、何が革新的なのか感じることができなかった。現実世界に存在するノイズキャンセリングのほうが性能が良いのではないか。「世界を一変させたゲーム機――それは1080pの映像を出力!」というハッキリ言って時代遅れ感があり、作品を読んでいてかなり違和感があった」という感想を頂きました。感想が正しいので、私は顔にギュッと力を込めて、そうか……と考えました。
 作品を磨ききれなかったので、課題はまた後日検討していきます。『土蔵』も課題点が多いので、そちらも順次修正していきたいです。
 そして最終選考は来週末に発表のようです。早くない!?
 私も逆噴射ピックアップを予定しています。
 

ゴジラ観てきました


 ゴジラ! それは日本を覆い尽くす破壊の象徴であり海から来た生態とかよくわからない神話的生物……ゴジラマイナスワン観てきました。迫力の音響、敗戦直後という事前に予測がつかないテーマをうまく調理していました。脚本もなかなかひねってあり、膝を打つことも多かったです。役者たちの使い方も見事で、エンタメ的な世界観でありながら、「ああいう人たちもどこかにいそうだな……」とリアルさを感じさせてくれる手腕があり、見事でした。
 キャラクターたちが良いので、その上で全てを破壊するゴジラは人間を凌駕する凄い存在だし、戦後まもなくなので復員船とか軍艦もバリバリ登場してゴジラに対抗していてたいへんかっこよかったです。惜しむらくは私に軍艦とかの知識がないせいで、「あの辺で主砲が動くんだな」「副砲が多いけど全体的に角ばってるな」「軍艦は床がツルツルしてそうだ」ぐらいの感想しか出てこないことでした。私は無知を憎む……!

 他にも三冊ほど紹介していきたいと思います。

家族の哲学

坂口恭平『家族の哲学』毎日新聞出版、2015。

 躁うつ病である作家・坂口恭平が、鬱の状態に入ってから、だんだん躁の気分を取り戻していくまでの話。
 248頁の、坂口が小説を書きあぐねているシーンで、「この状態、この会話、それをそのまま、何の衒いもなく、ただ素直に書けばいいんだよ」とあるので、たぶんこの本では、作者が経験した実在の会話とか人間関係を書いてるのかなあ……と思います。これって私小説になるんでしょうか?
 鬱状態での坂口が家族と過ごしつつ、やや白昼夢的に、彼の実家の父親や母親、弟など、家族に関する話が挿入されていきます。後半まで坂口は鬱のまま、しんどい気分のまま過ごしているので、生活範囲が狭いし、考えることもネガティブです。
 妻子がいるので、息子と娘、奥さんのエピソードも展開されます……が、それほどエピソードが有機的に繋がるわけではなく、単に思い出した順に話を挿し込んだように見えるので、読者にリードを委ねすぎている感覚もあります。「家族」というテーマを打ち出したものの、ややぼやけて見える印象。
 後半、躁の気分が復活してきた時の、独白みたいな創作論は面白いと思ったものの、この本から初めて坂口恭平を読む読者にとっては、いきなり知らない人が話しだした、ぐらいの感覚かもしれません。他の坂口の小説やエッセイを読んでいると、「ああ坂口が躁に切り替わると出現する創作論ね」と納得できるのですが、急激にこれまでとは正反対な、鬱や創作に関する持論が展開されていくので、面白いといえば面白いのですが、やっぱり急すぎるかな……
 描写や物事は多いのですが、すらすらと読めてつっかえるところのない文章。そこまでトンチキな単語や文章もないので、(新政府いのちの電話とか運営してるけど)かなり読みやすいです。そのため、かえって作者が抱えている躁鬱の波がストレートに感じられる趣きもあるかもしれません。日常を素朴に追求していく作品。


ディスコ探偵水曜日


 舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』新潮社、2008。
 探偵が謎を解きながら時間や次元を操作する能力を習得していく話。
 2008年にハードカバー版で発売されました(現在は文庫あり)。当時は熱に浮かされたように読みましたが、再読してみるに、半分ぐらい忘れていました。発売から十年以上経ってんじゃん! 作品のスゴい点のひとつに、十年経ってもまったく文章が色褪せていない。スマホとかiPadとか登場してないのに面白さが減じていない。この本が去年辺りに発売されていても、違和感なく買うかもしれない……
 ジャンルはSFミステリです。日本で保護したこずえと住んでいるアメリカ人探偵ディスコは、魂と時間に関する事件に遭遇し、そのために福井県に行き、福井県で別な謎と遭遇する……というもので、入れ子式に事態が複雑になっていきます。ミステリとしての事件だけでなく、他人の時系列が追加されたり、違う場所の謎も解いたりと、どんどんエピソードが拡張されていくので、よく完結できたな、この本……! と思いました。
 エピソードの広がりや時系列の複雑さとして、かつてプレイした『十三機兵防衛圏』を思い出しました。『十三機兵』だと、メインキャラクターが十三人おり(サブキャラも多数)、それぞれがネットフリックス並みに情報密度の高い過去や個性を持っていて、神の視点から各キャラクターを動かしつつ、回想を交えて現代に立ち戻っていく……という構造です。なので、『ディスコ探偵水曜日』が時間軸で深みを持っているとすれば、『十三機兵』はキャラの広さが横に大きく広がっているといえます。

https://13sar.jp/

 話が脇道にそれましたが『ディスコ』に戻ります。
『ディスコ』は館ミステリとしては、《オーディン》だったり占星術だったりウロボロスとかユグドラシルとかカバラの樹など、「なんか聞いたことあるな」という神話概念がたくさん詰め込まれ、その上で多くの推理が展開されていきます。八人……九人ぐらい? 推理の着眼点がそれぞれ異なっていて面白いし、名探偵によるたくさんの推理量に耐えられるほど館ミステリとしてあれこれギミックが仕掛けられているというのも驚き。ハリーポッターの世界並みに新しい概念が出てきて推理がひっくり返されていきます。
 とはいえどんどん広がっていくギミックが面白いんですが、オーディンとか占星術の辺りから《》が多用されていたり、神話についての雑学が多いので、途中でヤサイマシマシラーメンを食べている気分になります。
 そして下巻は、これまで誰も想像しなかった未知の世界が生じます。小説でないと描けない情報密度で新しいことが展開されていくので舌を巻くしかない。時間……空間……私たちは空間について何ひとつ知らなかったことが明らかになり、探偵は館で能力に目覚め、ホテルとか和菓子屋とか往復しながらバチバチに悪と戦い、片手で時空をねじまげて空間と空間をくっつけて、過去と未来を往復しながら謎解きに挑む……
 うまく読みこなすコツは、難しい話が出てきてもあまりこだわらず、読み進めることです。登場人物たちは名探偵が多く、頭がいいので勝手に整理してくれます。
 そして小説史上、たぶん最強の和菓子職人が出てきます。名前は水星C。最初から最後まで謎の人物です。それでいて主人公のディスコに優しい。ジョジョの悪役並みに頭が良くて推理についてこれる人物なので、「こいつ最初からディスコのバディ役として設定されてるだろ……」とツッコミたくなりますが、でもいいキャラなので最終的には納得できます。
 また、舞城作品ではスターシステムとして「奈津川」とか「西暁町」「九十九十九」のような、他のシリーズでの主役級キャラクターや地名がどんどん出てきますが、今回もそれが出てきてニヤッとしてしまいました。でもまだ凮月堂ふうげつどう大学(大学が出てくるとだいたい舞台になるところ)の概念は登場していないみたいですね?
 白眉としてはSFとミステリを組み合わせたことにより、「この能力はこうこう応用できるがこの辺はNGのようだ。これなら可能でこれは不可能だ」と読みやすい範囲できっちり検証していること。スタンド使いのマニュアルかな? ってぐらいキッチリまとまっています。
 ミステリとして面白く、時間論・空間論の本として読んでも価値のある本のように思いました。面白かったです。



朝比奈うさぎの謎解き恋愛術

 柾木政宗『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』新潮文庫NEX、2018を読みました。
 えっ! この状況から保険に入れるんですか!? という比喩を使いたくなる破天荒なキャラクターたちから繰り出される、割と堅実なトリックたち。ミステリ恋愛です。私はミステリや謎解きが出てきても大して考えないで「うーんよくわかんないな!」とどんどん頁を進めてしまいます。特に推理とかしないしどんでん返しも「フーン」で終わるので、何も考えないでミステリを読んでいます。君……どうしてミステリを読むの?
 そんな私の性格でも楽しめるミステリでした。まず他の作品と何が差別化されているかというと、キャラが濃い。謎解き役にストーカー美少女を持ってきたところ。いや最近だと……ヤンデレ探偵とかいるのかもしれない……女子高生シャーロット・ホームズとかいるし……彼女はヤク中だけど……

https://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/6031901

 美少女はとにかく主人公が好きなので、あらゆる手段を使って自分と主人公の仲をこじつけようとしてきます。
 主人公の職業は探偵なんですが、探偵業がそんなに有能な方ではなく、成人済みなのに姉の刑事(姉の刑事……)をお姉ちゃんと呼ぶ存在。
 姉も姉で弟に気安い感じで接するし、うさぎは主人公にゾッコンなので一種のラブコメ空間が出現します。なので私のようなミステリ初心者でもスムーズに読めました。まあラブコメがあっても人がバンバン死ぬんですが……
 好きな推理パートは過去編で、うさぎと出会う前に探偵が遭遇した事件(未解決)を、うさぎが安楽椅子探偵のように、話を聞きながら解決していくところ。あんた、血縁にイギリス住まいの自閉症探偵とかいないのかい……?
 続編も出ています!

 今回は以上です。二次選考は終わっていますが、逆噴射のピックアップも予定しています……!

《終わり》







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